災害後、サプライチェーン混乱に注目が集まる陰で、設計・開発プロジェクトでも混乱に見舞われた企業は少なくなかったようだ。事業継続計画の中にデザインチェーン継続計画を盛り込んでいるだろうか?
PTCジャパンは2011年6月1日、先に発表したWindchill 10.0について、あらためて日本のプレス向けに説明会を開催した。先に@IT MONOistニュースで紹介した内容を踏襲する内容が中心ながら、2011年5月31日にカナダの組み込みソフトウェア開発プロジェクト管理ツールベンダーであるMKSの買収が完了したことが加えられた。
本稿では当日、製品の説明と併せて行われたPLMシステムの事業継続についてのトピックを紹介する。
震災以降に関心が高まっているPLMシステムの災害対応について、「多くの企業やメディアがサプライチェーンの分断に関心を集めたが、デザインチェーンも同様に停止してはならないもの。それにもかかわらず、サプライチェーン寸断で多くの企業が設計業務自体を停止してしまった」と今回の震災後の各企業の対応を指摘したのは、PTCジャパン ソリューション戦略企画推進室 PLMシニアエキスパート 後藤智氏だ。
設計業務が中断したり、データが損壊しては、災害復旧の重要なタイミングに部品供給などのアフターサービスが停止してしまう上、将来の納期にも影響が出る。しかし、この点について、各企業の経営層の認識がまだ不十分だった、というのが後藤氏の見解だ。
後藤氏は、同社社長である桑原宏昭氏とともに震災以降の2カ月ほどで10数社と直接面談、以下のような問いが多数寄せられたという。
テレワークを実施する際に、PLMシステムにチェックインしてくれない設計者をどうコントロールすべきか
クライアント/サーバ構成のPLMシステムを運用している場合、サーバがダウンしてしまうと全ての業務が停止してしまう
承認ルートの中に安否不明者がいる場合、どのように業務を継続すればよいか
3時間の計画停電ではシステムの安全停止や再起動の時間を考慮すると6時間程度はシステムが停止する前提で考えなくてはならないが、その間の業務はどのようにすればよいか
電力が停止する、人員が被災するということを想定していなかった。事業継続計画を根本から考え直さなくてはならないがどうしたらよいか
こうした課題について「対処法は複数考えられるが、情報システムインフラについては、安定稼働している平時を基準にコスト低減を推し進めてしまう傾向がある」(後藤氏)ため、有事対応が不十分になった点を指摘する。
システムの冗長化は基幹システムでは十分に対応している企業が多いことだろうが、図面やBOM情報などではまだまだ対策が行き届いていない状況があるようだ。
サーバシステムを単独拠点に置く体制では対応できないことは明白で、有事にも安定した運用を目指すならばシステム冗長化が必要となる。事業規模・システム規模にもよるが、簡単なファイルコピーレベルのバックアップでもある程度は対応できるし、巨大プロジェクトの重要情報であれば、それ相応の冗長構成が必要となるだろう。状況に応じて、プロジェクト単位で外部委託を迅速に進められる仕組みも必要なところだ。その際、データの切り分けなどが事前に考慮されていることが非常に重要となる。
戦略的にグローバル分散開発を検討しているならば、海外拠点にグローバル開発環境の1つとして分散管理しておく手法が検討できるという。この場合、データの分散化が実現すると同時に、開発人材の分散も実現することになる。有事には、安否情報の確認と同時に分散した別拠点に業務を移管、設計情報が十分にPLMシステム上で共有されていれば、安全に業務引き継ぎを行うことも不可能ではない。
後藤氏は、設計データ(=知財データ)のBCP/BCMについて、下図のように、アセット分散のレベルごとに分類、予算や規模、リスク度合いなどを考慮したPLMの事業継続計画を提案している。
このほかにも、プロジェクト管理システムが持つ担当者ステイタス表示機能を、そのまま安否確認システムとして利用する」というアイデアを検討している企業もあるという。この場合、例えば災害時、通信環境に問題がなければ、必ず一度は特定のシステムにチェックインする、ステイタス情報を登録する、といったルールを作っておけば、自社だけでなく開発プロジェクトにかかわる社内・外のスタッフ全員の状況がある程度自動的に分かるようになるだろう。
PTCではシステム検証および性能評価、危機対応のシナリオとガイドラインなどを米国サイト上で公開している(要・ログインID)。今後の設計・開発業務のBCP策定の参考となるだろう。
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