今こそIFRS再入門【第5回】
今からプランをしたい「IFRS適用後のフォロー体制」
「日本版IFRS」の作成が進む中、IFRS任意適用の動きが広がっている。IFRS適用はIFRSベースの決算を公表して終わりではない。より重要なのは適用後のフォロー体制だ。モニタリングや教育体制について解説する。
IFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)を巡っては日本企業の任意適用を増やす方針が金融庁から打ち出されており、企業にとってIFRSを選択しやすい環境が整えられようとしている。その1つの施策として検討されているのが「日本版IFRS」だ。日本版IFRSとは、IASB(国際会計基準審議会)で作られた本来のIFRSから日本の実務慣行に配慮した修正を行うもので、ASBJ(企業会計基準委員会)が現在具体的内容について議論を始めた。日本版IFRSは、日本の会計基準とIFRS間の差異を解決する1つの手段として取り組まれており、日本企業が純粋なIFRSを導入するよりも適用しやすいものになるとの期待がある。
しかし、各国がそれぞれ違うIFRSを持ってしまったら、それは世界で単一の会計基準としてIFRSが機能しているとはいえない。日本版IFRSは、日本企業にIFRSの導入を促すためという目的があるとはいえ、ずっと存続するのが望ましいとはいえず、世界で単一の会計基準が日本でも適用されるようになるためのステップとして位置付けられるだろう。
これは、日本のIFRSに関する制度が整備された後にIFRSを導入しようと考えている企業にとっては、頭の痛い状況である。日本版IFRSが完成するのは2014年秋ごろとされているが、日本版IFRSができたからといってその状態で日本の制度が安定するとは考えられず、日本でIFRSの普及がある程度進んだ時点で日本版IFRSは選択できなくなる可能性がある。また、本来のIFRS自体も、より適切な会計基準を目指してIASBによる改訂作業が続いており、ムービングターゲットといわれる状況が続くと考えられる。今後この環境が大きく変わることもあまり考えられないため、いつでも機動的に制度変更に対応できる体制が必要である。IFRS導入をいかに進めるかだけでなく、IFRS導入後の体制の充実が重要な課題となるだろう。
体制強化にはIFRS導入後のフォローが必須
IFRS導入プロジェクトとしては、IFRSベースでの決算を発表することが最初の目標となるが、その後フォローを行って、問題を発見し、解決していくことも必要だ。決算発表をもってプロジェクトが終わってしまうわけではない。IFRS導入は、どれだけ万全を期して進めていっても、少なからず混乱が起きてしまう。確かに表面的にはうまくいっているように見える場合もあるが、実際の現場では問題を抱えていることもあるため、成功しているように見えるプロジェクトほど注意が必要である。プロジェクトとして、きちんとフォローを行っていかないと、IFRS導入後の新体制をきちんと機能させるのは難しいのである。
モニタリングを実施するに当たっても、方針を策定し、計画を立てなくてはならない。モニタリングの方針では、 スコープ(範囲)を定義する必要があり、「どういうタイプの新業務に対して、どのレベルまでモニタリングを行うのか」を決めておくのが大切。ただし、必ずしも全ての新業務をモニタリングすべきというわけではない。それぞれ企業の実情に合わせてスコープを決めるが、既に初めての決算作業を通じて問題点が顕在化している業務があれば、それらを優先して対象を決めるべきだ。
通常グループ会社はモニタリングが難しいので、注意が必要だ。肝要なのは、あらかじめグループ会社に対するモニタリングの要否を検討しておくこと。グループ会社に独自にモニタリング活動を求めることも可能だが、グループ管理上、親会社が主体となってモニタリングをすることが望ましい。なぜなら、各社が独自にやっていると、会社間でモニタリングのレベルにばらつきが生じてしまい、十分な成果が得られない場合があるからである。また、各社へのモニタリングを通じて課題へのノウハウが親会社に蓄積されれば、それを他のグループ会社へ展開でき、より効果的にモニタリングをすることが可能である。
決算業務のモニタリングを重点的に
内部統制上、決算業務のモニタリングは、他の現業部門に対するモニタリングよりも重要度が高い。そのため、IFRS導入の決算業務が一段落したら、できるだけ早いタイミングでモニタリングを行うべきだ。決算業務は、IFRS導入により負担が重くなっていることが多く、課題がより多く抽出される可能性もある。決算業務のモニタリングは重点的に実施する必要があるだろう。
決算業務のモニタリングでありがちな課題として、担当者による業務負担に不均衡が生じていることがある。そのような状況を把握するためには、担当者だけではなく、その上の立場の人がどのような状況であるかを把握することも有効だ。現実には、下位の人員に担当業務を任せず、上司が多くの業務を抱えてしまっているために業務全体の遅延を招いているケースが多い。IFRSでは、見積もりや判断の要素を含む業務が増えるため、 部門の上位者中心で担当する業務が増えてしまいがちである。
