各種あるシンクライアント実現方式の中で、自社のビジネス課題の解決にはどれが適しているのか? ガイドラインを提示するとともに、ユーザー意識調査の結果から読み取れる最近のトレンドを紹介する。
連載第2回となる今回は、前回「“再ブーム”のシンクライアント、その実現方式を理解する」で解説したシンクライアントの各方式をビジネスニーズの観点から整理するとともに、ノークリサーチが行ったシンクライアントに対するユーザー意識調査の結果に基づき、シンクライアントの現状と課題について考察したいと思う。
シンクライアントの導入が有効なビジネス上の課題としては、以下が挙げられる。
クライアントPCに保存された個人情報をUSBメモリで持ち出したり、同一クライアントPCを複数の社員で共有することによって生じる情報漏えいリスクに対処するためには、シンクライアントの導入は有効である。ただし、「One-To-One型」のシンクライアントはモバイル環境での使い勝手やセキュリティを考慮したものであり、クライアントPCそのものセキュリティリスクを考慮したものではないため、この目的には適さない。
社外に持ち出したノートPCの紛失や、外出先で不特定多数が利用するクライアントPCへアクセス情報を残してしまうことによる情報漏えいリスクに対処するためシンクライアントを導入するケースである。One-To-One型のシンクライアントは、まさにこうした課題を解決するためのものである。
アプリケーションのインストールやソフトウェア資産管理といったクライアントPCの管理コストを軽減したいというニーズであり、シンクライアントの黎明(れいめい)期からシンクライアント導入の最も大きなメリットとされてきた。ディスク装置を持たない「ハードウェアシンクライアント」なら、OSも含めソフトウェアはすべてサーバ側で保持・管理されるため、クライアント側の管理コストを大幅に減らすことができる。ただし、「バーチャルシンクライアント」は通常のPC上にハードウェアシンクライアントと同等の環境を仮想的に作り出す方式なので、運用方法によっては必ずしもこのニーズに適合するとは限らない。
自社のどの拠点・場所にいても同一のデスクトップ環境を再現したり、自宅でも社内と同じ環境で仕事をしたいというニーズである。クライアント端末がサーバとネットワーク経由で接続できる環境さえあれば、基本的にどこにいても同じシンクライアント環境を利用することができる。ただし、ネットブート型のシンクライアントではネットワーク経由でOSやアプリケーションをロードするため、広帯域のネットワークが必要となる。WAN経由でサーバと接続するような環境では、注意が必要である。
クライアントPCの高性能化に伴い、余剰なリソース(CPUパワーやHDD容量など)に起因する無駄な電力消費が発生している。シンクライアント専用端末はその点、ハードウェア構成がシンプルで余計なパーツを装備していない(ディスクレス、ファンレスなど)ため、通常のクライアントPCより消費電力を低く抑えることができる。ただし、通常のクライアントPCあるいはそれに近い構成の端末を使用するバーチャルシンクライアントやデバイスブートシンクライアントなどの方式は、この限りではない。
上記で述べたそれぞれのビジネスニーズと、第1回で説明したシンクライアントの各実現方式との間の相性を整理すると、以下のようになる。
情報漏えい防止(社内) | 情報漏えい防止(モバイル) | クライアントPC管理コスト軽減 | フリーアドレス、テレワーク、在宅勤務 | クライアントPCの省電力化 | |
---|---|---|---|---|---|
画面転送型 | ◎ | ○ | ◎ | ◎ | ◎ |
仮想PC型 | ◎ | ○ | ◎ | ◎ | ◎ |
ブレードPC型 | ◎ | ○ | ◎ | ◎ | ◎ |
ネットブート型 | ◎ | △ | ◎ | △ | △ |
One-To-One型 | △ | ◎ | △ | ◎ | △ |
ハードウェアシンクライアント | ◎ | ○ | ◎ | ◎ | ◎ |
バーチャルシンクライアント | ◎ | ○ | △ | ◎ | △ |
デバイスブートシンクライアント | ◎ | ○ | ○ | ◎ | △ |
◎:非常に適している
○:適している
△:あまり適していない
このように、ビジネスニーズによっては適さないシンクライアント方式も存在する。シンクライアント導入の検討に当たっては、まずは自社のビジネスニーズをしっかり把握することが先決である。前述した5つのビジネスニーズのうち、どれが本当に課題となっており、どれに優先的に取り組む必要があるのか。それをしっかり押さえた上で、それに合致したシンクライアントの方式、そして具体的な製品を選んでいくといいだろう。
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