AIモデル「Nova」も登場 AWS新CEOが登壇したre:Inventの“目玉”を総まとめAWS re:Invent 2024現地レポート

2024年12月2〜6日に米ラスベガスで「AWS re:Invent」が開催されている。AWSのCEOマット・ガーマン氏が登壇した基調講演で発表された新サービスや新機能を解説する。

2024年12月06日 05時00分 公開
[梅本貴音TechTargetジャパン]

 Amazon Web Services(AWS)は2024年12月2〜6日(現地時間)の5日間にわたり、米ラスベガスで年次イベント「AWS re:Invent」を開催している。13回目の開催となる今回のイベントには、日本からの約2000人を含めて約6万人が参加している。

写真 AWSの新CEOマット・ガーマン氏が登壇した

 イベント2日目の基調講演では、2024年6月にAWSのCEOに就任したマット・ガーマン氏が登壇し、新サービスを発表した。基調講演にはAmazon.comのCEOアンディ・ジャシー氏の他、サプライズゲストとしてAppleも登壇。その内容をおさらいしよう。

AWSの新CEOが登壇 「re:Invent」の発表を総まとめ

 ガーマン氏の講演で中心となったのが「Building Blocks」(ビルディングブロック)というキーワードだ。ビルディングブロックとは、AWSのサービス群を構成する一つ一つの要素を指す。ユーザー企業は各ビルディングブロックの中から最適なものを選んで組み合わせることができる。ガーマン氏は「インファレンス(推論)」「コンピュート」「ストレージ」「データベース」の4つのビルディングブロックを基に、新しいサービスや機能を発表した。

AIモデル開発を効率化 “自前主義”のAppleがサプライズ登壇

 最初に紹介されたビルディングブロックがコンピュートだ。

 NVIDIAのGPU「Blackwell」を搭載したインスタンス「Amazon EC2 P6」(Amazon EC2:Amazon Elastic Compute Cloud)を発表。2025年前半に提供開始する計画だ。「生成AIのワークロード(生成AIを使うタスクやそのための計算処理)の大半はNVIDIAのGPUで稼働しており、AWSはそうしたワークロードに最適だ」とガーマン氏は話す。

 近年、AIモデルのトレーニングや推論に対する需要はますます高まっており、費用対効果も重視される傾向にある。こうした需要に応えるものとして、AWSはトレーニング用のAIアクセラレーター「AWS Trainium 2」を搭載したインスタンス「Amazon EC2 Trn2 Instances」を発表。現行のインスタンス「P5e」「P5en」と比較してコストパフォーマンスは30〜40%高くなるという。加えて、Trainiumの最新世代「AWS Trainium3」も発表。2025年後半の提供開始を見込む。

 64基のTrainum2を搭載したサーバ「Amazon EC2 UltraServers」のプレビュー版も発表になった。最大規模のAIモデルのトレーニングやデプロイ(配備)の他、クラスタソフトウェアのセットアップや、ドライバのバージョン調整といった作業の負担軽減に役立つ。

写真 AppleでML&AIシニアディレクターを務めるベノワ・デュパン氏

 AWSのコンピューティングサービスを活用しているのがAppleだ。同社ML&AIシニアディレクターのベノワ・デュパン氏が登壇し、Apple製OSに搭載するAI機能群「Apple Intelligence」をはじめとする機能やサービスに、AWSのサービスを活用していると話した。

「Amazon S3」の検索性を強化

 2つ目のビルディングブロックであるストレージでは、以下のサービスが発表された。

  • Amazon S3 Tables
    • 表形式データに対応したストレージで、表形式データを管理するフレームワーク「Apache IceBerg」に対応。
  • Amazon S3 Metadata
    • アップロードされたオブジェクトにメタデータを自動的に付与することで、検索性が向上し、より迅速にデータを見つけることができる。処理速度と耐久性を両立しつつ、企業内に大量に蓄積されたデータの検索性を高める狙いだ。

データベースはマルチリージョンの整合性を強化

 3つ目のビルディングブロックはデータベースだ。ガーマン氏は以下2つの新サービスを発表した。

  • Amazon Aurora DSQL
    • 強い一貫性が特徴の、サーバレスな分散SQLデータベース。99.999%の可用性、事実上無制限のスケーラビリティ、インフラ管理の容易さ、SQL処理の高速性といった強みを持つ。
  • Amazon DynamoDB global tables
    • グローバルなマルチリージョン展開を可能にする。読み取ったデータは常に最新のものであることを保証する。
    • 従来の「結果整合性」の仕組みでは、取得したデータが常に最新である保証がなく、予約システムのように厳密な整合性を求めるアプリケーションとの相性が悪かった。分散環境におけるデータベースの拡張も困難だった。このデータベースは、こうした課題の解決に役立つ。

