本稿ではNANDフラッシュメモリの新技術について解説する。東芝メモリの「XL-Flash」、Yangtze Memory Technologiesの「Xtacking」、SK Hynixの「4D NAND」を取り上げる。
2018年8月に開催されたフラッシュメモリの展示会・講演会イベント「Flash Memory Summit」で、NANDフラッシュメモリのメーカー各社が次世代の製品やアーキテクチャのロードマップを明らかにした。
予想された通り、Intel、Micron Technology、SK Hynix、東芝メモリの各大手半導体メーカーが熱心に語ったのは、セルごとに4bitのデータを格納できる「3D NAND」についてだった。これは「クアッドレベルセル」(QLC)としても知られる。96層の3D NANDも注目を集め、さらに密度を大幅に上げるために128層以上に拡張するロードマップも示された。
NANDフラッシュメモリのメーカー各社は、速度パフォーマンスを高め、密度を上げ、コストを削減する新たな取り組みを紹介した。東芝メモリが発表したのは「XL-Flash」と呼ばれる低遅延オプションだ。中国のNANDフラッシュメモリメーカーYangtze Memory Technologies(YMTC)は、パフォーマンスとビット密度の向上が見込まれる「Xtacking」を武器にして、大手競合他社に続こうと考えている。韓国に拠点を置く半導体メーカーのSK Hynixも「4D NAND」で同様の野望を抱く。
Flash Memory Summitの基調講演では大手NANDフラッシュメモリメーカーであるSamsung Electronics(以下Samsung)の不在が目立った。2017年のFlash Memory Summitで、同社は「Z-NAND」について論じていた。Z-NANDとは、フラッシュチップ上のスペースを取らない場所に周辺回路を移動させ、コストを削減しようとする試みだと話すのは、分析会社Objective Analysisで最高責任者兼半導体アナリストを務めるジム・ハンディ氏だ。
以下では、2018年8月上旬に開催されたFlash Memory Summitで、NANDフラッシュメーカー各社が発表した新技術を取り上げる。
東芝メモリのXL-Flashは、同社のシングルレベルセル(SLC)3D NANDの「Bit Column Stacked」(BiCS)をベースにし、マルチレベルセル(MLC)フラッシュ向けの最適化を実現する。東芝メモリでSSD応用技術技師長を務める大島成夫氏は、XL-Flashは「Excellent Latency」(優れた低遅延)を示すと語った。XL-Flashの読み取り遅延は、従来のトリプルレベルセル(TLC)フラッシュデバイスの10分の1だという。
大島氏は、XL-Flashとより密度の高いQLCフラッシュを組み合わせれば、多様なアプリケーションワークロードに対処できると話す。DRAMとHDDによる従来のストレージアーキテクチャに比べ、全体的なシステムパフォーマンスが向上する可能性があるという。XL-FlashとQLCフラッシュメモリのパフォーマンス差は、DRAMとHDDの差よりもはるかに小さいと同氏は指摘する。XL-FlashはDRAMに比べて低速だが、コストも低く容量も大きい。
フラッシュメモリ業界のアナリストは、東芝メモリのXL-FlashとSamsungのNANDテクノロジー「Z-NAND」について、低遅延フラッシュメモリをベースにIntelとMicronが共同開発した「3D XPoint」の対抗馬になると見ている。Intelは2017年に3D XPointベースのSSDを「Optane」というブランド名でリリースした。さらに2018年から3D XPointを採用した「Optane DC Persistent Memory」の提供を始めている。一方のMicronは、2018年8月時点でまだ3D XPointをベースにした製品をリリースしていない。
調査会社Wikibonの最高技術責任者(CTO)兼共同設立者であるデビッド・フロイヤー氏によると、東芝メモリのXL-FlashとSamsungのZ-NANDはOptaneのパフォーマンスにはやや及ばないもの近いレベルにあり、コストを抑えられるだろうと語る。
ハンディ氏は、XL-FlashとZ-NANDはOptaneに近い速度でデータを読み取ると見込んでいる。だが「NANDフラッシュの量子的な仕組みが原因で、非常に低速な書き込みサイクルに悩まされることになるだろう」とも話す。
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