被害を受けるとビジネスに多大な影響が
攻撃が相次ぐ産業制御システム、脅威から守る基本の「き」
産業制御システム(ICS)への脅威が広がりつつあり、企業はそのリスクの高まりを理解しておく必要がある。本稿では、企業がICSのセキュリティについて認識しておくべき点を取り上げる。
2017年、サウジアラビアの石油処理プラントの安全計装システムに、マルウェア「TRITON」による攻撃が観測された。これを契機に、産業制御のセキュリティについての議論が活発に交わされている。
ただし、産業制御システム(ICS)への攻撃は珍しいものではない。毎時間とは言わないまでも、日々、工場や処理プラントを脅かしている。その理由はどこにあるのだろうか。こうしたシステムが危険にさらされる仕組みはどうなっているのだろうか。これらICSの脅威に関する疑問を調べる前に、まずはICSを理解し、ITとの違いを認識する必要がある。
IT、OT、ICSの定義
ICSへの脅威の全体像を把握するには、情報技術(IT)と制御技術(OT)の違いに加え、ICSとは何かを理解することが役立つ。
ITとは、簡単に言えば、データの処理について推察するシステムとプロセスの集合体だ。具体的には、データを処理または管理するためのソフトウェア、通信技術、ハードウェア、関連サービスといったシステムとテクノロジーなどで構成されている。
OTとは、工場や処理プラントの物理デバイス、プロセス、イベントを直接監視ないし制御して、変化を検知したり、変化を引き起こしたりするシステムとプロセスの集合だ。
ITはデータの処理を目的とし、OTは物理プロセスの管理と制御を目的とする。
ICSは、OT分野の主要基盤となる要素だ。国立標準技術研究所(NIST)のレポート「NIST SP 800-82」の第2版『Guide to Industrial Control Systems (ICS) Security』(産業制御システムセキュリティガイド)では、ICSを次のように説明している。「数種の制御システムを包括した汎用(はんよう)的な用語。各種産業部門や重要インフラで使用されている監視制御システム(SCADA)、分散型制御システム(DCS)や、スキッドマウント型のプログラマブルロジックコントローラー(PLC)などの制御システムを含む」
ICSは、工業、製造業、主要インフラといった業界で使用される。鉄道管制は一種のSCADAだ。街路灯の制御装置はPLCになる場合も、SCADAシステムに組み込まれることもある。つまりICSは、電気、機械、液体、気体などを制御するコンポーネントを含み、これらのコンポーネント同士を連携させて動かすことで、製造、輸送、材料やエネルギーの分配などの工業的目的を実現する。
ITとOTのアーキテクチャ比較
ITシステムとOTシステムでは、インターネットへの公開を許可するか否かという点が大きく異なる。
ITは、通常の構成ではファイアウォールで制御される接続を経由させてインターネットに接続する。これに対して、ICSは企業のITシステムに接続しないし、当然インターネット経由で外部システムに接続することもない。ただし残念ながらこれは理論上の話で、一般には実践されていない。
理論上、ICSが外部ネットワークに向けて公開されることはないが、そうした接続が必要だと感じる場合がある。その際は厳重な管理がなされる場合にのみ、システムをインターネットや企業用システムに接続する。企業ネットワークやインターネット経由で侵入したマルウェアやその他のICSへの脅威が、ICSに影響を及ぼさないようにする。
セキュリティの考え方の比較
ICSへの脅威がITやOTの運用に影響する仕組みを理解するため、昔ながらの情報セキュリティモデル「CIA」を用いて比較する。ITセキュリティは、以下の順に重点を置く。
- C:データの機密性(Confidentiality)
- I:データの完全性(Integrity)
- A:データとシステムの可用性(Availability)
ICSの場合は、優先順位がCIAとは逆になる。OTのセキュリティは以下の順序に従う。
- S:作業の安全性(Safety)
- R:回復力・信頼性(ResilienceないしReliability)
- A:データとシステムの可用性(Availability)
- I:データの完全性(Integrity)
- C:データの機密性(Confidentiality)
ICSに対する脅威の考え方
上述の通り、ITとOTには大きな違いがあり、OTの各レイヤーには作業の安全性、信頼性、回復性、可用性の確保が意図的に組み込まれている。そのため、これらの要所に悪影響を及ぼすICSへの脅威や攻撃が、対処すべき重要な問題だといえる。
OSにパッチを適用する例を考える。企業サーバへのパッチの適用は、タイミングにもよるが、通常は大きな問題にならない。一般的にパッチ適用後はサーバを再起動する。多少の混乱は起きるかもしれないが、パッチを適用するために生じるわずかな遅延は許容される。だがICSへのパッチ適用は、重大な結果を引き起こす恐れがある。
連続操業を保証しなければならない、紙パルプ工場やプラスチック工場のシステムにパッチを適用する場面を考える。こうした工場の処理サーバやPCに影響を及ぼすパッチの適用は、装置の破損、プラスチックの凝固、作業員のけがや死亡事故につながる恐れがある。攻撃者が工場で致命的な混乱を引き起こしたければ、こうしたプロセスに一時的な中断を発生させるだけでよい。
この種のICSへの脅威の一例が、2014年にドイツの製鋼所で発生した事件だ。攻撃の詳細については今も不明だが、製鋼所の炉を制御するシステムへの攻撃によって、作業員は規定の手順で溶鉱炉を停止させることができなくなった。攻撃は炉制御システムの可用性に悪影響を及ぼし、結果として、工場の安全性と信頼性が損なわれた。
ICSへの脅威、コンポーネントの寿命
2010年、イランのナタンズにあるウラン濃縮施設にマルウェア「Stuxnet」を用いた攻撃が行われて以降、専門家によるセキュリティの詳細な管理やICSの保守が一般的になった。この攻撃は、ウラン遠心分離機の工業制御システムに作用して分離機の速度を上げることで、施設作業員の安全性と可用性に影響を与えた。
残念ながら、Stuxnetによる攻撃が起こる前は、ICSや処理システムに関するセキュリティは見過ごされており、重要とも考えられていなかった。こうした工場のシステムやコンポーネントのアップグレードは数年間先延ばしにされることがある。さらにこのことを理由に、セキュリティを更新する機能を備えていないシステムさえある。
ITシステムの標準的な設備更新は約3~5年おきに行われる。だが残念なことに、ICSのツールや装置については、単純に古くなりすぎてベンダーのサポート期間の対象外になっているものもある。
工場では、Windows NT、Windows CE、Windows 2000など、サポート期間を終了した古いOSを使用していることも珍しくはない。こうした設備でも問題なく機能し、十分な可用性を提供しているためだ。だが、そうした設備は最新の脅威に対処するパッチが適用されていないため、侵害を受ける恐れがある。
ITとOTには、サイバーセキュリティに関する違いも幾つかある。ICSツールのオペレーターはこれを念頭に置き、脅威の特定を改善するための取り組みに力を注ぐ必要がある。その取り組みの中で、企業向けの参照アーキテクチャである「The Purdue Enterprise Reference Architecture」(PERA)などを用いることができる。それにより、工場内のコンポーネントとシステムを、企業ネットワークとインターネットから分離することが可能だ。
ICSのオペレーターは、コンポーネントとシステムを最新の状態に更新し、最新の防御機能で安全に保守し、パッチが適用された状態にする必要がある。そして重要なのが、工場のセキュリティの優先順位が、作業の安全性、回復性・信頼性、可用性の順になるようにする取り組みに重点を置くことだ。
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