歩みは遅いが着実に
やっと浸透し始めた「小売×AI」、次に待つ課題は?
小売業でのAIテクノロジーの導入は比較的遅かったが、着実に進みつつある。小売業者がAIテクノロジーのメリットに向き合い、競争相手のEコマースの現実を理解するようになったことが背景にある。
Eコマースは、スマートフォン時代のデフォルトのショッピング手段になっている。従来の形態で小売業を営む企業の間にも、顧客を魅了して確保する新しいテクノロジーや広告形態に目を向ける動きが広がっている。
小売業界では、分析、人工知能(AI)、モノのインターネット(IoT)ソフトウェアを手軽に利用して、満足度の高いオンラインショッピングエクスペリエンス、個人に的を絞ったスマートフォンアプリケーションやマーケティングキャンペーンを作成するようになっている。また既存の労働力を補強するため、基本的な仕事をする店舗用ロボットを導入している小売業者もある。
小売業界が、医療や金融などの業界に後れを取るのは珍しいことではない。特にAIテクノロジーを導入する取り組みの進捗(しんちょく)は遅い。
後れを取る従来型の小売業界
実店舗で事業を営む小売業者は、優秀なエンジニアやデータサイエンティストを見つけるのに苦労する。そう語るのは、小売業者向けデータ管理ツールベンダーのAptosで小売イノベーション部門のバイスプレジデントを務めるニッキ・ベアード氏だ。
このことが小売業者を難しい立場に追い込む。優秀なAI人材の大半が、大手テクノロジー企業や金融サービスなどの他業界に流れてしまっているためだ。
優秀な人材に限りがあるだけではない。小売業者はブラックボックスのAIモデルには以前から慎重になっている。AIモデルは複雑で、正確な仕組みを理解するのが困難または不可能だ。そのため、小売業者には事実上、完全な説明なしにAIモデルのデータや予測結果を利用することが求められている。
予測可能性の低下がAI活用を後押し
かつての小売業は、大きな利幅と一貫した成長率を確保できる傾向にあったため、予測が可能だった。一般には、もはやこうした状況ではなくなっている。そのため、「小売業者はありきたりなビジネスに陥らないアイデアを模索している」というのがベアード氏の見解だ。
小売業者から見れば、AIテクノロジーを活用すると、必ずしも完全に理解しているわけではない新興テクノロジーを信頼することになる。そのため以前はなかったリスクが内在することになる。
採算が合うかどうかは、やってみなければ分からない。特にパーソナライゼーションはその傾向が高い。「小売業者は『重要な情報を集めている』という希望の下にあらゆる情報を収集する。だが、本当に重要な情報が分かっているわけではない」とベアード氏は話す。
AIシステムなら全てのデータを手早く調べて重要な情報を抜き出せる可能性がある。小売業者がAIテクノロジーを利用すれば、その顧客の行動に実際に影響を及ぼすレコメンデーションを作成できる可能性があるというわけだ。
AIができる支援
まだ実証実験段階だが、実店舗で事業を営む多くの小売業者は、商品を市場に届ける新たな方法を試している。
店舗で試しているのは拡張現実(AR)だ。スマートフォンを取り出して店舗内のさまざまな商品にカメラを向けるよう顧客に促す。ARのオーバーレイ機能によって、カメラを向けた商品についての多くの情報が表示され、店舗価格と他の場所の価格を比較したり、特別なクーポンを提供したりすることも可能になる。
オンラインでは、スマートフォンアプリやWebサイトを作成し、個人に合わせた広告を作成するアルゴリズムに利用者のデータを渡して、ソーシャルメディアでの広告キャンペーンを構築している。
3Dモデルの作成
多くのテクノロジー関連スタートアップ(創業間もない企業)が小売市場に売り込みを掛けている。Fyusionもその一社だ。同社は、創立6年を迎えるベンダーで、ほぼ全ての種類のカメラを使用して実生活の対象物の3次元(3D)モデルを実物のように作成できるツールを売り込んでいる。同社のツールは機械学習と高度な撮影技術を利用して、ユーザーが撮影した2次元(2D)画像から現実の対象物の3Dモデルを生成する。
FyusionのCEOラドゥー・B・ルス氏によると、同社のAIモデルは地理データや位置データを利用して、静的画像に奥行きを与える。その後、アルゴリズムが画像とデータを組み立て、3D画像を作成する。3Dモデルに変換する写真はユーザーがスマートフォンで撮影できるため、そのプロセスは比較的迅速かつ簡単だ。時間の経過とともにAIモデルがさまざまな種類の対象物を自動的に認識して分類できるようになるため、プロセスはますます迅速になる。
小売業界や自動車業界、ファッション業界で、Fyusionのツールが既に利用されている。小売業者がこのツールを利用して自社商品の広告をうまく作成すれば、商品を購入しようとする顧客に商品を現実のように見せることができる。「購入予定の商品をオンラインで、より正確に見せることができる」とルス氏は話す。
小売業を念頭に置いて設計された新しいテクノロジーだとしても、小売業者がAIテクノロジーを導入するのは比較的時間がかかる。ベアード氏の見解では、特に事業予測という面では後れが目立っている。「店舗での商品発注数の予測が誤れば、問題になるだろう」と同氏は警鐘を鳴らす。
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