【連載コラム】医療ITの現場から
電子カルテのクラーク運用はスタッフの人材育成につながる
最近、医師のそばでクラークが電子カルテ入力を支援する「クラーク運用」が注目されている。その運用効果は医師の業務負荷の軽減だけでなく、診療所のコントロールタワーの役割を果たす人材の育成にもつながる。
製品選定の相談から運用の相談へ
電子カルテシステムは、近年の提供ベンダー各社の努力により、製品レベルの均一化が図られ、操作性や機能性の面ではメーカー間の差があまりなくなってきたといわれています(参考連載:診療所向け電子カルテ製品紹介)。そのため最近、医療機関から「製品選定よりも実際の診療現場に沿った運用」に関する相談が増えています。医療機関において、電子カルテが診療支援ツールとして認識され、診療の現場に溶け込んできている結果といえるでしょう。
ここでいう「運用」とは、「電子カルテを利用してどのような診療を実現したいか」を意味しています。医師をはじめスタッフ全員が、電子カルテ導入前と導入後の変化を十分に理解していなければ、効率的な運用は難しいでしょう。
診療所のIT化については、電子カルテは医師のためのものという誤解が長らくありました。一方、レセプトコンピュータ(レセコン)は医事会計スタッフのためのものと広く認識されていました。そのため、電子カルテの選定は医師が行い、レセコンの選定は医事担当者に委ねられていました。
現在、診療所向け電子カルテは、電子カルテ機能とレセコン機能が一体となったものが主流です。そのため、診療所における電子カルテの導入に際しては、医師や看護師、事務員が一体となって、製品選定から実際の運用イメージの共有を図ることが重要です。医師のみで導入を検討すると、スタッフ側から反対の声が出ることもあります。既存の診療所で電子カルテ導入が進まない原因の1つには、診療所のスタッフ全員で導入を検討していないことが挙げられます。
クラーク運用は、医師とスタッフが一致団結できる仕組みづくり
最近、医師の電子カルテ入力をクラーク(医師の代わりに診断書作成などの業務補助をするスタッフ)が支援する「クラーク運用」が注目されています。医師の負担軽減を図ることが目的で、PC操作が苦手な医師や、患者数が多く入力が追い付かないと考える医師にとっては有効な方法だとされています。
クラーク運用にはもう1つの側面があります。この運用を採用すれば、医師とクラークが役割分担をして電子カルテの入力を行うため、そのまま製品の選定や運用の検討などに、医師とスタッフが協力して取り組むきっかけとなります。おのずと医師とスタッフが一致団結して電子カルテを導入する体制を整えることができるのです。
クラークは速記者ではない
クラークを活用している診療所で共通しているのは、クラークは単なるトランスクライバー(速記者)ではなく、医師の右腕となって情報連携のメッセンジャーを担っているということです。
クラークは医師が診察するそばで、カルテの作成を進めます。例えば、ベテランのクラークは、医師が話している内容を速記のように全て打つのではなく、必要事項のみを要領よくピックアップして入力します。それは、クラークが紙カルテの時代からカルテを十分に見てきて、医師のカルテ作成における癖も把握できているが故になせる業です。そのため、クラークはPCの入力が特別に速くなくても、十分に医師の診療スピードについていくことができます。この必要事項を選んで入力するスタイルが、クラークを活用するポイントだと思います。
クラーク運用の効果
現在の診療報酬制度では、診療所でクラークを設置しても診療報酬点数の加算はありません。そのため、基本的には受付スタッフがクラークの役割を担うことで、新たな人的コストの増加を防いでいます。実際、私どもが取り組んでいる「電子カルテ+クラーク養成講座」においても、受付スタッフがクラークになるための育成を支援しています。
受付スタッフがクラークになるとどのような変化が見られるでしょうか。まず、医師とともに普段から診療に立ち会うことで、既往歴や家族構成など患者の背景が分かるようになり、患者との接し方が変わります。例えば、患者に話しかける動作1つを取っても、患者の心身状態を考慮して「左耳が遠ければ右側から話しかける」「患者の目線で膝をついて話しかける」など、良い印象をもたらす振る舞いができるようになります。
また、医師のそばに日々いることで「医師がどのような診療を行っているか、どのように患者と接しているか」が分かるようになるという変化をもたらします。さらに、医師の診療スタンスを日ごろから見ているクラークは、徐々に医師の指示を先取りできるようになります。クラークはいつでも、相手の先回りをしようと考えた行動を取るため、医師にとっては非常に頼りになるとともに、患者にとっても「よく気が付く」スタッフとして評価されます。
クラークになる過程で診療所の業務フローを把握できるようになり、その結果、診療所患者の流れをスムーズにしようとするコントロールタワーとしての役割を担うようになります。実際、ベテランのクラークの動きや言動を聞いたところ、「医師の右腕」として診療所を切り盛りする良きパートナーとしての意識が強く感じられます。このことから、クラーク運用を成功させる鍵は、医師の右腕となれる人材をどのように育てるかにあると感じます。
著者紹介
大西大輔(おおにし だいすけ) メディキャスト株式会社 メディプラザ統括マネージャー
2001年一橋大学大学院MBAコース卒業後、同年日本経営入社。2002年に医療機関の“選ぶ”を支援する展示場「メディプラザ」の1号店を東京(神田)に立ち上げ、その後2003年にメディプラザ大阪、2005年にメディプラザ福岡を順次開設。2007年より東京・大阪・福岡の3拠点を統括する統括マネージャーに就任。専門の医療IT分野については、医師会、保険医協会などの公的団体を中心にセミナー講師を多数実施。
【関連サイト】
診療所を活性化し、医師の右腕を育成するカリキュラム【電子カルテ+クラーク講座】はこちらまで
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
【連載コラム】医療ITの現場から
新着ホワイトペーパー PR
-
事例
[アルプス システム インテグレーション株式会社] 中小企業でも安心して活用できる「手ごろなSOCサービス」とは? -
製品資料
[株式会社シーイーシー] 脱VMwareに成功した企業は何をどう実践した? 事例に学ぶ戦略立案&実装のコツ -
製品資料
[株式会社オービックビジネスコンサルタント] ランサムウェア攻撃を“二重の防御構造”で防ぐ、クラウド型基幹システムの実力 -
製品資料
[株式会社オービックビジネスコンサルタント] 動画で知るランサムウェア被害企業のリアル、会計データが無事だった理由とは -
市場調査・トレンド
[セコムトラストシステムズ株式会社] EDR導入を成功に導くロードマップ:選定/稟議/運用のつまずきを防ぐコツ
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
2
「IBM i(AS/400)はクローズドなシステム」という誤解 DXに寄与する一歩
-
3
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
4
慶應義塾が「Notion」を選んだ理由 AI導入の盲点になる“情報のサイロ化”
-
5
生データを隠してデータ連携 KDDIが4000万人の顧客情報を安全に分析できた理由
-
6
「ノートPC派」は損をしている? Dellと考える“自作PC”のメリット
-
7
「また同じ説明か」 消費者の半数が離脱するAIチャットbotの“記憶喪失”
-
8
「0.3秒のスピード顔認証」の入退室管理が社員に好評 事例に学ぶオフィス改革
-
9
鹿島建設のDXを阻む「10年前のAWS」 安全性と自由度を両立したモダナイズ
-
10
1200万円のSaaS導入を回避 スギ薬局「運用費10万円」のAIエージェント構築術
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
DX/AI投資の壁を突破、現代の最高財務責任者が直面する課題と克服のヒント
-
3
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
4
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
5
システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
-
6
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
7
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
8
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
9
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー