2007年のホットなストレージ技術【後編】Hot Topics

2007年にはiSCSI SAN、ハードウェアベースのテープ暗号化、大容量ディスクドライブ、仮想化、シンプロビジョニングが、必須のストレージ技術になる見通しだ。前編に続いて、米国Storage誌の編集部が選定した残りの3つの技術と、今後注目すべきストレージ規格について説明する。

2007年02月07日 00時00分 公開
[TechTarget]

 ストレージ業界の特徴は、ダイナミックな変化である。しかし、決して変わらない要素もある。ストレージの大容量化ニーズと、より優れた、手間のかからないデータ保護方法の飽くなき追求だ。

 米国Storage誌の編集部は、2006年のストレージ分野の技術開発や製品リリース、規格の動向を振り返り、それを基に2007年のホットなストレージ技術を検討して5つを選定した。後編では、前編に続く残り3つの技術と、これからの展望を解説する。

 前述した5つの技術のうちの1つ、シンプロビジョニングは、長い間ストレージシステムベンダーの3PARが単独で推進してきたものだが、多くのベンダーの注目を集めるに至っており、採用製品も増えている。われわれは、シンプロビジョニングがディスクアレイに不可欠な機能になると予測している。シンプロビジョニングを利用すれば、ストレージを余分に購入せずに済み、コストを節約できるからだ。さらに、ディスクドライブ技術では、今後もディスクに詰め込めるデータ量が、予想される限界を超えて増加し続ける見込みだ。2007年にはストレージベンダーから1Tバイトのディスクドライブが投入され、その後、短期間のうちに、より大容量のドライブが登場するだろう。一方、新しい技術の中でデータ二重化、継続的データ保護(CDP)、データ分類、情報ライフサイクル管理(ILM)は、有望に見えるが、成熟し、受け入れが進むにはまだ時間がかかる。

 われわれが選んだ2007年のホットなストレージ技術について、後編では、残りの3つのストレージ技術についてと、注目すべきストレージ規格、また今後の展望について説明する。取り上げるベンダーや製品は、それぞれの技術カテゴリーの代表例だ。

大容量ディスクドライブ

 さまざまな専門家からある程度の周期で、「磁気ディスクは近いうちに容量の限界に達し、磁気ドットの微細化や高密度化が不可能になる」という見通しが示される。にもかかわらず、エンジニアは常に、より多くのデータをディスクに詰め込む新たな方法を見いだしている。

 「ムーアの法則が一貫して維持されているということだ」とシーゲイトテクノロジーのエンタープライズディスク部門マーケティングマネジャー、ピーター・スティージ氏は語る。2006年には、ディスク面にデータを垂直に配置する垂直磁気記録技術がムーアの法則の維持に寄与した。

 シーゲイトは垂直磁気記録技術を利用して、2007年に1Tバイトのディスクドライブを投入し、その後もディスクの大容量化を進める見通しだ。数年以内に2Tバイトのディスクドライブが登場する可能性が高い。現在のエンタープライズクラスのSATAドライブは、MTBF(平均故障間隔)が103万時間だが、1TバイトのディスクドライブのMTBFは120万時間に延びる見込みだ。マックストア(シーゲイトに2006年に買収された)やウェスタンデジタルなどのベンダーも、同社に続いて同様の大容量ディスクドライブを投入するとみられる。

 エンタープライズクラスの1TバイトのSATAディスクドライブの登場が近づく中、折しもデータセンターでは、ラックスペースや床面積、消費電力を節約しながら、より大量のデータを保存することが大きな課題となっている。「アレイベンダーはより大容量のドライブを求めている」とスティージ氏。750Gバイトドライブの消費電力は、500Gバイトドライブと同程度にとどまる。1Tバイトドライブは、同じエンクロージャの既存ドライブよりも消費電力当たり容量が50%多くなる。

 極めて大容量のドライブは、RAIDの再構築に時間がかかるという難があるが、それでもストレージ管理者は、こうしたドライブを歓迎している。「われわれは1Tバイトディスクに強い関心がある」とスランバーランドのインフラチームマネジャー、セス・ミッチェル氏は語る。同社は米国中西部に寝具店を100店舗以上展開している。現在、スランバーランドは500GバイトのFCディスクを使用しているが、より大容量のドライブが使えれば、同社はコストを削減できる。同社のディスクアレイの提供元であるコンペレントテクノロジーズは、スピンドル単位の価格設定を採用しているからだ。1Tバイトドライブは、アーカイビングやデータ保持、コンプライアンス、ディスクへのバックアップなど、大量のデータを扱うが、それほど高いパフォーマンスは要求されない用途で普及する見通しだ。

仮想化

 2年前、われわれは2005年のホットな技術の1つとして仮想化を選んだ。今回改めて選んだのは、古い格言にあるように、「最初はうまくいかなくても、何度でもやってみよう」というわけだ(【前編】「2006年の予測の成績表」を参照)。われわれは、2007年には仮想化技術が、インフラ全体にわたって浸透すると考えている。「適切に利用されれば、仮想化はあらゆる分野で威力を発揮する」とグラスハウステクノロジーズのフォスケット氏は語る。

 仮想化は、ネットワークストレージ環境のほとんどの分野で利用されつつあり、ストレージ統合の中心的要素となっている。異種混在ストレージ環境の管理を自動化するには、ベースとなるストレージデバイスの複雑さを隠ぺいする仮想化レイヤが必ず必要になる。われわれは2007年には、仮想化をどこに適用するかを見極める方法論はまだ確立されないと考えているが、仮想化の価値が疑問視されることはまったくなくなると考えている。

 2007年にはファイルの仮想化が特に注目を集めるだろう。インフォプロのストレージ担当マネージングディレクター、ロバート・スティーブンソン氏は、NASのデータセンターへの導入が急速に拡大しており、2007年にストレージ管理者は、アコピアネットワークスの「Adaptive Resource Switch(ARX)」やEMCの「Rainfinity」などのファイル仮想化製品を利用して、ファイル管理の向上に重点的に取り組むだろうと話している。

シンプロビジョニング

 シンプロビジョニングを理解する一番の近道は、航空会社のオーバーブッキングになぞらえることだ。航空会社は、過去の予約客の行動分析から、一定の割合の予約客がキャンセルすることを知っている。このため、定員以上に予約を受け付けている。

 「シンプロビジョニングはオーバーブッキングとまったく変わらない」とストレージIOグループの創業者で上級アナリストを務めるグレッグ・シュルツ氏は語る。「シンプロビジョニングでは、各ホストに割り当てられるストレージ容量は、必要に応じて動的に追加される。これは、すべてのホストが必要とする容量が、実際に提供可能な容量をすぐに上回ることはないという前提で行われる」

 シンプロビジョニングでは、容量の使用状況を綿密に分析し、物理容量を必要に応じてあらかじめ拡張することが肝心だ。「現在では、多くのベンダーがシンプロビジョニングソリューションを提供している。これらのソリューションの間では、容量の使用状況をいかに的確に追跡し、予測するかという点で違いがある」とシュルツ氏は語る。

 シンプロビジョニングは3PARdataが草分けだが、コンペレントレフトハンドネットワークスネットワーク・アプライアンスなどのベンダーも力を入れていると、エンタープライズストラテジーグループのアナリスト、マーク・バウカー氏は語る。ピラーデータシステムズも来年初めに「Axiom」アレイにシンプロビジョニング機能を追加する予定で、バウカー氏は、さらに多くのベンダーがこの機能の提供に乗り出すと見ている。

 なお、シンプロビジョニングはストレージオンデマンドとは異なるものだ。ストレージオンデマンドでは、余分な容量がアレイ内に物理的に用意されているが、ユーザーがキーを購入して割り当てを行うまでアクセスされない。シンプロビジョニングでは、余分な物理容量はない。より多くの物理ディスクが必要になった場合は、ユーザーが入手してアレイに組み込むことになる。その一方でホストには、常に十分な容量が割り当てられる。

躍進の年

 われわれは、2007年にこれら5つの技術が大きく躍進すると見ている。メインフレームデータセンターを持つ企業の間では、ハードウェアベースのテープ暗号化が、企業データを保護するための魅力的なソリューションとして人気を呼ぶだろう。中小企業を引き付けてきたiSCSI SANは、さらに広い支持を集めそうだ。現在、大企業にとってiSCSI SANは、ビジネスニーズに即してストレージ環境を整備し、運用するための新たな選択肢となっている。

 大容量ディスクドライブは、ほとんどの企業でバックアップやコンプライアンス、アーカイビングに活用できる。シンプロビジョニングは、ストレージ容量の無駄を省き、必要なときに必要なだけ容量を確保できる環境を提供し、コスト削減を可能にする。そして、われわれは以前も仮想化をホットな技術として挙げたが、仮想化、中でもファイル仮想化は、今年こそ目覚ましい躍進をみせるだろう。

■2007年に注目すべきストレージ規格

ストレージ規格 説明
FAIS(Fabric Application Interface Standard) INCITS(情報技術規格国際委員会)のT11技術委員会が開発した規格。
インテリジェントFibre Channel(FC)スイッチの標準インタフェースを提供する。FAISにより、管理製品がFAIS対応のインテリジェントスイッチを、個々のスイッチのAPIを意識せずに扱うことが可能になる。インテリジェント機能を備えたスマートスイッチがストレージネットワークで利用される中、FAISのおかげで管理アプリケーションベンダーは、さまざまなメーカーのインテリジェントスイッチ上で動作する製品を、単一のインタフェースを使って開発できる。
NPIV(N_Port ID Virtualization) FAISと同じくINCITS T11技術委員会が開発した規格。
1つのN_Portに複数のFC IDを割り当てる手段を提供し、仮想ホストのゾーニングとマスキングを可能にすることで、複数の仮想サーバが1つの物理ポートでI/Oを共有できるようにする。スイッチや部品の大手ベンダーであるブロケードコミュニケーションズシステムズ、シスコシステムズ、エミュレックス、マクデータ(ブロケードによる買収が近く完了)、キューロジックがNPIVをサポートしている。NPIVにより、複数の仮想ホストが1つの物理ポートを共有していても、各仮想ホストが、マスキングとゾーニングに必要な固有の物理ポートを持つかのように扱われる。
SMI-S(Storage Management Initiative Specification) SMI-SのVersion 2では、ホストベースコントローラ、ストレージエンクロージャ、ファイルシステムクオータのサポート、ボリューム保護、スナップショットとレプリケーションの一貫性管理に関する仕様が追加される。
FIPS(Federal Information Processing Standard)140-2 コンピュータ/通信システム上の機密情報を保護するための暗号化の要件を規定する米国政府の規格。
FIPS 140-2では、暗号モジュールの安全な設計と実装にかかわる4つのセキュリティレベルと11の分野が定義されている。米国の政府機関で使われる製品は、FIPS 140-2に準拠している必要がある。また、この規格は、将来的に政府機関と取引する可能性のある民間企業や組織でも広く採用されている。

■2007年の選外となったストレージ技術

技術 課題
データ二重化 メリットは明らかだが、データの分散とバックアップに関する複雑な問題が解決されなければならない。来年は期待が持てるかもしれない。
継続的データ保護(CDP) CDPはブロックデータのリカバリ技術の革新としてもてはやされているが、CDPベンダーは現在、ファイルベースのデータに軸足を移しつつある。CDPは、広く使われているバックアップ、ディザスタリカバリ、レプリケーション製品の機能の一部になると見られる。
データ分類 データ分類は、データの階層化、規制遵守、情報ライフサイクル管理に不可欠だ。だが、ほとんどの企業はまだ、これらの機能を提供するかなり新しい製品の内部評価を始めたばかりだ。
情報ライフサイクル管理(ILM) この技術が十分な実用レベルになることを誰もが望んでいる。しかし、データ分類など、ILMソリューションのあまりにも多くの構成要素がまだ未成熟だ。アナリストはそれらの成熟には18〜24カ月かかるとしている。成熟が早く進むことを祈ろう。

[Alan Radding,TechTarget]

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