アプリケーションの重要度判定は、あらゆる災害復旧計画の基本となるビジネス影響度分析作成の鍵となる。
ディザスタリカバリ(DR)計画立案関連の全作業の中で、最重要級といえるのが利用しているアプリケーションの分類だ。
アプリケーションの重要度判定は、あらゆるDR計画の基本となるビジネス影響度分析(BIA)作成の鍵となる。計画立案の過程で「データ依存性を考えた場合、最初にダウンさせるべきなのはどのアプリケーションか」「データの安全を守りながら簡単にアクセスできるようにするためには、どの程度のDR経費を費やすべきか」などの答えを出す必要がある。
中堅企業は、手始めにBIAアンケートを使うこともある。これは主に、業務に使っているハードウェアとソフトウェアを書き出した「はい」「いいえ」のチェックリストで、誰がどのアプリケーションを使っているかの情報も網羅する。手始めとしては結構だが、これには限界があると指摘するのはComputer SciencesのDR業務マネジャー、マイク・サマーズ氏だ。
「誰もが自分のアプリケーションは最も大切だと思っている。聞き取りを行って『あのアプリケーションは数週間前にダウンしましたが、何か問題はありましたか』と尋ね、その答えを聞くと大抵の場合、それほど大した事ではなかったことが分かる」(サマーズ氏)
どのアプリケーションが重要だと判断されたとしても、「計画がすべてだ」とサマーズ氏は強調する。「事前に計画を立てておくことだ。どのアプリケーションをどんな順番で落とすか、その場で考えなければならない事態は誰も望まないだろう。作業の根拠となるものが必要だ」とサマーズ氏。ほとんどの企業では業務管理職とIT管理職が、時に手始めとしてアンケートを使い、重要アプリケーションの一覧を作成している。
IT部門と業務部門の管理職が、真に重要なのはどのアプリケーションかについて同じ見解を持っていれば理想的だ。そして、ITコンサルタント会社のGartnerがITと業務の両部門の管理職約600人を対象に実施した2007年の調査によれば、実際にそうであることが多いという。
この調査では、いずれの管理職も電子メール、カスタマーサービス、バックオフィス、通信、Webサイト、注文入力・提出、CRMを、予期せぬ障害に見舞われた場合売り上げに影響する筆頭アプリケーションとして挙げた。
電子メールの場合、IT部門の管理職の52%が上位5位以内に挙げ、業務管理職の48%がこれと同じ見方をしていた。業務管理職の49%はカスタマーサービスを上位5位以内に挙げ、IT管理職は44%が重要性に関して同様の認識を持っていた。認識のずれが大きかった唯一のアプリケーションはCRMだった。重要度上位5位以内に挙げたIT管理職は29%だったのに対し、業務管理職の場合は40%に上った。
この調査で示された認識の一致はかなり意外だったとGartnerのDR業務担当調査ディレクター、ジョン・モレンシー氏は言う。「両部門の管理職が挙げた重要アプリケーションの80〜85%については、24時間以内に復旧しなければならないとの共通認識があることが分かった」
真に重要なのはどのアプリケーションかについて、IT管理職と業務管理職の認識が一致しているのは素晴らしい。しかし、検討すべき根本的な技術問題はまだある。一般的に、DR計画立案は中堅企業では特に難しいことがあると、エンタープライズ向けDRソフトウェアを手掛けるContinuity Softwareのギル・ヘクトCEOは言う。
「小さな会社がDRをうまくやるのは不可能に近い」とヘクト氏。2つの重要なアプリケーション間で、業務に影響する根底のデータ依存性を把握するためのスキルが小規模企業にはないことがある。例えば、ビジネスインテリジェンス(BI)アプリケーションからデータベースに入ってくるデータが増え、ハードウェアやストレージの設定変更が必要なほどの規模になる可能性があっても、それがDR計画には直ちに反映されないかもしれない。テストシナリオ上でさえも、こうした設定変更のせいで、BIアプリケーションとそのデータを処理するデータベースの両方の復旧時間が長引く可能性がある。
一方、Monster Cable Productsのオデッド・ヘナーCIOの見方は異なる。中堅企業のIT部門のほとんどでは、重要な実稼働アプリケーションの変更はIT担当者の間に伝わっているのが普通であり、年商5億ドル台のMonster Cable Productsでは少なくともそうだと同氏は話す。「それほど大したことではない。大きな変更を行う場合は同僚にその話をするものだし、常にDRについて考えるものだ」という。
どのアプリケーションが真に重要かについては誤った認識が持たれていることもあると、ヘナー氏もサマーズ氏も言う。「電子メールはその好例だ。多くの人が日々電子メールのトラブルに遭遇するが、会社の業績に直接影響を与えることはない。一般的に重要アプリケーションとは、会社の業績に最大の影響を及ぼすアプリケーションのことだ」とヘナー氏。
Monster Cable Productsではヘナー氏と業務管理職が、アプリケーションが使えなくなった場合のコストと、障害が売り上げに及ぼす直接的な影響について慎重に検討した。「システムが完全に使えなくなれば、最初の半日で数十万ドルのコストが掛かる。しかし2日たつと影響が甚大になりコストは数百万ドル単位になる」とヘナー氏は説明する。こうしたコストを考え、Monster Cable ProductsのDR計画では理想として12時間以内のシステム復旧を目指している。
Monster Cable Productsで最も重要なアプリケーションはERPだ。しかし、最重要級のアプリケーションであるERP、在庫管理システム、電子メールのデータ依存関係は、いずれも同期しない設定になっている。この戦略により、根底のデータ依存問題はうまく避けられる。ヘナー氏の説明によると、CRMシステムはERPシステムの顧客情報に依存する設定になっている。CRMシステムが停止した場合でも、データは別にERPシステムに送られる。CRMシステムが復旧したら、ERPシステムがそれを更新し、データが同期される。「当社のシステムはすべてこのやり方で設定されている」とヘナー氏は説明した。
復旧の順番はERP、在庫管理システム、次いで電子メールとBIだ。「BIはわたしのDR計画には含めていない。これは戦略と前向きな目標のために使うものであり、売り上げに直ちに影響することはない」とヘナー氏。もっとも、このアプリケーションでフィードされるデータは多過ぎてバックアップし切れないといい、「BIのためのDR製品はこれから見つけるところだ」と話した。
DRに際してどのアプリケーションを重要と考えるかは会社によって大きく異なるとサマーズ氏は強調し、季節によって変わることさえあると言い添えた。「(災害が発生する)季節に左右されるという顧客はたくさんいる。学校教材・テストの大手顧客の場合、9月は数百というアプリケーションの中からあるアプリケーション群を決められた順序で復旧するだろう。1月には別のアプリケーション群を、もっと時間をかけて復旧する計画になっているかもしれない」(※編注)。DR計画が学校の授業計画に左右されることがあるなど、思ってもみなかっただろう。
※編注 米国の学校の多くは、9月から始まる秋学期と1月から始まる春学期の2学期制を採る。
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