SAPやSiemensが後押し
3Dプリントテクノロジーの最新進化 事例が示す次のブレークスルーとは
3Dプリント(付加製造)技術は進化し、航空宇宙業界や自動車業界の製造プロセスを改善できるようになっている。3Dプリントの外部委託を可能にするネットワークの成長も始まりつつある。
3Dプリントは新しいテクノロジーではない。しかしその導入事例や利用業界は少ない。製造方法を変える大きな影響もまだない。ただし、付加製造技術としても知られる3Dプリントテクノロジーは進化を続けており、新たなプリント装置、プロセス、材料が使えるようになっている。同じく重要なのがソフトウェアシステムだ。ソフトウェアシステムによって企業は3Dプリントを管理、運用できる。新たに登場した3Dプリントネットワークも重要になる。社内に3Dプリント装置を導入できない企業は、このネットワークを通じてオンデマンドで3Dプリントを実現できる。本稿は、3Dプリントテクノロジーの見本市『RAPID + TCT』で、Gartnerで3Dプリント分野の調査担当バイスプレジデントを務めるピート・バシリエーレ氏にインタビューした内容をまとめたものだ。同氏はこのインタビューの中で、3Dプリント業界と3Dプリントが製造工程に不可欠になると予想される理由について語った。
併せて読みたいお薦め記事
「3Dプリンタ」に関する記事
ITで変わる製造業
――3Dプリント業界は約30年になります。しかし製造分野全体で見ると、導入率はごくわずかです。製造分野で3Dプリントがこれまで以上に重要な役割を担う兆候はありますか。
ピート・バシリエーレ氏(以下バシリエーレ氏) もちろんだ。3Dプリントを自然に取り入れている業界は幾つかある。主に試作品の作成に用いている航空宇宙業界や自動車業界、完成品として実際に使用している医療機器業界などがある。私の補聴器の形状は3Dプリント製だ。そのため他の補聴器とは全く異なる。補聴器業界では、全てのメーカーが補聴器の形状を3Dプリントで提供している。歯科業界では透明な歯列矯正具を3Dプリントで作成している。Align Technologyのブランド「Invisalign」などがその例だ。この業界では毎日30万個の型が製造され、実際の矯正具の成形や製造に使われている。こうした製品でこの種の生産量を実現するのは3Dプリントテクノロジーがなければ不可能だ。
――3Dプリントはそのような業界や導入事例にとどまらない可能性はありますか。
バシリエーレ氏 3Dプリントの導入を進めるには、試作品の作成から広げていくことだ。この方法は論理的で、多くの場合コストを削減できる。基本的とされている3Dプリント機器なら低価格で手に入る。例えばFDM(熱溶解積層法)方式の機器や3Dスキャナーは1万ドル未満だ。1万ドルが資本予算内であれば、マネジャーやビジネスの多くはROIを分析することもなく、財務上の承認を得る必要もないだろう。多くの企業の目標は完成品の製造にあるため、試作品の作成に3Dプリントを用いるのは理にかなっている。ただし多くの企業が見落としていることがある。それは、3Dプリントを使って道具や治具を作成することだ。製造現場に3Dプリントテクノロジーを用いた道具や治具を導入することによって、伝統的な技術を駆使するよりも仕事の効率が上がり、製造ラインを拡大/支援できる大きな可能性があることが分かれば、導入はさらに進む。
――3Dプリントテクノロジーはこれまでの製造を実際に変えることができるのでしょうか。
バシリエーレ氏 できる。例えばロボットアームのグリップ部分の設計を見直している人々が既にいる。目的は、3Dプリントによってグリップ部分を軽量化することだ。グリップを軽量化して特定の仕事用に調整できれば、ロボットの処理能力を改善できる。似たような事例として、3DプリンタメーカーのUltimakerとVolkswagen Autoeuropaが協力してシンプルな治具を作成した。組み立てラインの作業員はこの治具により、ホイールとタイヤをハブに取り付けやすくなる。これにより以前の工程よりも作業速度が上がる。その上ホイールの破損や傷つきもなくなる。加えて正しく扱えば、従業員がけがをしたり、反復性損傷を負ったりする機会が少なくなる。こうしたコスト削減は数値化できることを見落としがちだ。Ultimakerの例では、削減額はあまり大きくならない。恐らく年間30万ドル程度だ。それでも機器のコストを上回っている。また品質上のメリットもある。航空機メーカーのLockheed Martinでは、航空機をたった1機製造する工程で、3Dプリントで作成した工具や治具を5000個も使用している。
――製造工程で3Dプリントの利用を後押しする開発は他にもありますか。
バシリエーレ氏 SAPやSiemensのような企業が市場に参入するようになった。さらに小規模企業の参入も増えている。こうした企業が市場に参入することで、ワークフローの管理が実現する。プロジェクトコストの見積もりが容易になり、社外購入者に向けてプロジェクトの価格が設定されるようになる。顧客にはスケジュールが提示され、プロセス全体が追跡される。その結果が顧客のERPシステムに統合される。こうしたワークフロー全体の管理プロセスは、3Dプリント業界がサポートを必要としてきた分野の1つだ。このような分野は、伝統的な技術や従来の製造工程では十分確立されている。だが3Dプリント業界では、重要な製品を提供する大手企業でも始まったばかりで、まだ数年しかたっていない。Prosper3Dのような企業は、3Dプリントのコスト計算、価格設定、プロセス全体の追跡を可能にするエンドツーエンドのアプリケーションを開発している。
