Google DeepMindのOSSを「AI創薬」に使う中外製薬 その理由は?データ分析ニュースフラッシュ

創薬プロセスにAIツールを活用する中外製薬の事例や、生成AIのハルシネーションを解決する大阪市の取り組み、日本オラクルのAI戦略など、AI技術関連の主要なニュースを紹介する。

2023年11月30日 05時00分 公開
[梅本貴音TechTargetジャパン]

 テキストや画像、動画を生成するAI(人工知能)技術「生成AI」(ジェネレーティブAI)や大規模言語モデル(LLM)の活用が、企業の間で急速に広がっている。ただし業種や組織規模などの違いによって企業がAI技術に求める要件は異なり、検討には慎重さが求められる。AI技術の導入に踏み切った企業にとって、どのような点が決め手になったのか。本稿は、中外製薬が創薬プロセスにAIツールを導入した事例や、業務効率化を図る大阪市のAIツール活用事例、日本オラクルが考える「今後のAI技術活用に必要な要件」など、AI技術に関するニュースを3本紹介する。

中外製薬がGoogle DeepMindのOSSを「AI創薬」に使用 その理由とは?

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 中外製薬は従来、さまざまな化合物のデータを基に研究員が試行錯誤しながら創薬プロセスを進めており、時間とコストが掛かることが課題だった。同社は創薬プロセスを効率化するためにAI技術の導入を検討。ツールの選定では、医療分野の専門性と正確性を備えることに加え、AI技術の知見がない研究者でも使えることを重視した。1つ目に採用したのが、Googleのグループ企業Google DeepMindが提供するオープンソースソフトウェア「AlphaFold2」だ。AlphaFold2を活用して1日1000個以上のタンパク質構造を推論できるAIシステムを構築することで創薬に掛かる時間を短縮すると同時に、従来は専門家しか利用できなかったAIシステムを研究者でも操作できるようにした。2つ目に採用したのが医療用LLM「Med-PaLM 2」だ。チャットbot形式のインタフェースを備え、臨床試験計画に必要な情報の検索や抽出、臨床試験計画のドラフト作成が可能。これによって中外製薬は「臨床試験開始までの期間短縮を目指す」としている。(発表:グーグル・クラウド・ジャパン<2023年11月15日>)

「ハルシネーション」を防ぐ大阪市の生成AI活用方法とは?

 生成AIを用いた自治体業務の効率化を検討していた大阪市は、LLMが不正確な回答を出力する幻覚(ハルシネーション)の課題に直面していた。解決策として、「Amazon Web Services」(AWS)のツール群を用いて「RAG」(検索拡張生成)の仕組みを構築した。RAGとは、学習データ以外に外部のデータベースからも情報を検索、取得し、LLMが事前学習していない情報も回答できるように補う手法を指す。大阪市の端末に入力した質問はAWSの検索サービス「Amazon Kendra」(以下、Kendra)に届き、Kendraは定期的にインデックス化する情報の中から該当部分を検索して抜粋する。その内容をAIモデル構築サービス「Amazon Sagemaker」もしくはLLM「Amazon Bedrock」が要約し、その結果(回答)を端末側に返す仕組みだ。大阪市は「RAGによって、大阪市が保有する情報に基づいた、精度の高い回答を出力できるようになる」としている。(発表:アマゾンウェブサービスジャパン<2023年11月2日>)

日本オラクルが見据える、今後のAI活用に必須の“ある条件”とは?

 日本オラクルは2023年11月13日、クラウドERP(統合基幹業務システム)である「Oracle NetSuite」(以下、NetSuite)の事業戦略説明会を開催し、NetSuiteにAI機能を組み込む計画を説明した。NetSuiteは今後、Oracleが提携するAIベンダーCohereの同名LLMをはじめとしたAI機能を組み込むことで、専門知識のないユーザーでもビジネスプロセスごとに最適化したAI機能をすぐ利用できるようになるという。同社の三澤智光氏(取締役 執行役 社長)は、業務アプリケーション領域では過去10年間大きな技術進歩がなかった点に触れ、今後はAI技術が変革を起こすと予測。「最新のAI技術を取り入れる際に、単一のアーキテクチャであることが必須の要件だ」と強調した。NetSuiteはERPの他、SCM(サプライチェーンマネジメント)やHCM(人的資本管理)などの機能を、統合可能なモジュールとして提供している。(発表:日本オラクル<2023年11月13日>)

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