ランサムウェア攻撃者の間で、不信感や対立がエスカレートしている。その背景を探ると、実に“人間らしい事情”が見えてきた。それはどのようなことなのか。
2021年半ばからランサムウェア(身代金要求型マルウェア)“業界”で広がった、匿名の関係者同士の不信や対立。攻撃者が集う闇市場で今、何が起きているのか。前編「『Kajit』は誰だ――匿名性が生んだランサムウェア攻撃者間の疑心暗鬼」は摩擦を引き起こした経緯を説明した。後編となる本稿は、攻撃者の不信を引き起こす心理を説く。
ランサムウェア攻撃者の間で不信感が高まっている背景には、世界各国の法執行機関の活発な動きがある。例えば米国務省は、ランサムウェア「REvil」と「DarkSide」の攻撃活動を率いる人物の逮捕につながる情報の提供者に、1000万ドルの報奨金を支払う制度を打ち出した。セキュリティ専門家はこの制度によって、通常の手段ではアクセスできないWebサイト群「ダークWeb」の利用者同士で信頼関係を築きにくくなるとみている。
ダークWebはランサムウェア攻撃者にとってコミュニケーションツールになるだけではなく、他の攻撃者から“評価される”場でもある。Cisco Systemsのセキュリティ研究機関であるCisco Talosのシニアインテリジェンスアナリスト、アジム・ホジバエフ氏によると、ダークWebにはソーシャルメディアで「いいね」ボタンを押すことと似た感覚で、ランサムウェア攻撃者のレビューやスコア付けができるWebサイトがある。高く評価されたランサムウェア攻撃者は信頼が高まり、攻撃依頼の機会が増えるとホジバエフ氏は説明する。
逆に言えば、ダークWebに信頼が低い人物が現れれば、不信が広がるきっかけになる。同じタイミングでランサムウェア攻撃者集団の幹部が逮捕されれば、他の攻撃者が神経をとがらせるのは必至だ。Cisco Talosによると、攻撃者は「逮捕されて内通者として動いているのではないか」といった疑いを膨らませ、匿名性が不利に働くことになる。
そうした中、ランサムウェア“業界”では攻撃者集団の再編が活発になる可能性があるとCisco Talosは指摘する。「ビジネスの世界でも経済の混乱が起こると再編が進む。それと同じパターンだ」とホジバエフ氏は語る。ランサムウェア攻撃の「脅威の勢力図」は今後どう変わるのか。企業は動向を注意深く見る必要がある。
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