――そのようなアプリケーションは、企業が3Dプリントの社内プロセスを管理するのに役立ちます。SAPやSiemensが作り上げたような、3Dプリントの外部委託を可能にするネットワークの成長は始まると見ていますか。
バシリエーレ氏 ネットワークはまだ初期段階だ。Gartnerの調査では、3Dプリントサービスを利用するユーザーの大半が、近所にあるサービスを探していることが分かった。例えば米テキサス州フォートワースのユーザーなら、ヒューストンのサービスではなく、南西部にあるサービスを希望している。部品が3Dプリントされ、手に入るまで、数時間から1日以内で済むからだ。だからといって、サービスが近所で提供される必要はない。もちろん、病院は例外だ。
UPS、Fast Radius、Siemens、SAPがネットワークをまとめる試みを始めるなど、3Dプリントサービスのネットワークは広がり始めている。その結果、設計する場所と完成品を製造する場所を分けることができる。設計と製造を複数の場所ですることも可能になるだろう。しかしそのためには市場が必要だ。今は地産地消の考え方だ。例えばボストンを拠点とし、大量消費財を扱う企業があるとする。同社は少量の靴をパリやサンフランシスコで製造したいと考えている。これを可能にするのがネットワークだ。知的財産やセキュリティに関する課題は生じるが、見方を変えれば他の製品を調達することと変わらない。サプライチェーンを信頼しなければならない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[サイボウズ株式会社] 調達業務向け「kintone×AI」活用術:味の素ファインテクノの事例も紹介 -
事例
[サイボウズ株式会社] 「DX人材育成」事例集:ノーコード開発ツールで実践する現場業務改革 -
製品資料
[サイボウズ株式会社] 生成AIを本当に使える武器にする、営業現場の「kintone×AI」活用シナリオ9選 -
製品資料
[サイボウズ株式会社] Fit to Standardのさらに先へ 「EPR×kintone」で実現する脱レガシーシステム -
製品資料
[SB C&S株式会社] 検証レポート:「Everpure」「Nutanix」「Cisco」の3Tier構成は選択肢となるか
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
Microsoft 365導入後も稟議は「Excelをメールで回覧」 承認が止まる理由
-
2
「Copilot」はなぜ放置される? “議事録要約止まり”を脱する処方箋
-
3
「企業内サーバ環境の利用実態」に関するアンケート
-
4
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
5
「Microsoft 365」が乗っ取られる 跡形もなくMFAを破る手口
-
6
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
7
LINEヤフーはなぜ「社内の管理者」すら信用しないインフラを作ったのか
-
8
「最大の脆弱性は従業員」が8割 AI活用で深まるCISOの孤立と苦悩
-
9
増えすぎたAIエージェントが野良化 幹部の36%がインシデント発生時に隠したいと回答
-
10
米国防総省で300万人分の個人情報が流出 その「意外な原因」と教訓
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AI駆動攻撃にどう対抗する? 超速の攻撃からエンドポイントを保護する方法
-
2
Microsoft 365のメールセキュリティ、3つの“死角”と追加で検討すべき対策とは
-
3
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
4
最速72分でデータが流出? 最新の脅威トレンドや侵入手法から分かった防衛策
-
5
「IT史に名を残すシステム障害」8選
-
6
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
7
マンガで学ぶXDR/MDRのメリット、中小企業のセキュリティ強化になぜ有効か?
-
8
SASE選定は「見極め力」で大きな差――本当に必要な製品を選ぶための6つの視点
-
9
Wi-Fi 7はまだ導入しなくてよい? AI時代の企業ネットワーク戦略、次の一手は
-
10
脱VMwareに成功した企業は何をどう実践した? 事例に学ぶ戦略立案&実装のコツ
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー