【事例】レスポンス悪化やトラブルを解決――資生堂の仮想デスクトップ導入奮闘記内外システムの融合でセキュリティを強固に

資生堂は販売子会社で仮想デスクトップを大規模に導入した。深刻なトラブルに見舞われながらも、3500台のPCを一括してDaaSに移行。本稿では、その奮闘記をプロジェクト成功のポイントとともにリポートする。

2012年10月01日 08時00分 公開
[石田 己津人]

 「なんでこんなもの入れたの」「なんでこんなに動かないの」――2011年11月初旬、資生堂 情報企画部の毛戸一彦氏は、都内のある事業所で40人ほどのユーザーに囲まれ、こう責め立てられた。

 資生堂の国内販売子会社、資生堂販売においては当時、営業職や内勤社員が利用する3500台のPCを仮想デスクトップに移行させているさなかだった。だが、その事業所では新しく用意した仮想デスクトップ端末の3分の2が使われていなかった。古くて遅いクライアント端末と比べても使い物にならなかったのだ。

 「謝るしかなかった」(毛戸氏)。

 2011年末には完了させるはずだった仮想デスクトップ端末導入を即座に中断。それから2カ月は連日連夜、ベンダーと検証と会議を繰り返す“地獄の日々”だった。

内外システムの融合でセキュリティ強化

 従業員1万6300人(8割は店頭の販売員)を擁する資生堂販売では、急速に進んだIT投資の結果、多分にもれずITインフラが複雑化していた。そのIT環境を開発・保守する親会社IT部門も人員が限られており、合理化は待った無しだったのだ。

 2005年ごろからサーバ集約やネットワーク再構築が進められた。その情報インフラ見直しの総仕上げとして、仮想デスクトップ導入が決まったのだ。PCの運用負担、コストを減らすのが狙いなのはもちろんだが、最大の理由はセキュリティである。

 当時、資生堂は2012年4月に向けて、新しいWebサイト「watashi+」のオープンを計画していた。Webカウンセリング、オンラインショップ、ポイントプログラム、店舗ナビなどのサービスを会員に提供し、Webを介して顧客や店舗と直接つながる。「外と内の仕組みがどんどん融合し、今後はFacebookやTwitterとも連携していくだろう。顧客の個人情報を扱うことになるwatashi+のオープンを念頭に、社内のPCセキュリティを一層強固にしなくてはいけない」(毛戸氏)

最終候補3社の提案実現性を見極める

 仮想デスクトップは新しい技術だけに、ベンダー選定には慎重を期した。2010年11月、「要求通り動きさえすれば、インフラ形態に拘らない」との方針の下、9社に提案依頼書を出し、そこからまず3社に絞り込み、2カ月間にわたり提案の実現性を見極める検証を重ねた。もちろん実機・実地での検証も行った。その結果、「問題解決の対応が早い」という理由で新日鉄ソリューションズ(NSSOL)を選ぶ。

 NSSOLの提案は「Citrix XenDesktop」を利用した仮想デスクトップ。サーバで実行する仮想マシンの画面情報を送信する「仮想PC型」と、サーバ上のデスクトップイメージを遠隔起動してローカル処理する「ネットワークブート型」と2つ方法で、自社データセンターを介して仮想デスクトップを配信する。つまり、プライベートクラウド型のDaaS(Desktop as a Service)である。組み込みOS「Windows Embedded」を組み込んだ特注シンクライアント端末とヘルプデスクの供給も手掛ける。

 NSSOL ITインフラソリューション事業本部の稲葉英治氏はこう話す。「資生堂販売は全国に拠点があり、通信帯域を確保しにくいところもあるため、(必要な通信帯域が小さいとされる)ICAプロトコルのCitrix XenDesktopを選んだ。既存デスクトップ環境の継続を第一に考え、サーバOSに依存するXenAppではなく、XenDesktopを採用した」

図 資生堂が採用したDaaSのシステム概要

大震災の影響で見切り発車を迫られる

 2011年3月に導入プロジェクトは始まった。慎重にベンダーを選び、提案の実現性は十分見極めたはずだったが……プロジェクトは予想外に難航した。

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