活躍の場がスーパーマーケットやオフィスに拡大
工場以外に広がるロボティクスの応用技術、「無人パン焼きロボット」登場
ロボティクス技術の活用現場はこれまで製造業が中心だったが、それ以外の分野に広がりつつある。無人パン焼きロボットと、拡張性の高いビジネス用ロボットの事例から動向を探る。
米国アイダホ州で2018年8月に開催されたロボティクスのシンポジウム「Think Big Festival」では、絵に描いた餅ではなく、実際に食べられるパンを作る技術が注目を集めた。
ロボティクス技術は1950年代に始まり、最近まで技術の活用分野は大きな製造工場が中心だった。しかし自動運転車の進歩によって状況は変わり始めている。新しいロボティクス市場はそれだけではない。投資や報道の対象として注目を集めている自動運転車以外にも、ロボティクスの可能性はさまざまな応用分野に広がっている。
ドローンもロボットの一種だ。例えばxCraftという会社が開発している無人ドローンは、事故や災害時の初期対応を支援する。緊急電話センターからGPSの座標を取得し、現場に飛び、動画レポートを送信し、自分でベースに戻って充電するという。
ロボットの技術と応用範囲はより大きな市場に広がる可能性を秘めている。Think Big Festivalで発表された事例の中から、2つの小さな企業のロボットビジネスを紹介する。
無人パン焼きロボット
商品として販売するパンの製造方法は主に2種類ある。1つは街のベーカリーで作る方法だ。職人が毎朝早起きし、生地をこね、幾つもの工程を繰り返して、その日に売る分のパンを焼く。もう1つは工場で行う大量生産だ。焼き上がったパンは包装され、長い流通経路を経て輸送され、スーパーなどの棚に並ぶ。
Wilkinson Baking Companyが開発した「Mini Bakery」という自動パン焼きマシンは、こうした工程に関わるさまざまな問題を解決する。スーパーなどの店内に設置して人間の代わりにパンを焼く機械で、幅約3メートル、奥行き約0.6メートル、高さ約1.8メートルと小型サイズだ。
ニックネームを「ブレッドボット」という。店舗で焼くため保存料を使用せず、輸送コストも節約することで、食の安全と現地調達という2つの関心事に応えている。Wilkinson Baking Companyの創立者でCEOのランドル・ウィルキンソン氏によると、開発には10年かかったが、初期試験は成功しているという。
「当社はこれまで無名だったブランドだが、Mini Bakeryの3つの試験店舗でパンの売り上げが大きく伸びた上、店舗の30~50%のシェアを獲得した」と同氏は説明する。生産コストも下がるため、「消費者向けの価格を下げ、店舗の利益率を上げることができる」という。
Mini Bakeryの魅力はビジネス面だけではない。店内のよく見える場所に置くことができ、タッチスクリーンも付属しており、客は焼きたてのパンを棚から選ぶことができる。排気口からはパンを焼く香りも漂う。
店舗の担当者はWebアプリケーションでパンを焼く時間を設定でき、開店前や、買い物客の多い時間帯にパンを焼き終えるように調整できる。このアプリケーションには稼働時間の簡単な分析機能もあるので、時間設定の改善に役立てることができる。ウィルキンソン氏によると、分析機能は今後さらに強化する計画だという。
ロボティクスのエコシステム
Mini Bakeryはいわゆるロボットのイメージとはかなり違うが、Misty Roboticsが開発した「Misty」はまさに映画に出てくるようなロボットだ。同社は、誰でも拡張できるロボティクスプラットフォームを用意し、Mistyに機能を追加できるようにした。
「PCやスマートフォンがそうであったように、ロボティクスも開発者が便利なアプリケーションやビジネスの生産性を高めるアプリケーションを作ることで一般市場に普及する」とMisty Robotics代表のティム・エンウォール氏は語る。同社はオープンソースソフトウェアを使用しており、「GitHub」でロボティクス機能のサンプルコードを開発者に共有している。サンプルコードは動きや視覚機能、アーマチュアなどのモジュールに分かれて提供されている。
プログラミングのコミュニティーは、ビジネス用の機能やアクションのコンポーネントを使ってコードベースを拡張できる。エンウォール氏はその一例として、オフィスを動き回って測定し、不動産物件情報に掲載する3D画像を作成するロボットのコードを紹介した。他に、コンサートホールの中を動き回って録音を行い、音響の悪い場所などの問題をチェックする例も紹介した。
同社のターゲット層はプログラマーだ。このロボットにはQualcommのプロセッサを採用し、開発者向けにJavaScriptのRESTful APIを提供している。このような標準化によって多くの人がすぐに開発を始められ、特別なロボティクスの知識がなくてもロボットのアプリケーション開発に取り掛かることができる。
ロボットビジネスの市場
Wilkinson Bakingはスーパーマーケットをロボティクス市場の想定ターゲットにしている。一方、Misty Roboticsは現実の世界にロボットの市場を作り出すことを目指している。人工知能(AI)仮想アシスタントの市場でAmazonの「Amazon Alexa」やMicrosoftの「Cortana」、Googleの「Google Assistant」などが普及したように、これからはロボットの市場も家庭や職場に広がっていくだろう。
多くの人がロボティクスは製造工場などの狭い分野で使うものだと思っている。一方でロボットビジネスに注目する人々は、ロボティクスやAI技術全般にもっと広い可能性があると考えている。ロボティクスやコンピュータビジョン、AI技術はハードウェアとソフトウェアの進歩に伴い、それぞれが個別に発展してきた。それらをまた一つに統合して、現実的な製品の開発が始まりつつある。
Think Big Festivalは、起業家やスタートアップの支援団体Innovation Collectiveが企画した。このイベントでは、これまでは先端技術の中心と見なされなかった分野で始まったさまざまなロボティクスの開発が紹介された。これはロボティクス分野が成熟してきたことの証しで、ロボットビジネスの応用が製造業にとどまらず、企業や消費者に直接役立つ分野へと進み出していることを示している。
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