中堅・中小企業のための「データ見える化」術【第1回】
Excelファイルの個人所有が「見える化」を阻害する
新たなIT投資が難しい状況下では「手元のデータをいかに有効活用するか」が重要。だが、社内に散在するデータを活用に結び付けるのは容易でない。「見える化」によるデータ活用・保全を両立する具体策はあるのか。
昨今、中堅・中小企業においても「見える化」というキーワードが注目を集めている。以下のグラフは年商5億~500億円の中堅・中小企業に対し、「会計管理/販売管理/人事・給与/生産管理などといった基幹系業務システムを変更する際の事由」について尋ねた結果である。
業務効率改善、コスト削減、業績向上などといった経営的な観点が上位を占めているが、それに続いて多いのが「見える化の促進」だ。企業活動に欠かせない基幹系業務システムを変更する際にも、「見える化」が深くかかわっているのである。
しかし、ここでの「見える化」とは、大企業でいわれているものとは少し異なっている。大企業においては「DWH(Data WareHouse)やBI(Business Intelligence)などを駆使し、経営判断に必要となる情報を迅速に集積・分析する」といった意味で用いられることが多い。いわば「経営の見える化」である。一方、中堅・中小企業が必要としている「見える化」は、社員がむしろ日々こなしている業務に大きくかかわるものだ。
Microsoft Office Excel(以下、Excel)を例に取って考えてみよう。中堅・中小企業では営業マンやマーケティング担当が個別にExcel上でデータを作成、活用していることも少なくない。営業マンが自ら担当する案件の進ちょくや実績を管理するために、Excelシートにデータを小まめに入力しているケース、マーケティング担当が営業マンから個別に聞き出した商談獲得状況をExcel上に入力し、販促活動の実施タイミングを計るケースなどが挙げられる。いずれも社内で共有することができれば、自社の業績にもっと貢献できるデータであることは明らかである。
こうした形で社員が個別に保持するExcelデータは、見つけ出すことが難しい。仮に見つけ出せたとしても、データの書式がさまざまであるため、共有するにはデータの加工作業が必要となってしまう。これは「隠れたExcelレガシー問題」ということができる。一般に「Excelレガシー」というと、Excelファイルがマクロなどを駆使することによって1つのシステムに相当する機能を持ってしまい、それをメンテナンスできなくなる状態を指す。しかし、「保存された価値あるデータを共有するためには個々のExcelファイルを丹念に見ていくしかない」という点では、上記の例もExcelレガシー問題と類似している。
このようにExcelファイル1つを例に取ってみても、企業には「隠された価値あるデータ」が数多く散在していることが分かる。だからといって、いかなるデータも共有を前提とし、個人のPCに保持することを許さないという対処も現実的ではない。こうしたデータを手間やコストを掛けずに共有し、活用するにはどうすればいいのか? このことが、まさに中堅・中小企業において求められている「見える化」の1つなのである。
もう1つ、別の角度から中堅・中小企業に求められる「見える化」を見てみる。以下のデータは年商5億~500億円の中堅・中小企業に対して、「基幹系業務システムにおける品質面での課題」を尋ねた結果である。
| 回答 | 比率 |
|---|---|
| システム化が不完全であり、社員の手作業を必要とする個所がある | 26.0% |
| 似たようなデータが散在しており、データ間の整合性が取れない | 23.3% |
| 必要なデータを迅速に取得できない(夜間バッチ処理が多いなど) | 20.2% |
| 操作時のレスポンスが遅い | 17.8% |
| 操作が複雑なため、現場社員が操作を習得するまで時間がかかる | 16.5% |
| どのようなデータがどこに格納されているかを把握できていない | 15.6% |
| 業務プロセスが頻繁に変更され、システム側が追随できていない | 14.2% |
| セキュリティ対策が不十分である | 12.4% |
| 似たようなデータを複数の画面に何度も入力しなければならない | 11.3% |
| マニュアルの記述が貧弱であり、解説量が足りない | 11.0% |
| マニュアルから知りたい事柄を探し出すのが難しい | 10.3% |
| マニュアルの記述に専門用語が多いため読みづらい | 9.2% |
| バグなどの不具合が多い | 8.8% |
| J-SOX法などの内部統制対応が不十分である | 8.6% |
| 要望した機能が実際に取り入れられるまでの期間が長い | 8.1% |
| 国際会計基準などのコンプライアンス対応が不十分である | 7.9% |
| 安定性が低く、システムが停止することがある | 3.9% |
| 通貨換算や言語表示切り替えなどの国際化対応が不十分である | 2.6% |
| そのほか | 3.8% |
| 出典:中堅・中小企業のERP活用に向けた潜在ニーズ探索調査(ノークリサーチ 2009年) | |
ここから、「データ間の整合性が取れない」「必要なデータを迅速に取得できない」「どのようなデータがどこに格納されているかを把握できていない」といったデータに関連する悩みが多いことが読み取れる。中堅・中小企業のIT活用においては中長期的視点に基づく施策よりも、直近の課題を解決するための部分的な対策が優先されてしまいがちだ。その結果、データが適切に管理されないまま各所に散在する状態に陥ってしまうのである。
効果的なデータ活用を妨げるもう1つの要因が「業務効率を無視したセキュリティ対策」。個人情報漏えいは規模に関係なく、どの企業でも起こり得る大きなリスクである。そのため、中堅・中小企業においてもセキュリティ対策への意識は比較的高い。ところが、データを守ることだけに固執してしまうと、肝心の業務効率を著しく低下させることにもなりかねない。セキュリティと業務効率のバランスも、中堅・中小企業におけるデータ活用が抱える大きな課題の1つとなっている。
