EDR拡張版「XDR」によるランサムウェア対策とは? “部分的保護”はもう終わり歴史で分かる「ランサムウェアの進化」と対策【第7回】

セキュリティベンダーは近年、セキュリティの新たな対策として「XDR」を提供するようになった。「EDR」を進化させたXDRはどのようなツールで、何ができるのか。ランサムウェア保護の観点からXDRの有効性を考える。

2024年03月22日 07時00分 公開
[平子正人トレンドマイクロ]

 さまざまな業種や規模の組織を狙ったランサムウェア(身代金要求型マルウェア)攻撃が後を絶ちません。そうした中で、新しい対抗手段として注目を集めるようになったのが「XDR」(Extended Detection and Response)です。PCやスマートフォンといった端末(エンドポイント)の保護に重点を置いた「EDR」(Endpoint Detection and Response)の拡張版と位置付けられ、システム全体を守ることを目的としています。本稿では、著者が「XDRこそランサムウェア対策の切り札」と考える理由を説明します。

“部分的保護”だけじゃない EDR拡張版「XDR」は何が違う?

会員登録(無料)が必要です

 近年のランサムウェア攻撃は、特定のエンドポイントへの感染だけにとどまりません。被害範囲の拡大のためにネットワーク内を探索し、複数のエンドポイントへの感染を試みます。そのため、特定のエンドポイントへの攻撃活動を監視するだけでは不十分です。ネットワーク全体における感染範囲を把握することが求められているのです。攻撃の「全体像」を把握するには、エンドポイント以外のネットワークやサーバなども含めて、テレメトリー(遠隔監視)情報を相関分析する必要があります。そのために有効なツールが、XDRです。

 XDRはエンドポイントをはじめ、サーバやメール、ネットワークなどさまざまなレイヤーのテレメトリー情報を収集します。XDRの利用によって各レイヤーでできることは、以下の通りです。

  • エンドポイント
    • 感染したデバイスにおける不正なコマンド実行やレジストリ(システム設定情報のデータベース)変更を監視
  • メール
    • 攻撃の初期侵入として頻繁に用いられるメールのメタデータ(付帯情報)を基に侵入経路を分析
  • ネットワーク
    • 攻撃用サーバであるコマンド&コントロールサーバ(C&Cサーバ)への通信や攻撃の被害範囲を把握

 上記のように、さまざまなテレメトリー情報を収集することがXDRのメリットの一つですが、XDRの目的はそれだけではありません。XDRは、収集したテレメトリー情報を基に相関分析を実施し、その結果をセキュリティ担当者に通知し、脅威を可視化します。これによってセキュリティ担当者は、短時間で必要な情報を把握し、迅速に対策を講じることができます。XDRの製品によっては人工知能(AI)技術を活用し、大量の脅威データから「本当に対処すべき脅威はどれか」を洗い出すことが可能です。

 XDRは、組織ネットワーク内における攻撃範囲を特定した上で、攻撃の深刻度を算出し、優先的に対処すべき領域をセキュリティ担当者に提示します。リモートから感染端末の隔離を実行したり、プレイブック(条件に応じた処理の自動化を設定したスクリプト)に沿って対処を自動化したりする機能も備え、セキュリティ担当者に「予防」「検知」「対応」の面でメリットをもたらすでしょう。

図 EDRとXDRの可視化の範囲の違い(トレンドマイクロの資料を基に編集部作成)《クリックで拡大》

 トレンドマイクロは、攻撃の戦術を分析してノウハウ化したナレッジベース「MITRE ATT&CK」(米国のIT研究団体MITREが発行)に記載されている手法を使った攻撃を幾つか確認しています。例えば、日本でも被害事例が報告されているランサムウェア集団「LockBit」は、標的型ランサムウェア攻撃の手法を採用しているとみられます。

 他にも、MicrosoftのOS「Windows」のコマンド実行ツール「PowerShell」を使った攻撃があります。これを適切に監視するのは容易ではありません。PowerShellはシステム管理者が業務でよく利用するツールだからです。攻撃に関するアラートの発生条件を「PowerShellが実行されたかどうか」だけにしてしまうと、大量の誤検知が発生することになります。一方で、PowerShellを使って外部と通信し、不審なファイルのダウンロードやネットワークのスキャン、リモートデスクトッププロトコル(RDP)などさまざまな手段を用いて攻撃を拡大させる手法があります。重要なのは、単発の不審な挙動だけを見るのではなく、複数の不審な挙動を関連付けて分析し、その上で「攻撃の可能性が高い挙動である」ことを正しく判別することです。

 XDRは収集したテレメトリー情報を相関分析して、検知ルールと照らし合わせた上で攻撃に関する一連の流れを検出します。「初期侵入はどこからなのか」「どのユーザーが侵害されているのか」「どこへ外部通信が実施されているのか」「脅威の起点はどこか」といったことを可視化することで、攻撃の原因を特定しやすくなります。標的型ランサムウェア攻撃の各ステップのいずれかでこれらの挙動を検知して対処すれば、データ暗号化や情報漏えいといったランサムウェア攻撃による被害を軽減できると考えられます。


 第8回(最終回)は、XDR導入に際しての課題を考えます。

著者紹介

平子正人(ひらこ・まさと) トレンドマイクロ

平子氏

国内通信企業でネットワークサービスのプロジェクトマネジャー経験を経てトレンドマイクロに入社。主に「EDR」(Endpoint Detection and Response)と「XDR」(Extended Detection and Response)関連のセールスエンジニアとして、製品の提案や検証を担当。現在はシニアスレットスペシャリストを務め、セキュリティリスクの考察や、組織が取るべきセキュリティ対策の啓発に携わる。セキュリティの実用的な知識の認定資格「GIAC Security Essentials」(GSEC)を取得。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

新着ホワイトペーパー

製品資料 株式会社エーアイセキュリティラボ

AIで人材不足を解消、セキュリティ担当者のためのDXガイド

DX推進によってさまざまなビジネスシーンでデジタル化が加速しているが、そこで悩みの種となるのがセキュリティの担保だ。リソースやコストの制限も考慮しながら、DXとセキュリティを両輪で進めるには何が必要になるのか。

製品資料 パロアルトネットワークス株式会社

セキュリティ運用を最適化し、SOCの負担を軽減する「SOAR」とは?

サイバー攻撃が巧妙化し、セキュリティチームとSOCは常に厳戒態勢を取り続けている。さらにデジタルフットプリントの拡大に伴い、セキュリティデータが絶え間なく往来する事態が生じている。このような状況に対応するには、SOARが有効だ。

製品資料 パロアルトネットワークス株式会社

現在のSOCが抱える課題を解決、AI主導のセキュリティ運用基盤の実力とは?

最新のサイバー攻撃に即座に対応するためには、SOCを従来の在り方から変革することが重要になる。しかし、何をすればよいのか分からないという組織も多い。そこで本資料では、現在のSOCが抱えている5つの課題とその解決策を紹介する。

市場調査・トレンド パロアルトネットワークス株式会社

セキュリティの自動化はどこから始める? SecOpsチームを楽にする正しい進め方

高度化するサイバー脅威に効率的に対処するには、セキュリティの自動化が欠かせない。だが自動化の効果を高めるには、使用ツールの確認、ワークフローの分析などを行った上で、正しいステップを踏む必要がある。その進め方を解説する。

製品レビュー ゼットスケーラー株式会社

AIで脆弱性対策はどう変わる? セキュリティ運用や意思決定に与える影響力とは

脆弱性対策は作業量や難易度を予測しづらく、限られたリソースで対応するのが難しい。さらに、単体の深刻度評価のみとなる一般的なセキュリティ監査ツールでは、包括的な分析は容易ではない。これらの課題を、AIはどう解決するのか。

From Informa TechTarget

お知らせ
米国TechTarget Inc.とInforma Techデジタル事業が業務提携したことが発表されました。TechTargetジャパンは従来どおり、アイティメディア(株)が運営を継続します。これからも日本企業のIT選定に役立つ情報を提供してまいります。

ITmedia マーケティング新着記事

news046.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

news026.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...

news130.jpg

Cookieを超える「マルチリターゲティング」 広告効果に及ぼす影響は?
Cookieレスの課題解決の鍵となる「マルチリターゲティング」を題材に、AI技術によるROI向...