しかし、そのような業務の全部を上位者がやらなくてはならないかというと、必ずしもそうではない。見積もりや判断が要求されるとしても、標準化を進めて、 定型的に業務が進められるようになれば、ほとんどの業務を下位の担当者に任せることが可能である。業務の標準化は積極的に推し進めるべきだろう。
システムのモニタリングに必要な2つの視点
IFRSへの対応に限らず、あらゆるシステム投資に対してモニタリングの作業は必要である。モニタリング抜きには投資に対する効果を測定して経営上のフィードバックを得ることができず、運用サービスの品質を維持することも困難となる。IFRS導入プロジェクトにおいては次の2つの視点でモニタリングを実施することが必要だ。
1つは、「IFRS導入プロジェクトを起点として実施された全てのシステム投資の進捗をとりまとめる視点でのモニタリング」だ。原則的に、この時点では各システムとも開発・導入の作業は完了済みのはずだが、段階的に導入している場合や、「暫定的な処置」と「恒久的な改修」を分けて実施している場合などには、引き続き企画・開発の作業進捗を確認する必要のあるシステムが残っている可能性がある。また、導入後のシステムの稼働状況、ユーザーの利用実績などについても、プロジェクトの対象となっている全てのシステムについてモニタリングを実施すべきだ。
2点目は、全てのシステムに対する統一的な調査ではなく、「特定のシステムに対して踏み込んだモニタリング」の実施だ。このような詳細なモニタリングも必要に応じて行うべきである。IFRS導入プロジェクトにおいては、業務の変更とシステムの変更を同時に行い、今までとは異なる基準で最終的な財務数値を出すことになる。そのため、何か問題が生じた場合には、「業務の設計に問題があったのか」「各作業者が適切にシステムを使用しなかったことが原因なのか」「そもそもシステムに瑕疵(かし)があるのか」といった切り分けが複雑になる傾向がある。業務のモニタリングと同様に優先順位を付けて、業務面とシステム面の両側から問題を解決できる体制を整えながらモニタリングを実施することが必要だ。
人材育成こそがIFRS導入のカギ
IFRS導入では、グループ会社を含めてIFRSを浸透させていくことが必要であり、人材の育成が重要な課題となる。プロジェクトが始まり、IFRSが適用された後も、継続的に人材育成に取り組んでいかなくてはならない。IFRSの浸透は、本社の経理部門だけではなく、グループ会社の経理部門や現業部門に対しても必要で、計画的に取り組むことが大切だ。社内で人材育成を進めていくに当たっての注意点を以下に説明するので参考にしてほしい。
日本基準からの発想の転換
IFRSと日本基準ではそもそも基本的な考え方が違う。IFRSは原則主義であり、細則主義である日本基準の適用と同じやり方が通用しない。細則主義から原則主義への転換を実務で行っていくのは簡単ではない。せっかくのプロジェクトも実際に遂行できる人材がいなくてはどうにもならないので、IFRSの対応スキルを身に付けた人材を社内で育成することが不可欠だ。
海外のグループ会社への教育
海外の多くの国では既にIFRSが適用されていることから、海外では広くIFRSが浸透していると思われる方も多いかもしれない。しかし、大抵の場合、日本と同じように上場企業に限定してIFRSを適用している。海外であっても、多くのグループ会社は非上場企業であり、そのような企業にとってIFRSはなじみが薄い場合が多い。海外のグループ会社に対しても、親会社が主導してIFRSを浸透させるべきだ。
しかし、グループ会社には、親会社が解釈したグループ向けのIFRSを伝えることが必要となるため、親会社の方針がきちんと決まっているのが前提となる。親会社があやふやな態度を取っていると返って混乱を招くこともあるので留意すべきだろう。
IFRS教育体制の構築
IFRSを社内に浸透させるために教育専門の部署を設置するという方法がある。一見、大げさな対応にも思えるが、専門部署の設置は決して大げさではない。IFRSの教育は一時的な対応だけでは十分な成果を得ることができない。社内にIFRSを根付かせる取り組みは継続性が重要であり、そのためには担当者を配置すべきだろう。
特に、IFRS改訂のフォローは重要だ。IFRSは現在も多くの基準開発のプロジェクトが進行中であり、今後も3年ほど先までは重要な改訂が続く予定となっている。新しい基準がどのようなものであり、どのように適用していくかなど、社内にIFRSを浸透させる取り組みは継続しなければならない。
(本連載は、「現場で使えるIFRS導入の実務」(日本実業出版社)の一部を抜粋、再構成したものです)
野口 由美子(のぐち ゆみこ)
株式会社イージフ フェロー。国際基督教大学教養学部社会科学科卒業、公認会計士3次試験合格。あずさ監査法人勤務、中央大学専門職大学院国際会計研究科兼任講師を歴任。
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今こそIFRS再入門
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