三井住友海上英国支社のCIO、リチャード・ウィリアムズ氏はイノベーションの推進に注力している。リスクも辞さない取り組みで、いかにイノベーションを発掘しているのか?
三井住友海上火災保険(以下「三井住友海上」)の英国支社でCIOを務めるリチャード・ウィリアムズ氏は、CIOには積極的にイノベーションを進める勇気が必要と話す。
ウィリアムズ氏が本誌Computer Weeklyに語ったところによると、三井住友海上では3種類の業務ペースを使い分けてイノベーションを図っている。従来のサプライヤーとの連携を維持する一方で、小規模な新興企業が発信するテクノロジーも取り入れている。小規模のベンダーから提供されるテクノロジーには、従来のITシステムを補完する効果があると同氏は考えている。
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ウィリアムズ氏は次に挙げる3種類の業務プロセスを使い分けることで、同社のITプロセスのイノベーションを進めている。
基幹業務の運用は、大手サプライヤーが担当する安定したシステムで行う。次に大手ではないベンダーが提供するツールを採用して、競争力を強化する。最後に「イノベーション層」を設けて、斬新なアイデアを試している。
三井住友海上は今でも「Microsoft専門」で、社内で利用するソフトウェアは同社製品で統一している。一方、ウィリアムズ氏は他社のテクノロジーにも目を向けているという。
保険業界では、どの企業もレガシーITシステムの扱いに苦慮していると同氏は語る。システムの移行やアップグレードは、コスト的に不可能だ。しかし社内の基礎的なデータは全てそのレガシーシステムに収められている。従って、現状のまま運用するしかない。そこでウィリアムズ氏は、レガシーITと共存できて、かつ将来性のある斬新なテクノロジーを求めて、より小規模な企業に期待を寄せる。
ウィリアムズ氏は三井住友海上に入社して3年になるが、特定業界を対象とした保険を専門に扱う企業、英Beazleyに在籍した前歴を持つ。そんなウィリアムズ氏は、CIOの立場でイノベーションを推進するには、従来のサプライヤーを受け入れると同時に新しいテクノロジーにも目を向けるといった、多様なアプローチを実践することが重要だと強調する。
「基幹業務をこなすためのシステムは、単調な処理でも着実に実行する信頼性の高いものでなければならない」。その一方で同氏は、素晴らしいアイデアや興味深いテクノロジーを武器とするベンダーには、企業の規模にこだわらず門戸を開いている。このような活動は、大企業である三井住友海上の新たな側面といえる。
「アプリケーションの開発によって成長してきた企業の価値観は、われわれのそれとは違う」と同氏は指摘する。「やりたいと思ったことを思った通りに、さっと簡単に、自由な方法で実現することが肝心だ。当社の経験では、小規模なベンダーの方が革新的なアプリケーションを作ることが多く仕事も速い。さらに、そのアプリケーションの質も高い」(ウィリアムズ氏)
ウィリアムズ氏が注目した小規模なベンダーの一例として、クラウドサービスの新興企業である英Huddleが挙げられる。三井住友海上がHuddleのコラボレーションおよびドキュメント共有用のツールを試験的に導入したのは2011年のことだった。
三井住友海上のような老舗企業の場合、これは異例の試みだが、ウィリアムズ氏は小規模なベンダーでも構わずに声をかけて、イノベーションの概念検証(PoC)を社内で積極的に進める。
「小さい会社の方が、大企業よりも革新的な業務に取り組んでいることが多く、開発作業のスピードも速い。それに、進行中の業務に対する集中力も非常に高い」(ウィリアムズ氏)
ウィリアムズ氏は、Huddleは顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)に非常に気を配ると評価する。数年前にHuddleがアプリケーションの通知メッセージを更新して公開したときの仕事ぶりを、ウィリアムズ氏は「シティ(ロンドンの金融街)ではなくシリコンラウンドアバウト(ロンドン市内でハイテク企業の集まる地区)流のやり方だった」と振り返った。ウィリアムズ氏はHuddleに対して、新しいメッセージの文体はくだけていて、三井住友海上の社内で使用している他のアプリケーションになじまないと連絡した。これに対するHuddleの反応は、ウィリアムズ氏の予測を超えていた。
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