BI導入の成否はプロジェクト企画段階で決まる!【第4回】失敗しないBIシステム導入の勘所【第4回】

ITマネジャーのための超実践的なBIシステム導入ガイド、第4回目。最終回の今回は、前回、企画フェーズの実際の進め方の中でも、IT部門担当者からみた発案を紹介したのに対して経営者側からみた発案を紹介し、最終的なBIシステムプロジェクト成功への道を示す。

2006年12月15日 00時00分 公開
[TechTarget]

 前回は、「ボトムアップアプローチ」での企画フェーズの事例をご紹介させていただきました。最終回となる今回は、経営層レベルからの発案で企画フェーズが開始される「トップダウンアプローチ」での事例を紹介していきます。

トップダウンアプローチについて

「トップダウンアプローチ」では、経営者層が経営課題の解決のためにBIシステムの導入を検討し、指示を受けた担当者がIT部門、業務部門それぞれの担当者と連携をとりながら企画を練っていくこととなります。

「ボトムアップアプローチ」との大きな違いは、発案者自身が意思決定権を持っていることです。つまり、すでにBIシステムの必要性は十分に認識しているため、予算が情報投資プランの許容範囲であることと、実現可能性が十分にあるということが明確になれば、多くの場合、企画は実現する方向で動き出します。

トップダウンアプローチ成功事例

■企業プロフィール

 業種:港湾運送業、プラント、物流

 従業員数:約1,000人(連結)

 売上:約400 億円(連結)

■背景

 この企業では、経営層の承認のもと、経営企画部門の担当者を中心にして、全社レベルでの情報共有のためにSIベンダーにBIシステムの構築を依頼し、すでに1回目のプロトタイプの作成までは完了している状況でした。ただし、業務での活用方法、基幹システム側からの連携データの信頼性やBIツールの操作性など明らかな課題が存在し、各ユーザーからはこのままでは業務に使用するのは困難であるとの意見が出され、企画の見直しの必要性に迫られていました。

 上記のような背景を踏まえ、まずは業務面、システム面での「課題の整理」、「解決策の導出」、「見直した計画による予算とスケジュールの変更」を行うために基本計画を作成することを検討し、BIシステムに関する経験とノウハウを有するITコンサル企業の支援を受けることを決定しました。

■スケジュール

 すでにプロジェクトが開始されており早急な企画の見直しが必要であること、ある程度の課題は具体的に挙がっていたことなどから、期間は約1.5カ月。各部門への協力要請を行える担当者を中心にしているトップダウンアプローチだからこそのスピード感で、企画を進めることができました。

■具体的な進め方

 基本計画策定の進め方を成果物の一部とともに説明していきます。

 1.現状分析

 本件の主担当者は企画部門の担当者であったため、システム面についてはプロトタイプの開発を行った業者に対してヒアリングを行い、業務活用面については、一度全ユーザー(管理者レベルまで)の要望を洗い出す必要があるとの判断から、ユーザーの意見を可能な限り聞き出すという方針で進めることとなりました。

 システム面については、パフォーマンスなど具体的な課題がいくつか挙がっていたため、具体的な解決策を提示するためにDB設計書によるデータモデルなどの詳細な調査までを行いました。また、実際の調査を進めていくなかで、BIシステムの構築以前に業務系システム側の問題が多く含まれることがわかってきました。このような問題点は先に解決しない限りBIシステムのブラッシュアップは望めませんので、優先順位の高い課題となります。

 業務活用面のヒアリングでは、時間も少なかったため、対象ユーザーに対してメールでExeclファイルを集配信する形でのBIシステムに関するアンケートを実施しました。

photo 《クリックで拡大》 Excel形式のヒアリングシートでアンケートを実施

 ここでのポイントは、アンケートで得られない情報を取得するためのヒアリングの実施です。アンケートだけでは生の声や現場としての意見を全て吸い上げることはできません。そこで、キーマンとなりうる社員を企画担当者と相談の上で絞り込み、ヒアリングの実施を行いました。その結果のまとめが図2となります。

photo 《クリックで拡大》

 ただし、今回は会社の方針としてBIシステムを導入することが明確に決まっており、主担当者の権限も十分にあったことから、メールでの依頼で必要な情報を幅広く手に入れることができましたが、ボトムアップアプローチの場合は、メールだけでは十分な協力を得られない可能性もあるため、対面でのヒアリングを中心に調査を行っていく必要があり、時間と労力もよりかかると考えられます。

