先見性のある企業は、カスタマーエクスペリエンスとその把握の助けになる技術に注目している。
人々が持つ情報は激増した。どんな物を売るにしても、その単純な事実が様相を一変させている。かつては、競合製品の機能やサービス、値段について、買い手が知らないことを前提に商談をすることができた。だが、今や買い手は多くの情報を簡単に入手できる。
この力関係の変化によって、事実上全てのサプライヤーは製品やサービスの差別化からカスタマーエクスペリエンスへと重点をシフトさせている。サプライヤーが今できる最善の策は、顧客重視の基本原則を貫いて、優れたカスタマーエクスペリエンスを提供することだ。
顧客は利便性と簡潔性を求めている。そして、分類された集団としてではなく、自分を個人として高いレベルで理解してくれる企業から買い物をしたいと思っている。取引を望むのは、複数の手段で、だが一貫したやり方で自分にリーチしてくれる企業だ。
多くの組織は、そうした新しい市場力学にいち早く対応している。米Gartnerが企業の上級幹部を対象に実施した最近の調査では、ほとんどがこのトレンドに理解を示し、89%は2016年までにカスタマーエクスペリエンスで勝負する計画だと回答した。
多くの企業が最高カスタマー責任者(CCO)を置いており、顧客のニーズを調べて主な差別化要因としてカスタマーエクスペリエンスに重点を置く、カスタマーエクスペリエンス管理(CEM)という用語も登場した。
先見性のある企業は、カスタマーエクスペリエンスに対して相対的なアプローチを取る。そうした企業は、全チャネルを通じて全ての接点で顧客を喜ばせようと努力する。
そうした企業の取り組みについて、GartnerのCRM調査担当副社長、キンバリー・コリンズ氏はこう総括する。「人と企業とモノが高度につながる世界では、『顧客』という概念が再定義され、モバイル端末から対面での応対まで、さらには電話からソーシャルメディアに至るまで、シームレスなカスタマーエクスペリエンスを提供できる能力で成否が決まる」
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カスタマーエクスペリエンスが差別化の大きな要因になっていることを物語る完璧な事例が、英mySupermarketにある。
同社の価格比較ショッピングサイト「mySupermarket.co.uk」とモバイルアプリは、食品の値段を比較できる。
同サイトが最初に登場した2006年、顧客はここで単純に食料品を購入するだけだった。今では同サイトはずっと洗練され、英国の小売り11社の価格とお買い得品情報を提供するようになった。最新情報の大半は、小売り業者のWebサイトからデータを「スクレイピング」して収集する。同社の顧客はWebサイトとアプリを通じて情報を得る。多数のスーパーマーケットの最新価格と特売情報、品ぞろえを1カ所で参照して、情報に基づいて判断できる。
mySupermarket.co.ukとモバイルアプリがカスタマーエクスペリエンスへと向かうトレンドを物語っているのは、かつて簡単には入手できなかった情報を顧客に提供するだけでなく、全チャネルで一貫したカスタマーエクスペリエンスを提供しているからでもある。 モバイルアプリは2013年7月に初めて公開され、以来何度かバージョンアップを行ってきた。最新版では「ユーザージャーニー」(顧客の購買プロセス)の向上に重点を置いた。
「前バージョンのモバイルアプリは、Webサイトに似ていた。顧客は最初に小売業者を選ぶ。するとその店に関連する品目とお買い得品、値段が表示される」。mySupermarket.co.ukの上級UX(ユーザーエクスペリエンス)設計者、ジリ・デイルズ氏はそう解説する。
「顧客が買い物かごに商品を追加すると、画面の右側に表示される情報と値段を比較できる。顧客が他店の値段をある程度入手することは可能だが、セッションは最初に選んだ1店舗が前提となる」
「モバイルアプリの最新版では、顧客が最もいい値段で買い物できるようにした。顧客は1つのセッションで全ての店をチェックできる。商品で検索して値段を比較したり、商品の一覧を作成して全商品を一度に比較したりもできる」
「また、最も近く、最も便利なスーパーを選ぶこともできる。複数のスーパーに行き、店舗ごとに自分のリストにある商品の中でどれが一番安いのかを知ることが可能だ」(デイルズ氏)
カスタマーエクスペリエンス強化へ向けて製品を変更するために、mySupermarket.co.ukの開発チームは顧客サポートと連携してフィードバックを収集した。顧客がネットで話している内容をチェックするためにレビューを参照したり、顧客にアンケートを実施したりもした。
だが最も効率的に顧客を理解する方法は、顧客が実際にアプリを使う様子を観察することだろう。「一部の顧客の同意を得て、店舗での買い物に同行させてもらい、アプリをどのように利用しているか質問をさせてもらっている。顧客が使っていない機能を指摘して、その機能に気付いていないのか、それとも単純に使いたくないのかを見極めようとすることもある」(デイルズ氏)
同氏は、カスタマーエクスペリエンス向上のためにできることとして、「第一に顧客の声に耳を傾けること。顧客がどんな人なのかを理解すること。ニーズを把握すること。これはアンケートや観察を通じてできる」と話す。
「もう1つ本当に大切なのは、継続的な向上のポリシーを持つことだ。大きな変化を目指すより、フィードバックに基づいて徐々に一貫した向上を目指す方がいい。非常に口うるさい要求をしてくる顧客は常にいる。だがそうしたフィードバックが最も役に立つとは限らない。顧客の大多数を代表するフィードバックに目を向ける必要がある」(デイルズ氏)
もはや、ソフトウェア設計者と開発者だけではソフトウェアの開発体制は十分ではないとデイルズ氏は言う。「顧客とつながることができ、さらに開発チームと結ぶことができる人材が必要だ。開発の全局面を、最高のカスタマーエクスペリエンス創出を中心として展開させなければならない。エクスペリエンスが良ければ顧客は戻ってくる」
全チャネルで一貫したカスタマーエクスペリエンスを保つ上で1つ覚えておくべきこととして、一貫性は必ずしも統一性を意味しない。各チャネルで、そのチャネルにとって自然な機能を提供し、そのチャネルにアクセスしているユーザーの行動に合わせる必要がある。例えばモバイルアプリのユーザーは恐らく歩き回っているので、歩きながら利用しやすいエクスペリエンスを提供しなければならない。
チャネルごとに、そのチャネルならではの特性を最大限に生かす必要もある。例えば、ノートPCやデスクトップPCでは大きな画面や処理能力を活用する。モバイルチャネルなら位置情報を活用し、昔ながらの電話であれば、顧客が人間同士の関係に期待する温かみのある交流を生かす。
一貫性とは、同じようなメッセージの伝え方やブランドの利用にある。全チャネルで横断的にキャッチフレーズや画像を繰り返し、1つのチャネルから別のチャネルに移っても同じように顧客を大切にする。一貫性とはまた、チャネルからチャネルへとセッションやデータの履歴を保ち続けることでもある。Webでショッピングリストを作り始めた顧客は、モバイルアプリでも1〜2秒後に同じショッピングリストが見られることを期待する。
CEMは新しいCRMとして扱う。CRMは常に顧客との全接点から情報を収集し、それぞれの接点で顧客に一貫した情報を提供することを目指してきた。CRMと同様に、CEMでも顧客を360度の視点から見る必要がある。
CEMをCRMに入れ替えるにしても、この2つを連携させて運用するにしても、企業は顧客との関係の持ち方に対してさらに相対的なアプローチを取る必要がある。
CRMとCEMについて全社的な戦略を採用し、個々に切り離された環境でのプロジェクト開発は避けなければならない。
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