XBRLはさまざまな企業グループの財務データを標準化させるための枠組みであるため、自社のグループ会社の勘定科目を標準化させる目的にも応用できる。XBRLを生かした会計処理の効率化の考え方を紹介しよう
日本ではXBRL形式の財務諸表をEDINETなどに提出する実務がすでに行われているため、報告企業におけるXBRLおよびタクソノミに対する理解は進んでいると考えられる(前回記事:XBRLに再び注目すべきこれだけの理由)。
しかし、実際にはタクソノミの詳細を理解しないままXBRLによる報告を行っている企業も多い。なぜならば報告会社は印刷会社が提供する報告ツール(宝印刷:X-Editor、プロネクサス:PRONEXUS WORKS)に財務数値を入力すればある程度機械的にXBRL変換が可能であるため、単に報告目的であるととらえれば報告企業側では必ずしも財務情報のXBRL変換の仕組みを理解する必要がないからである。そのため、経理部門では現状、XBRLの恩恵を特に意識していないと考えられるが、IFRS時代に向けて活用の手立てはないだろうか。
元々XBRLはさまざまな企業グループの財務データを標準化させるための枠組みであるため、自社のグループ会社の勘定科目を標準化させる目的にも応用できるはずである。そこで、今後のIFRSへのアドプションを見越して、XBRLの枠組みを利用して自社のグループ会計方針を整備することが考えられる。
IFRS(IAS27号24項)では、「連結財務諸表は、同様の状況における類似する取引およびその他の事象に監視、統一の会計方針を用いて作成しなければならない」として、連結グループ全体で統一の会計方針を適用することを求めている。
会計方針の統一の進め方としては、親会社およびグループ会社の会計方針の調査を通じて差異項目を識別し、グループとしての統一方針を決定するというプロセスを重ねていくことになる。例えば会計方針に関する聞き取りまたは文書での調査によって、製品Aの製造装置について親会社では定率法を採用しているが子会社では定額法を採用していることを識別し、当該製造設備の利用状況を勘案してグループ全体としては定額法に統一する、というような具合である。
会計方針の統一を進めていくうえでは、併せて勘定科目についても統一すべきかどうかが問題になる。理想的には勘定科目は統一すべきであり、勘定科目が統一されていれば連結決算を行う場合に無用な科目の組み換えを行う手間の軽減と財務諸表の精度向上に寄与する。
IFRSをきっかけに、XBRLを活用、グループ会計方針の整備、連結決算の効率化につなげられるといえる。
しかし、実際に勘定科目の統一を行うとなると、特に業種業態の異なるグループ会社や在外のグループ会社が存在する場合は何をどこまで統一すればよいのか判断に困難を伴う場合も多い。そこで、XBRLのタクソノミを参考にすることでヒントが得られると考えられる。
グループ会計方針統一、勘定科目の標準化については経理部門が主導することが多いと考えられるが、タクソノミを理解することは作業を進めるうえで有益であると考える。下記に作業を進めるに当たってのポイント、要検討事項について触れる。
現状では各国ごとに異なるタクソノミが作成されており、日本におけるタクソノミ(EDINETタクソノミ)の設定主体は金融庁である。EDINETタクソノミは定期的な更新が行われており、最新のタクソノミは2010年3月11日に公表された。金融庁による「2010年版EDINETタクソノミ及び関連資料の公表について」では「勘定科目リスト」やその説明資料、また「勘定科目の取り扱いに関するガイドライン」などが示されており、EDINETタクソノミを理解するための資料が整備されている。
一般的に各社がグループの勘定科目の統一を進めるに当たっては、以下のような課題に対応する必要がある。
これらの課題への対応も鑑み、以下のようにEDINETタクソノミを利用することが考えられる。
標準勘定科目として利用する
グループ勘定科目の統一を行うに当たっては、親会社の既存科目をベースとする方法やテンプレートを使用する方法などさまざまなものがあるが、XBRLのタクソノミはいわば日本における勘定科目のスタンダードともいえ、ベースとして使用する勘定科目体系として最適である。すなわちEDINETタクソノミの勘定体系を基準として、また、業種の異なる会社に特有の勘定科目の追加をどの程度許容すべきかという点については、EDINETタクソノミにおける業種別勘定科目の範囲で許容するというような形で対応することも考えられる。
グループ会社へのガイドラインとして活用する
金融庁が公表している「勘定科目の取扱いに関するガイドライン」ではEDINET報告企業がEDINETタクソノミの勘定科目に合わせるためのQ&Aが示されているが、これはグループ会社が自社の勘定科目をグループの標準勘定科目に合わせるためのガイドラインとしても応用できるだろう。現状の勘定科目と表示区分が異なる場合の対応や、名称が一致しない場合などの取り扱いについての説明がなされている。