新モデル「Nova」登場 「Bedrock」「SageMaker」「Q」も進化

 最後に紹介されたものの、今回の目玉となったビルディングブロックがインファレンス(推論)だ。

新しい独自モデル「Nova」登場

 特に関心を集めたのが、AIモデル「Nova」の発表だろう。Amazon.comのCEOアンディ・ジャシー氏が登壇して発表した。生成AIアプリケーション開発サービス「Amazon Bedrock」(以下、Bedrock)から利用でき、既存の独自モデル「Titan」に加えて独自開発モデルの選択肢を増やした形となる。

写真 Amazon.comのCEOアンディ・ジャシー氏が新モデルNovaについて説明

 Novaの大きな特徴は、コスト効率と処理速度の2つだ。Bedrockから利用できる他の主要モデルと比較して、7割以上のコスト低減を実現しているという。6つのモデルタイプがあり、それぞれの特徴は以下の通り。

  • テキストのみ対応し、低コストと低遅延を特徴とする「Micro」
  • マルチモーダルで高速な処理が可能な「Lite」
  • マルチモーダルでより広範な能力を持つ、かつコストパフォーマンスに優れた「Pro」
  • マルチモーダルで最上位の「Premier」
  • 画像生成モデルの「Canvas」
  • 動画生成モデルの「Reel」

Bedrockの機能強化

 Bedrockでは、以下3つの機能が発表された。

  • Amazon Bedrock Model Distillation
    • 規模の大きいAIモデルを作る場合、回答の精度は良くてもレイテンシやコストが増える傾向にある。特定のタスクや知識向けに特化したモデルを作る場合は、「Distillation」(蒸留)という言葉のように小さなモデルに凝縮することで、速度やコストの課題を解決できる。
  • Automated Reasoning Checks
    • AIモデルなぜその出力が出たのかを論理的に説明できる機能。AIモデルがポリシーに準拠した回答を出力したかどうかを数理的に証明する。企業においてハルシネーション(事実に基づかない回答を出力すること)対策のニーズは強く、それに応える機能だと言える。
  • Amazon Bedrock multi-agent collaboration
    • 複数のAIエージェントを組み合わせて動かす機能。近年AIエージェントが注目を集めているものの、幅広いタスクをこなせる汎用(はんよう)的なAIエージェントはまだ存在しない。Amazon Bedrock multi-agent collaborationでこうした課題を克服できる可能性がある。

「Amazon Q」がモダナイゼーションの鍵に

写真 Amazon Q Developerがモダナイゼーションに役立つと説明

 レガシーシステムのモダナイゼーションは幅広い企業に共通する課題であるものの、刷新に伴う負担の大きさから着手できない企業は少なくない。開発者向けの生成AIツール「Amazon Q Developer」がソースコードの読み込みや依存関係の把握、移行計画の策定支援といった、負荷の高いタスクを支援する。

  • Windowsからの移行
    • OS「Windows」ベースのアプリケーション開発・実行環境「.Net Framework」を前提に書かれているアプリケーションのマルチプラットフォーム化。サーバ側のOSを「Linux」に変えることでコスト削減につながる。
  • メインフレームのモダナイゼーション
    • 単にシステムやソースコードをドキュメント化するだけでなく、移行計画の作成も支援する。
  • VMware環境からの移行
    • VMwareの仮想化ソフトウェアで構築されたインフラをAmazon EC2に移行するための作業を支援する。ネットワーク構成の把握や移行計画をAmazon Q Developerに担わせることで、移行作業の負担を軽減できる。

「SageMaker」は次世代へ

写真 データ分析とAI関連業務の垣根はなくなりつつあり、次世代のSageMakerがそのハブになると説明

 「Amazon SageMakerは次世代に突入する」とガーマン氏は話す。生成AIの登場により、データ活用の範囲は拡大している。生成AI活用を進める上では、組織内のデータを統合し、それを効率的に分析、活用することが不可欠だ。機械学習モデル構築サービスとして使用されてきた「Amazon SageMaker」(以下、SageMaker)だが、今後はデータ分析の基盤としても重視されるようになる見込みだ。こうした背景を踏まえてAWSが発表したのが以下のサービスだ。

  • Amazon SageMaker Unified studio
    • 「Amazon EMR」「AWS Glue」「Amazon Redshift」「Amazon Bedrock」「Amazon SageMaker Studio」といったサービスで利用可能な機能を、統合されたインタフェースとして提供する。データ分析やAI関連業務で最適なツールを選択して利用できるようになる。
  • Amazon SageMaker Lakehouse
    • クラウドストレージ「Amazon Simple Storage Service」(Amazon S3)を使ったデータレイク、データウェアハウスサービス「Amazon Redshift」などのデータソースを統合して扱えるようにする。

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