事例で学ぶBI活用のアイデア【第6回】
2500人が活用する全社連携BIシステムを構築したIT企業事例
最もBI展開が難しいとされる営業現場への導入から、段階的な全社展開を成し遂げたあるIT企業。AccessやExcelでのリポート作成に限界を感じている企業にぜひ読んでほしい事例だ。
なぜ営業現場のBI展開は難しいのか
ビジネスインテリジェンス(BI)の導入において、一般的に最も展開が難しいといわれているのが営業現場だ。最近ではSFA(Sales Force Automation)やCRM(Customer Relationship Management)の導入が一般的になり、営業現場でのIT利用は進んではいるものの、経理部門や経営企画、営業企画といった管理、企画部門などに比べるとデータの活用が業務の中に浸透していないためだと筆者は考えている。
以前執筆した連載、「部長のためのBI活用講座」の第1回「営業部長、SFAデータを本当に使えていますか?」で、BIを使って営業活動の中でSFAのデータを生かすという話を紹介した。今回紹介するBI活用事例では、約600人の営業担当者が日々の営業活動の中で、SFAだけでなく社内システムのデータをBIで活用している。その後、営業部門だけでなく、全体で2500人が利用する全社連携の集計システムへと全社レベルのデータ活用に発展している。
Access、Excel作業の限界、リポートの鮮度と自由度が課題
事例企業プロファイル
業種
- ITサービス業
企業規模・業種内容の参考データ
- 従業員数約2500人
- 約600人の営業担当者を含め、全体でBIツールを利用
- システムインテグレーション、アウトソーシング、ASPサービス、ソフトウェアの設計、開発、販売、保守、ネットビジネス、機器販売などを手掛ける
創業以来、アウトソーシングサービス、システムインテグレーションサービス、プラットフォームサービスを組み合わせた“サービスインテグレーター”としての歴史と実績を持つIT企業。同社は中堅企業を支援する大手ITベンダーグループの中核企業として自社内のIT化にも力を入れており、その一貫としてBIツールを全社採用した。2007年に営業部門向けの集計システムを構築した他、2008年には情報システム部門の原価管理システムを構築している。
営業部門向けの集計システム導入以前はSFAを導入していたが、SFAに蓄積された営業データだけでは営業活動の全体状況を把握することが困難という課題を抱えていた。SFAをはじめ、各種のデータが社内に分散しているため、必要なデータがどこにあるのか分らない。そこで、営業データの見える化を推進する経営企画部では、「これだけの活動をしたから、これだけの実績につながった」という分析が可能な仕組みを構築したいと考えていた。
また情報システム部門では、Microsoft Access(以下、Access)から必要なデータを抽出し、Microsoft Excel(以下、Excel)で加工することで、原価管理などのリポートを作成していた。しかし、AccessやExcelでリポートを作成すると、リポートの内容改定のたびにプログラムを変更しなければならない。そのため、本業ではない改変作業に時間がかかる他、急な変更にも対応できなかった。
特にリポート作成には、開発期間が2~3週間かかってしまうこともあり、情報の鮮度が落ちるという問題もあった。さらに、常に同じ情報しか参照できない定型リポートのため、だんだんとマンネリ化が進み、利用されなくなるという課題も抱えていた。
このような課題は、どこの企業でも多かれ少なかれあるのではないだろうか。当初は目的があって作成した定型リポートだが、組織が変わり、環境が急激に変わっていく中で、せっかく作成した定型リポートは利用価値を維持できているのだろうか。かといって定型リポートの作成や提供を止めてしまうと、仮に誰かが少しでも利用していたとすればすぐにクレームとなってしまう。同社も同様の悩みを抱えており、しかも全社のリポートの数は膨大で、利用調査で社員全員に確認することは不可能だった。
業務の課題を自ら解決するセルフマネジメントを実現
こうした状況を解決するために、社内に分散したデータを一元化し、各部門の担当者が抱えている課題をセルフマネジメントで解決できる「集計システム」をBIツールで構築することを決定した。
まず、2007年上期にSFAと連携した営業活動データ分析の導入を開始し、2007年下期には基幹システムと連携した顧客セグメント別の各種分析用データを提供開始。2008年上期にWeb対応による操作性の改善、2008年下期に利用部門でのKPIモニタリングツールとしての定着に取り組むなど、段階的にシステムを拡張している。
その結果、現在では約600人の営業担当者がBIツールを使って日々の営業活動の分析を行っている。売り上げ実績や見込みのデータを、案件ごと、商品ごとなどで分析できる約50種類のリポートを開発し、活用している。活動から見込み、実績と、必要なデータが全て関連付けされているのが特徴だ。これにより、営業担当者は分析に必要なリポート作成時間が大幅に削減され、本来の営業活動に専念できるようになった。
まさに今回の事例はBI導入によりSFAをさらに有効に活用し、ビジネスへの価値を高めた事例といえるのではないだろうか。
BI導入でデータの信頼性確保と各現場の作業負荷軽減を実現
また、これまでも実績データに関しては基幹システムのデータを突き合わせれば分かったが、見込みデータに関しては営業担当者が自由に加工できるため、データの信頼性に疑問があった。今回の仕組みのデータを使うことで、2次加工、3次加工しても元データが同じなのでデータの信頼性確保にも成功している。データの信頼性が確保できるようになることは、BI導入における大きな効果の1つだ。
BIツールを導入したことで、計画部門の作業負荷が大幅に削減されている。社内システムから各担当者がローカルに抽出したデータを用いて職人技で作成していたリポートを、導入後は2~3日で容易に作成できるようになった。
さらに情報システム部門では、集計システムを参考に、現場から経営層まで役立つ情報の見える化に向けた検討を開始。2008年下期より、既存の原価管理リポートに基づく情報公開の即時性向上とリポート作成の簡素化を同じBIツールで実現している。これによりリポート公開までの期間を短縮し、毎月の運用コストの大幅削減に成功した。
このように、営業部門をはじめBIツールの活用が全社に展開されている中で、現場の利用者にはまだ温度差もあるようだ。リテラシーの差もあり、すぐには浸透しないのが実情だが、今後は講習会などの啓蒙活動を続けていくことで、必ずその良さを実感してもらえると確信しているとのことだ。
IT企業の事例は意外と参考になる
今回紹介したBI導入企業は冒頭でも説明した通り、アウトソーシングサービス、システムインテグレーションサービス、プラットフォームサービスを組み合わせたベストソリューションを提供するサービスインテグレーターであるため、この「集計システム」構築で培った経験やノウハウを生かし、BIビジネスを強化していく計画だ。将来的には社内で蓄積したノウハウをテンプレート化したり、パッケージ化したりして販売していくという。
IT企業は「紺屋の白袴」で、システム化が遅れているのでは? との話がある一方で、多くのシステム構築の経験、しかもさまざまなツールの利用経験を基に自社システムを構築しているため、興味深い事例が多い。
エンドユーザー企業に多くの競合の中から自社のシステム提案を選択してもらうという厳しい経験の中で得たナレッジをベースに、より厳しい目でツール選択やシステム構築を行っていることが想像できる。また、あるIT企業の事例では、製品選定に当たって17社ものBI製品を比較したという話もある。もしBIを具体的に検討しているのであれば、取引のあるIT企業に自社で導入している製品や具体的な使い方を聞いてみるのも面白いかもしれない。
小島 薫
ウイングアーク テクノロジーズ株式会社 BIサポート本部 本部長
1stホールディングス株式会社 BI事業部 事業部長
石川県出身 1959年生まれ。製造業でのシステム構築、経営企画などに従事した後に、独立系パッケージベンダーに入社。汎用機からオープンシステムまでの基幹系データベースを中心に、データウェアハウス(DWH)、XML関連のサポート、プリセールス、コンサルティング、マーケティングを経験。2005年にウイングアーク テクノロジーズに入社し、技術部門、マーケティング部門、製品戦略部門の部門長を経て、国内外を含めた製品戦略に携り、現職に至る。
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事例で学ぶBI活用のアイデア
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