マシンルームから愛を込めて【第2回】
大惨事を招く前に……システム運用の改善は「可視化」から
システム運用は「いざ」というときに備えることが重要だ。バックアップ、システム冗長化、定期メンテナンス……。でもこれらの前に、やっておくべき大事なことがある。それは、日々の仕事の「可視化」だ。
前回「運用管理に『コーン入りしょうゆラーメン』の発想を」は、「コーン入りしょうゆラーメン」という一風変わった例えで、「システム運用はサービス業である」という話をしました。今回はそこからさらに一歩進んで、このシステム運用というサービスを「可視化」するにはどうすればいいのか、という話をしてみたいと思います。
「可視化」……何とも取っつきにくい言葉ですね。そもそも、可視化とは一体何なのでしょか? なぜシステム運用に可視化が必要なのでしょうか? 具体的に何をすれば、可視化できるようになるのでしょうか?
この可視化という不可解なキーワードを理解するべく、1つ1つひも解いていきましょう。
「可視化」とは?
可視化という言葉をWikipediaで調べてみると、「人間が直接『見る』ことのできない現象や事象、あるいは関係性を、『見る』ことのできるもの(画像、映像、グラフ、図、表など)にすることをいう」とあります。なるほど、本来は直接目に見えないものを見えるようにするわけですね。
前回、「システム運用はサービス業である」ということを説明した際、「サービス」とは「売り買いした後にモノが残らず、効用や満足などを提供する、形のない財のこと」と定義しました。さてさて、「形のない財」……これも何だか難しい言い回しですが、要するにこれも「直接見ることができないもの」ですよね。
成形された製品であれば、形となり目に見えるモノになりますが、「見ることができない財」であるシステム運用というサービスは、どうしたら見えるようになるのでしょう? システム運用の世界で「可視化」という場合には、まずこの根本的な問いから出発することになると思います。
システム運用になぜ可視化が必要?
そもそも、なぜシステム運用の仕事に可視化が必要なのでしょうか?
ここで、弊社インフォリスクマネージが実際に経験した苦い思い出を1つ紹介したいと思います。
以前、弊社がシステム運用を請け負っていたある顧客のシステムで、障害が発生したときの話です。この案件では、諸事情から弊社の担当者が1人でシステム運用を担当していたのですが、運が悪いことに休日の深夜にシステム障害が発生してしまいました。弊社のシステム監視スタッフが障害アラートを検知し、この運用担当者に電話で連絡を入れたのですが、鳴らせど鳴らせど一向に電話に出る気配がありません。システムは完全に停止、もうクレーム寸前の状態です。
そこで急きょ、別の運用担当者を捕まえてピンチヒッターに立てたのですが、さらに不幸なことに、障害を起こしているシステムを復旧するために必要な資料が、どこに保存されているのかさっぱり分かりません。対応できる人間がその場にいるのに、その手段、すなわち情報がないばかりに、手も足も出ないのです!
幸いなことに、しばらくしてから本来の担当者から連絡があり、システムを無事復旧することができました。しかし、一歩間違えれば顧客が大損害を被ることはもちろん、これまで築き上げたわたしたちの信頼も一瞬にして失ってしまうところでした。
どんなに高い技術スキルを持った人間でも、必要な情報がなければ運用サービスを提供することはできません。裏を返せば、必要な情報が常に参照できる状態になっていれば、こうした突発的な状況でも対応できるわけです。このケースでは、運用担当者1人1人が持っている情報が、ほかの担当者から見えない状態になっていたのが問題でした。これをお互いに見える状態にする、すなわち可視化する必要があったのです。
システム運用はサービス業なのですから、そのサービスが一切提供できなくなるというのは、これはもう最悪の事態です。特定の人間に依存せず、「組織的」に「安定した」サービスを「継続的」に提供するためには、可視化は不可欠なのです。
どうすればサービスを可視化できるのか?
このような苦い経験をしたわたしたちは、ある結論に達しました。それは、誰しも病気にかかったり事故に遭う可能性がある以上、個人に依存しているサービスはいつか提供できなくなる可能性が常にあるということです。
それ以降、弊社ではシステム運用サービスの可視化に取り組んできました。ここでは、そのノウハウの一端を紹介したいと思います。
絶対守るべきルールを決める
まず、各担当者の頭の中やローカルPCの中に保存されている閉鎖的な情報を外から見えるようにする、すなわち「見える化」しなければなりません。しかし、これがなかなか一筋縄ではいかないのです。一口に「システム運用」と言っても、その遂行のために必要な情報は実に多岐にわたるからです。
参考までに、ごく一般的な運用ドキュメントを思い付くままに挙げてみると、ラック図、ネットワーク構成図、機器構成管理シート、保守ベンダーリスト、アドレス管理リスト、作業手順書、作業チェックシート、障害管理表……これでもまだ、ほんの一例です。しかも、各担当者によってドキュメントの書き方やフォーマットが違っていたり、中には本人にしか解読できないような暗号みたいなドキュメントもあったりします。
ここで、情報を複数の人間同士で参照・活用するために、わたしたちが徹底している4つのルール/ガイドラインを紹介したいと思います。
- 内容に漏れがないこと
- 情報の保存場所が明確であること
- 誰が見ても理解できる内容であること
- 常に最新の状態が保たれていること
紙幅の関係上詳しい説明は省きますが、この4つのルール/ガイドラインを徹底することで、サービスの提供に必要な情報を、不整合を起こすことなく、いつでも誰でも容易に参照することが可能になりました。皆さんの現場でも、ぜひ適用してみることをお勧めします。システム運用業務全体の見晴らしが、飛躍的に向上すると思います。
ただし、この4つはあくまでも基本です。各企業のシステム運用現場では、それぞれ特有のデータやツールを運用しているかと思います。そうした現場固有の事情に当てはめながら、これらルールの実際の運用をイメージしてもらえればいいかと思います。
可視化の実現方法はいろいろ
可視化を実現するための具体的な方法には、いろいろなものが考えられます。専用システムを構築したりパッケージアプリケーションを導入するのはもちろんのこと、場合によってはOffice ExcelやWordのファイルでも十分可能です。
ちなみに弊社では、Webベースの情報管理システム(自社開発)を導入しています。このシステムを基本として、さらに各顧客のシステム固有の運用ドキュメントを個別管理しています。
ITILにも、情報を一元管理するというプロセスがあります。これは、ITサービスの提供に必要なアイテム/情報をCMDB(構成管理データベース)というデータベースで一元管理して、情報を可視化するというプロセスです。このデータベースを構築することで、どの部門のどの担当者も同一の情報を参照できるようになります。「あのITILで決められているのだから」という訳では決してないのですが、やっぱり情報の可視化(見える化)はとても重要なのですね。
可視化の次にやらなくてはいけないこと
「必要な時」に「必要な情報」を「必要としている人間」が活用できるようにする可視化は、顧客に提供する運用サービスの安定度を飛躍的に高める効果があります。では、可視化さえしておけば、安定したサービスが提供できるようになるのでしょうか?
実は、可視化は安定したサービスを実現するための「第一歩」にすぎません。まだやらなくてはいけないことが残っています。ですから、皆さんにも本連載にもうしばらくお付き合いいただければ幸いです。
さて次回は、可視化からさらに一歩進んだ「システム運用サービスの“平準化”」という話をしてみたいと思います。
<筆者紹介>
山本祥一
インフォリスクマネージ株式会社 ソリューションサポート事業部長
2000年インフォリスクマネージ株式会社入社。
システムダウン対策事業(MSP/ホスティング)のセールス、運用設計などに従事。2006年よりソリューションサポート事業部長として、50名以上のエンジニアを部下に抱え、官公庁はじめ、24時間365日止められない大型インターネットシステムの構築支援および運用設計を指揮・統括。また、情報セキュリティマネジメント(ISMS)の審査員も務める。
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