 2.導入目的・効果の策定

導入目的については、元々の企画で導入目的が明確であったため、大きな見直しは行いませんでした。

 導入目的(1):全社レベルでの情報共有

 複数ある事業部門間での情報共有(ex.同一顧客への事業部をまたがったアプローチ)を行い、効率のよい営業活動につなげていく

 導入目的(2):業績把握の早期化

 間接費や社内売上の相殺などにより、できるだけ早い段階での部門別の損益状況の把握を行い、すばやい意思決定を行っていく

 効果としては、上記の目的に沿った定性的な部分を中心にまとめていきました。トップダウンアプローチの場合、それほど投資対効果を明確にする必要がないためです。

 3.BIのあるべき姿の検討

 システム構成としては、まずは現状の構成を継続し、ある程度業務的な要件を満たせるようになった段階で、データモデルの見直し、BIツールの再選定を行うこととしました。現時点ではプロトタイプ段階であり、大掛かりな再投資は行わずに業務的な要件を固めることが先決であったためです。業務要件の実現の流れについては、次の基本計画作成フェーズでロードマップとしてまとめています。

 4.全体基本計画作成+次期スコープ検討

 現状分析で得られた結果をもとに、全体基本計画書としてBIシステム開発のロードマップを作成しました。業務的な課題とシステム的な課題を組み合わせて、どのような順序で開発していけばBIシステムのあるべき姿に近づけるのかを明確にしています。

photo 《クリックで拡大》

 そして、個々の課題については、別途課題の詳細と具体的な解決策にまで踏み込んで成果物としてまとめました。

photo 《クリックで拡大》

 基本計画書の作成においては、ある程度、具体的な解決策にまで踏み込み、実現性を検討できていないと、単なる絵に描いた餅になる危険性がありますので、注意が必要です。

 5.プロジェクト基本計画作成

 今回は、プロトタイプシステムを構築したSIベンダーが実際の開発を請負うこととなっていたため、見積もりに必要となる情報(対象範囲、課題の具体的な解決方法、etc)を提供することにとどめました。実際には、提供した情報をもとに迅速な予算の確保が行われ、全体基本計画に沿ったシステムの改修が行われています。

■成果物

 最終的な成果物は、「アンケート集計結果」、「基本計画書」の2点です。アンケートの集計結果も誰がどのような要望を持っているかということを参照するのには重要な成果物といえます。インプットとなる明細の情報についても成果物として残しておかないと、後で基本計画を見直す際に、なぜこういう方向性に決めたのかということを見失う結果になることがあります。

■効果

 具体的な効果としては、ユーザー要望を取り込んだことにより、使えるシステムとして認識されたこと、現時点から将来的な課題と具体的な解決策が明確化されたことにより、業務系システムを含めた今後の投資計画を立てることができたことの2点といえます。

 このようにトップダウンアプローチでは、経営層のやりたいことを実現するための具体的なロードマップを示していくことが必要となります。

 また、今回の事例の場合、ベースとなる企画が存在したこと、プロトタイプシステムを構築していたことなどから、企画の見直しをスムーズに行うことができました。

 外部の支援を得て企画フェーズを実施する場合には、自社ではできない部分についての作業を依頼することが成功のポイントともいえます。

 この連載では、企画フェーズの重要性から具体的な進め方、2つのタイプの成功事例を紹介してきました。

 BIシステムでは、企画フェーズだけでなく、その後のシステムの拡張やユーザー要件の取り込み、ユーザー教育など重要なポイントがいくつか存在します。そういったポイントを押さえるためにも、業務システム以上に企画フェーズに大きな比重をおいて、BIシステムのプロジェクトを成功に導いてほしいと思います。

IAFコンサルティング

1998年に設立されたDWH、BI専門の独立系コンサルティング会社。金融、通信、製造、流通、サービスなど多岐にわたる業種のDWH、BIシステム構築プロジェクトに参画し、システム分析・設計・導入から運用までをトータルにサポート。 メディアへの寄稿、セミナー講演などを通じてDWH、BIの普及、啓蒙活動を実施。

株式会社アイエイエフコンサルティング

TEL:03-3538-8277

お問い合わせ先:olap@iafc.co.jp


岡安 裕一

株式会社IAFコンサルティング マーケティング部所属。1998年にユーザー系情報システム企業にSEとして入社。その後、通信系企業にて、営業職としてさまざまな顧客の問題解決に従事。現職についてからは、セミナー講演や顧客への提案活動を中心として活動中。


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