心不全患者を守るテレヘルスシステムを実現したRaspberry PiRaspberry Piがテレヘルス普及を加速

遠隔地に医療サービスを提供するテレヘルスの課題はコストだ。HSCICが開発した「MediPi」は、Raspberry Piをベースとすることで大幅なコストダウンを実現。テレヘルス普及の原動力となるか?

2016年05月23日 08時00分 公開
[Lis EvenstadComputer Weekly]
Computer Weekly

 英国の保健社会ケア情報センター(HSCIC:Health and Social Care Information Centre)は、テレヘルス製品のプロトタイプとして「MediPi」を開発した。2017年度にパイロット稼働を目指すこのキットは、Raspberry Pi Foundationの「Raspberry Pi」を利用している。

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 NHS(National Health Service:英国民保険サービス)は、テレヘルスへの理解が進まない理由の1つは「コスト」だと考えている。実際、テレヘルスの有用性を裏付けるために英国保健省が立ち上げた「Whole Systems Demonstrator」(WSD)プログラムは2013年に報告書を発表し、テレヘルスはコスト効率が悪いと指摘している。その理由として、同報告書は通常の治療に標準テレヘルスを追加すると、質調整生存年(訳注)1年当たり9万2000ポンドの追加費用が必要になるという調査結果を挙げている。

訳注:生存期間だけではなく生活の質(Quality of Life)を表す値で重み付けしたもの。

 患者の状態を長期間遠隔監視することは、患者にとっても医療サービスにとってもメリットがある。それは大勢の認めるところだが、WSDプログラムはそのコストを疑問視している。

 HSCICは、その疑問への答えを見つけ出したようだ。MediPiには、7型のタッチパネルを搭載したタブレット型Raspberry Piと市販の医療機器(血圧測定用カフ、フィンガーパルスオキシメーター、診断スケールなど)が組み込まれており、発売予定価格は250ポンドだ。

Piのように簡単

 HSCICのテクニカルインテグレーションスペシャリスト、リチャード・ロビンソン氏がコストを下げるアイデアを思い付いたのは、彼の妻がテレヘルスの予備調査に参加するボランティアを探しに行った後だ。彼女が持ち帰ったキットには、3G対応のタブレットとBluetooth対応の機器、それに家庭用ハブが組み込まれていた。これではコストが掛かり過ぎると同氏は感じた。そこで、自身の力でどこまで安価にできるか挑戦することにした。

 同氏は次のように語る。「テレヘルスに掛かるコストは驚くほど高い。だが32ポンドで出回っているRaspberry Piのような機器であれば安くできるはずだ」

 同氏が開発したプロトタイプには、簡単に操作できるタイルダッシュボードを採用したシンプルなインタフェースが使われている。血圧測定用カフなどの機器ごとにタイルが分かれており、それぞれに「はい」「いいえ」で回答する患者用の簡単なアンケートを組み込んでいる。

 NHSトラストは2017年度、MediPiをパイロット稼働させる予定だ。HSCICはどのNHSトラストがパイロット運用を開始するかを明らかにしていないが、このようなシステムは心不全の患者に有効と考えられる。心不全を抱える人々は英国で毎年90万人にも上り、30〜40%の患者が診断を受けた最初の年に亡くなっている。生活の質を向上して通院患者を減らす鍵は、体重、心拍数、血圧、酸素の各レベルを監視することだ。

安全なネットワーク

 各機器はUSBケーブルでRaspberry Piに接続する。また、ソフトウェアを工夫しているので無線インタフェース機器も簡単に追加できるという。

 ロビンソン氏は次のように話す。

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