「効果」を数値化するのは難しい
プロジェクト評価は数字より意思決定モデルをベースに
プロジェクトの効果については、数字を予測しようとするのではなく、効果の見通しが非常に不確かであることをまず認識する必要がある。
IT担当者以外にはあまり知られたくない事柄がある。
われわれIT担当者は、現在使っているプロジェクト評価手法は、ほとんど時間の無駄であるだけでなく、これらの手法は時に、われわれを誤った判断に導くことを率直に認めなければならない。
わたしが問題にしているのは、従来型の費用対効果分析だ。われわれのほとんどは何らかの費用対効果分析を利用して、どのプロジェクトに資金を投入するか、それらのプロジェクトにどのように優先順位を付けるかを判断している。こうした分析の手法には、IRR(Internal Rate of Return:内部収益率)法、NPV(Net Present Value:正味現在価値)法、回収期間法などがある。これらの手法にはちょっとした秘密がある。プロジェクトの費用は合理的に見積もれるかもしれないが、通常、プロジェクトの効果は明確には分からない。このため、IRRやNPVを計算するための正確な数字を用意するのは無理だということだ。このことは、売り上げ創出を目指すプロジェクトに特に当てはまる。
そのため、経験の浅い担当者は、費用と効果を推測し、プロジェクトが承認されるかどうかを見守ることになる。これに対し、ベテランの抜け目ない担当者は分析手法の裏をかき、IRR法やNPV法で十分に採算が取れるという評価結果が出るように効果を見積もる。
こうしたプロセスには不満な点が2つある。まず、費用と効果という観点では多くの場合、意思決定の際に考慮すべきファクターをとらえきれないこと。第2に、このアプローチでは的確な意思決定を行えるだけの情報がそろう前に意思決定を強いられることだ。
ここ数年、わたしはこの2つの難点を克服することを目指し、従来型の費用対効果分析手法の見直しを試みてきた。その結果、費用対効果に代わる意思決定モデルを利用するようになっている。わたしは主要プロジェクトごとに意思決定モデルを作成しているが、いずれも通常は以下の3つの入力を含んでいる。
- 費用
- 効果
- 考慮事項
われわれは費用の計算方法には精通しているため、わたしのモデルでは、費用を計算できるだけの情報がまだない場合以外は、この入力は変更しない。また、わたしのモデルでは、時間、リスク、柔軟性などの考慮事項がかなり重視される。例えば、「納期に間に合わなかった場合、効果が大きく低下するか」「このプロジェクトを実施しなかった場合、リスクが増えるか」「このプロジェクトは長期計画の実現に貢献するか」といった問いを考え、答えが「はい」であるなら、これらの考慮事項は、わたしのモデルで意思決定を行う上で最も重要な入力になるかもしれない。
プロジェクトの効果については、数字を予測しようとするのではなく、効果の見通しが非常に不確かであることをまず認識する必要がある。われわれが推測することにたけているとしても、プロジェクトの効果は、われわれのコントロールできない要因に左右されることが多い。われわれが新しい倉庫管理システムを導入するとき、製造/物流部門に、導入効果が表れるように業務プロセスの変更を強いることができるだろうか。できるという人がいたら、ぜひ方法を教えてほしい。わたしにはできたことがないからだ。わたしの意思決定モデルは、「効果はプロジェクトが進む中で明らかになる」ということを前提にしている。そのため、わたしはプロジェクトを、以下の2つの条件を満たすサブプロジェクトに分割するようにしている。1つは、中間的ながらも測定可能な価値を生み出すこと。もう1つは、費用、考慮事項、効果のより的確な定量化を可能にすることだ。
例えば、わたしは以前、会社の最高マーケティング責任者から興味深いアイデアを提案された。うまくいけば、顧客維持率を大幅に向上させることができるというものだった。われわれは一緒に従来型の費用対効果分析に着手した。わたしは費用については、80%くらいの信頼度で見積もりができると感じた。しかし、効果はまったく未知数だった。効果の数字を出すには、固定客の生涯価値を計算できる必要があった。また、この新しいプログラムによって、固定客数や取引期間がどれだけ増えるかも予測できなければならなかった。われわれにできるのはせいぜい当て推量だった。
そこでわれわれは、数字を作る代わりにモデルを作った。作るに当たっては、「顧客維持という最終目標に向けて、われわれが目指す効果を達成しているかどうかを判断するには、段階ごとに何をチェックすればよいか」を念頭に置いた。このアプローチから、われわれは中間的な成果物と効果を設定した。第1段階は顧客のセグメント化だった。セグメント化を行えば、各セグメントの顧客維持にかかわる基本的な定量情報が得られる。この第1段階で、われわれはダイレクトマーケティングの改善という効果を達成した。カタログやテレビ、ラジオ、紙媒体、インターネットと手当たり次第に広告を打つ代わりに、われわれは各セグメントに合わせて広告を展開した。その結果、コストを削減し、売り上げを伸ばすとともに、次の段階の費用、効果、考慮事項をよりよく定義するのに必要な情報を収集できた。
わたしの会社のIT運営委員会も、効果などを確認しながらプロジェクトを進めていくこの方式が気に入った。この漸進的なアプローチでは、リスクが軽減されただけでなく、IT運営委員会は、次の段階に関するわれわれの意思決定モデルが正しくなかったことが分かった場合、プロジェクトを打ち切ることができるようになった。
従来型の費用対効果分析は、単純なプロジェクトには有効だ。だが、わたしの経験では、費用や効果の正確な見積もりが困難で、考慮事項が重要な場合には、モデルを作成することで、より的確な意思決定を行える。
本稿筆者のニール・ニコライゼン氏は米HeadwatersのCIO兼戦略プランニング担当副社長。
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