どんなに優れた情報処理システムも「自社の業務遂行に役立つデータ」がなければ意味がない。「データ間の整合性が取れない」「必要なデータを迅速に取得できない」といった問題を解決すると同時にセキュリティとの整合性を取らない限り、新たなIT投資をしても期待通りの効果は得られないのである。
「データ見える化」の対象ポイント
つまり、中堅・中小企業が必要としているのは「データの見える化」であるといえる。社内に散在するデータを手軽に検索/参照できる状態にし、同時にセキュリティも確保する。そういった状態を作り出すことが、中堅・中小企業におけるIT活用の効果を最大化するための第一歩といっても過言ではない。
そこで、本連載では「中堅・中小企業のための『データ見える化』術」と題して、上記に述べた「データの見える化」を実現することに焦点を当てる。データが格納される場所を以下のように大きく3つに分け、それらにおける「データの見える化」を実現するための手法や留意点を取り上げていく。
今後の連載予定(テーマ)
・第1回:イントロダクション(今回)
中堅・中小企業にとっての「見える化」とは何かを取り上げ、「データの見える化」の重要性を解説する。
・第2回:クライアントPCにおけるデータの見える化
ビジネスマンの多くは、読み書きしたメールや以前作成したファイルを探し出す作業に少なからず時間を割いている。こうした手間を軽減すると同時にクライアントPC内のデータを安全に管理することは、全社員の業務効率向上につながる。また、クライアントPC内に埋蔵されたExcelデータなどを手軽に吸い上げて活用することができれば、戦略立案上大きなアドバンテージとなる。PC内に格納されたデータをいかに「見える化」するかについて取り上げる。
・第3回:サーバにおけるデータの見える化
サーバに格納された業務システムのデータは、共有され、効果的に使われていると思われがちだが、社員からのインプットを得られる機会が多いにもかかわらず活用されていないものもある。掲示板やフォーラムに書き込まれたデータなど、サーバに格納されている業務データの検索/参照を可能にするためのポイントについて解説する。
・第4回:ストレージにおけるデータの見える化
ハードウェアの価格下落によって、中堅・中小企業ではデータ量増大への対処として、ファイルサーバをどんどん追加するという過程をたどってしまった。その結果、社内に多数のファイルサーバが乱立し、「どんなデータがどこにあるか分からない」という問題を生み出している。社内に分散したファイルサーバに格納された多数の文書データをいかに整理、活用するかを主なトピックとして取り上げ、手間の掛からないセキュリティ対策を施すポイントについても解説する。
この「データの見える化」という観点は重要なトピックでありながら、クライアントPC/サーバ/ストレージの各所で「デスクトップ検索」「エンタープライズサーチ」「重複排除」などといった異なるキーワードで個別に提唱されてきた経緯がある。本連載では「データの見える化」という1本の筋を通すことによって、個別に訴求されてきたソリューションをふかんし、ユーザー企業が自社に適したデータの活用/保護を実現するための一助となることを目標としている。
次回はクライアントPCにおける「データの見える化」の具体的な内容に入っていく。ご期待いただきたい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
技術文書・技術解説
[ネットアップ合同会社] 金融庁ガイドラインから読み解く、「次世代データレジリエンス」の在り方 -
製品資料
[ネットアップ合同会社] 製造DXでデータ活用ニーズが拡大 分散データ活用とAI活用をどう実践する? -
製品レビュー
[ネットアップ合同会社] AIで使いたいデータが内外に点在、研究におけるAI活用を阻む“真の課題”とは -
製品資料
[株式会社kickflow] 稟議・承認作業の「脱オンプレ・脱Excel・ペーパーレス化」を一気に進める方法 -
製品レビュー
[株式会社kickflow] ワークフローシステムのクラウド化 “みんなが不幸になる”事態を避けるには?
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ人はいるのにDXが進まない? ライオンも直面した“老害”レガシーシステム
-
2
「エージェントを作るな、スキルを作れ?」 Anthropicが提唱するAI運用の勘所
-
3
障害対応に「余裕なし」が9割超 運用担当316人調査で見えた「運用赤字」
-
4
シャトレーゼを悩ませる偽メール 混乱なしでBIMI導入とDMARC強化を実現した方法
-
5
半数がブルーカラー転向を視野に? ベテランエンジニアを追い込む“54歳の壁”
-
6
いまIBM iエンジニアが直面する「5つの技術的課題」とその解決策
-
7
Microsoft月例パッチ1400件超で過去最多 「限界点」を迎えたパッチ管理
-
8
PHP脆弱性「PHP2Shell」で2260万件に影響 情シスの緊急チェックリスト
-
9
「年1回の外部診断」が限界に 大手小売が脆弱性管理を内製化・一元化した方法
-
10
みずほ証券が「液冷サーバ」を採用 1日3.6億件の計算を支えるための要件
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AI駆動攻撃にどう対抗する? 超速の攻撃からエンドポイントを保護する方法
-
2
2026年のサイバーセキュリティには何が必要か? 最新データに学ぶ傾向と対策
-
3
経験豊富な即戦力人材に直接アプローチできる、「攻めの採用」への転換術
-
4
「IT史に名を残すシステム障害」8選
-
5
最速72分でデータが流出? 最新の脅威トレンドや侵入手法から分かった防衛策
-
6
10G回線の真価をフルに享受するには? 導入前にチェックしたいポイント
-
7
AI駆動開発のスピードと安全性を両立 「品質・セキュリティ管理」の実践ガイド
-
8
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
-
9
「標的型攻撃メール」事例・サンプル集
-
10
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー