連結ソリューションを提供しているディーバがIFRSの「自主適用」を行った。採用のための条件がある任意適用は断念し、自主的な適用だが、実際にプロジェクトを立ち上げて会計基準の差異分析などから着手。今回は実際にIFRSの財務諸表を作成し、公表するまでを説明する。
連結ソリューション「DivaSystem」を開発、提供しているディーバがIFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)の「自主適用」を行った。国内では、上場企業は連結財務諸表に対してIFRSを任意適用できるが、条件がある。ディーバはその条件に合致せず、自主適用を選択した。自主適用を率いてきたディーバのプロジェクトリーダーがこれまでの作業を説明する(編集部、以下本文)。
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前回は、IFRS自主適用に向けての導入プロジェクトを中心に説明しましたが、今回は、いよいよ本番となる2010年6月期の年度決算の状況を説明します。
2010年6月期のIFRS自主適用決算を一言でいうと、準備不足という表現が当てはまる状況でした。決算の手順はおおよそ確立できていましたが、2009年6月期までの数値が未確定な状況で、当年度分を処理しながら同時に前年度分も再度処理をし直す、つまり2008年6月期と2009年6月期、2010年6月期の3期分を何度も決算処理をすることになりました。
また、日本基準での本決算を担っている経理部には相当の負荷が掛かっていました。というのも、2010年6月期決算から翌月内決算発表という目標を掲げていたため、経理部は決算早期化の課題を優先的に解決する必要がありました。ただ、IFRS自主適用のために経理部とは別体制を用意したとはいっても、各種決算情報や、IFRS調整のための基礎データをそろえるには経理部の協力は不可欠です。
実際、準備の遅れで、IFRS決算は日本基準での決算がほぼ終了してから着手しました。結果的には、決算作業をずらすことで混乱を避けて自主適用ができたのかもしれません。IFRS決算の処理手順は、出来上がった日本基準の連結数値に対してIFRSへの調整仕訳を入れていくことになりますので、前段の日本基準の数値が確定しないと調整仕訳が変動するケースも出てきてしまうからです。
日本基準の決算がほぼ終了したのを見届け、2010年7月の最終週から決算準備も含めたIFRS自主適用決算に入りました。ここで手間取ったのが、その時点でもまだ処理方針が最終確定していなかった収益繰延の論点と、2008年、2009年の決算とは異なる調整をしなければならなかった資産除去債務、そして進行基準適用の調整でした。それぞれについて、少し説明します。
まず、収益繰延の論点ですが、これはトレーニング・サービスにおける未使用受講ポイントの取り扱いに関するものです。ディーバでは、連結システムの各モジュールについて機能説明や操作トレーニングを提供する講座を開催していますが、システムを購入していただいた方にはポイントをお渡しし、ポイントを使って受講してもらう仕組みを採っています。そうすると、必ずしも導入プロジェクト終了までにすべてのポイントを使い切らないケースが出てきますが、その部分がまさにサービス提供が完了していない部分として収益繰延の検討対象になってきます。
ここまではよいとして、ではその金額をどう計算するのかが次に問題になります。実際のシステム販売時にはポイントを包含した金額で受注をする場合も多く、「ポイント相当分を、どう分離反映するか?」という点が重要になってくるのです。最終的には未使用ポイントの評価方法決定が決算中にまでずれ込んでしまいました。
次に資産除去債務の調整です。日本基準では資産除去時の支出は考慮されていませんので、前年までの調整に当たっては、あるべき資産除去債務の計算をすることで調整額を求めることができました。ところが、すでに公表しているとおりディーバ東京本社の移転計画がこの処理を難しくしました。日本基準の決算でも、移転計画に基づいて東京オフィスに限り原状回復費等の引当計上を行いました。
そのため、IFRSへの調整に当たっては、日本基準で計上した引当金を戻すとともに、従来資産除去債務の認識や当該資産の減価償却費の計算根拠に使用していたオフィスの利用予定期間を見直して、調整する必要がありました。
3つ目は進行基準適用の調整です。コンサルティング・サービスは進行基準を適用しますので、日本基準に対する調整を加えますが、受注損失引当金を計上しているような案件のうち、すでに発生している原価と将来見込める収益と原価との関係を考慮して、別の調整が必要な案件が生じました。このため、この件も前年までの処理とは異なる手続きとなりました。
そうこうしながら9月に入り、日本基準からIFRSへの調整を終えて、自主適用による決算数値を確定できました。次には公表資料の作成という作業が残っていますが、またいくつかの問題が発生しました。
当プロジェクトは、開示アプローチで進めてきましたので公表用資料の骨格は出来上がっていましたが、詳細な部分の準備ができておらず、本番での資料作成に大いに時間を要したのです。
まずは、注記の中でも今回の自主適用の根幹になる会計方針の部分です。すでに運用している決算であれば、会計方針の変更点に集中して取り組めばよいのですが、今回は元になるものがまったくないためゼロからの作成でした。また、他社事例が非常に限られている中で、日本語としてある程度こなれた表現をしつつ、会計独特の言い回しを考慮して1文字1文字を会計方針として文章にしなくてはなりません。形にしてみればそれほどではありませんが、実際に文章にすることの困難は、想像していただけると思います。
加えて、曲がりなりにも連結システムを提供しお客さまの決算業務を支援している会社ですから、それなりのセンスのあるものに仕上げなければならないというプレッシャーもありました(結果は別です)。そのため、自然と時間をかけて取りまとめることになりました。その影響もあり、会計方針以降の主に財務諸表の各科目・項目の内容を説明する注記については、大幅に省略する結果となりました。注記項目一覧とそのフォーマットなどの概要までは準備していましたが、残念ながらそれを埋め込むまでには至りませんでした。
また、IFRS初度適用時における調整表の作成についても、今回の自主適用の中でチャレンジしています。IFRS導入を進めている企業が懸念するポイントの1つですが、これについてはシステム側で対応しているため、調整項目ごとの当期利益、利益剰余金への影響金額の集計は比較的容易にできました。
自主適用固有の話としては、「任意適用」ができないことから今回は「初度適用」をしなかった点を、きちんと明示することに留意しました。公表資料の冒頭でも「IFRSに準拠した財務諸表ではありません」と記載したり、IFRSへの移行日についても「みなし移行日」という表現にするなど、細かなところにも気を配る必要がありました。
そして、いよいよ9月16日、IFRS自主適用の連結財務諸表等を公表するに至りました。これで終わりではありませんが、自主適用プロジェクトとしては1つの区切りとなる瞬間でした(ディーバの発表資料)。
今回のプロジェクトでは、自主適用資料の公表までを最初の目標として突き進んできました。この先は、やり残した課題を継続的に解消しながら、業務の安定化、および自主適用でなく本適用に向けた準備が必要になると思います。
まずは、前述のとおり断念した注記の作成です。公表情報として不十分ですし、注記の中で説明することを前提に、財務諸表上では要約した勘定科目で表示していることから、解消は必須と考えています。IFRSの特徴として、従来から注記情報が多くなりデータ収集や作成資料も大幅に増大することが挙げられています。当社としては提供するソリューションとして成長させるために、近い将来必ず体感しなければならない事項だと考えています。
次に、今回の自主適用プロジェクトにおいては、導入スタート時点から体制が十分ではありませんでした。前述の課題解決や、今後も継続して運用することを考えれば、それに耐え得る体制整備が必要です。併せて、会計方針書をきちんと整備し、決算手順書についても実践を通じて判明した事項を反映させて整備しておく必要があります。
今回の自主適用はあくまでも自主的に行ったものですので、本適用の際はこれ以上に、というよりも格段に大変になるでしょう。監査人との合意形成だけでも、IFRSの本適用に際しては多くの人員と時間を確保しなければならないことが予想できます。
とはいえ、ただこのままの状態で続けるというのも能がありませんので、日本基準での決算とIFRS決算の並行業務を効率化する取り組みもしなければなりません。これは、避けられない取り組みと考えています。IFRSはムービングターゲットと言われていますが、並行する日本基準もどんどん変わっていきますので、それらを吸収していくことも不可欠です。
また、将来的にIFRSを本適用するに当たっては、もう一段の決算プロセスの移行があることも念頭に置き、プロジェクトを進める必要があります。今回は日本基準での決算を正として、IFRSの調整を加える形で業務を組み立てていますが、本適用後には日本基準の決算は終息していきます。その時の決算プロセスをきちんと確立しておくことが求められるのです。
2010年6月期で取り組んだIFRSの自主適用ですが、IFRSの導入手続きを一通り実践し全体感に目鼻を付けることで、本適用に向けて安心して備えることができるという効果がありました。仮にでも実行しておくこと、また小さく始めてきちんと育てていくアプローチは、一度の取り組みで完成品を作り上げるアプローチとはまた別のアプローチとして、有効です。IFRS対応が始まったばかりかもしれませんが、皆さんの会社でも一度検討されてみてはいかがでしょうか。
われわれは、今回の自主適用を通じて得られた経験、知見や、今後の活動から得られる示唆を生かし切り、いま現在弊社のシステムを利用されているお客さまのみならず、IFRSを導入していく日本中の企業の皆さまが、効率的に最短距離でIFRS対応ができるよう、製品、サービスなどのソリューションを準備し提供していくことが使命だと考えています。
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