前述の通りEDINETタクソノミはグループ勘定科目の統一に役立つ部分が多いが、各社独自に検討を要する事項もあるため留意が必要である。
勘定コード体系
財務データは通常システムで管理されるため、勘定科目の統一に際して勘定科目コードの統一も検討する必要がある。しかし、EDINETタクソノミでは勘定コードの定義はないため、コード体系については会計システムの仕様などを勘案し、各社独自で検討する必要がある。
勘定科目の詳細定義
EDINETタクソノミには勘定科目の利用方法や詳細な定義はない。例えば、事務用品を処理するのは「消耗品費」なのか「事務用消耗品費」なのかについては会計方針の整備と併せて各社で定義する必要がある。
EDINETによる有価証券報告書、半期報告書、有価証券届出書および自己株券買付状況報告書など開示書類を電子提出する仕組みは、財務開示を実施する企業・組織に向けてすでに2004年6月1日から本格稼働している。加えて、2008年7月からは東証に提出する決算短信においてもXBRLによる提出が行われている。
しかし、前出のとおり印刷会社が提供する報告ツールでXBRL変換を行っていることが多いため、会社の会計システム自身がXBRLに対応しているというわけでもなく、IT部門自身もその内容について意識していない場合が多いのではないかと思う。
今後IFRSをにらんだ場合、企業は、会計システムをはじめ関連するシステムの改修や更改についての対応を迫られ、そうなれば、IT部門は作業にかかわらなければならない。その際にXBRLを意識しシステム改修などに着手することは1つの考え方である。
例えば、連結決算を行う場合に連結子会社などからXBRL形式で財務データの収集が行われれば集計や加工が容易になる。IT部門は連結子会社側の会計システムがXBRL形式で連結決算側システムとデータ連携できる機能を検討することも求められるし、それが実現できれば、まさに決算作業の効率化や正確性が担保できることに一助する格好となる。
IT部門がグループ会社の情報システムのXBRLの実装を進めることは、時間もコストもかかるだろうが、中長期的に財務報告プロセスの省力化に寄与すると考えられる。
広報/IR部門は開示内容の説明のためにXBRLを理解することはもちろん重要ではあるが、自社の財務報告がXBRLで行われることで、利用者としてXBRLを活用できる。現状では機関投資家やアナリストなどを中心にXBRLを利用した財務分析が行われているが、企業の管理会計担当、IR担当においても同業他社との比較分析といったニーズがある。例えばXBRLを活用することで、特定の勘定科目や経営指標の業界平均を調べるといったことも容易になるだろう。
極端な例かもしれないが事業の買収や撤退などの検討、コスト削減、構造改革などの事業再編に当たってのヒントとするなど、XBRLは経営管理、事業戦略策定に役立つ。
前述の通り、現時点では日本企業が報告側としてXBRLと関わる局面は金融庁などへの報告にほぼ限られているため、最も関係の深いタクソノミはEDINETタクソノミである。しかし、今後のIFRSへのアドプション対応を考えるとIFRSタクソノミの重要性も高まっていくと考えられる。
IASBはIFRSタクソノミの日本語版を公開した(参考記事:IFRSタクソノミの日本語翻訳版を公表、IASCF)。IFRSタクソノミ中で、特に興味深いのはIFRSタクソノミに関する説明書である。説明書の中では注記を含めた財務諸表の詳細項目が示されており、各項目の関連規定も明らかにされているため、日本語版が作成されれば日本企業がIFRSを適用する際の助けとなることだろう。
市場経済のグローバルスタンダードの流れを受けて財務報告の分野は大きな変革期を迎えている。IFRSは会計基準の世界的な統一を目指すものであるが、それをITの側面から支えるのがXBRLであるといえる。そのため、今後ともXBRLの動向を注視する必要があるだろう。
過去に国際通信事業の主任技術者、製薬、証券会社などのグローバルインフラの構築、顧客ワークスタイル変革のユビキダス利用のコンサル活動などを実施。その後、情報セキュリティ分野のコンサル活動から内部統制のコンサル活動を機に会計領域にもテリトリーを広げ現在に。
大学卒業後、株式会社電通国際情報サービスに入社、現在に至る。連結会計システム/管理会計システムの導入、決算早期化をはじめとした経理業務改善、内部統制、内部監査、ERM(Enterprise Risk Management)に関するコンサルティングに従事。
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