EPYCで復活したAMD、魅力を増すIBMのPOWERプロセッサの勢力図再検討【後編】

Intelよりも低コストを実現したEPYC。魅力的なアーキテクチャで存在感を示すPOWER。AMDとIBMの動向とともに、CPUを取り巻く市場の変化を解説する。

2020年03月09日 08時00分 公開
[Daniel RobinsonComputer Weekly]

 前編(Computer Weekly日本語版 2月19日号掲載)では、IntelとArmの概要を紹介した。

 後編では、AMDとIBMの概要とCPUメーカーが影響を受けるサーバを巡る市場の変化を解説する。

AMDはEPYCで再起

 AMDは「EPYC」で再起を図っている。2019年8月にリリースされた第2世代EPYC(コードネーム:Rome)は、1ソケット当たり最大64基のCPUコアと8つのメモリチャネルを備える。浮動小数点演算ユニットの拡張、分岐予測器の強化、命令プリフェッチの改善など、コア自体も強化されている。こうした強化全てによって第1世代EPYCよりも1クロック当たりの命令数が29%向上するとされている。

 今後に目を向けると、AMDは2020年に第3世代EPYC(コードネーム:Milan)をリリースし、CPUコアのさらなる調整を予定している。2021年には第4世代EPYC(コードネーム:Genoa)をリリースする予定だ。Genoaについて現時点ではほとんど知られていないが、5ナノメートルプロセスで製造され、DDR5をサポートする可能性がある。

 第2世代EPYCが成功したことで、AMDはパートナーや顧客の信頼を得たようだ。Dell EMC、HPE、Lenovoなどの大手サプライヤーがEPYCをサポートするシステムをリリースしている。AMDのチップがXeonと同等の性能をXeonよりも低価格で提供していることも役立っている。

ユーザーに力を与えるPOWER

 IBMは「Power Systems」で独自の路線を進んでいる。このシステムは要求の厳しい企業ワークロードをターゲットとし、「Linux」やその他のオープンソースツールに重点を置いている。最新の「POWER9」プロセッサは、Intelのチップよりも高いコストパフォーマンスを実現するよう設計されている。それぞれが4個または8個のスレッドに対応可能なコアを最大24基搭載し、理論上は最大8TBのメモリに対応可能だ。

 POWER9はPCIe 4.0をサポートする初のチップで、アクセラレーターに高速に接続できる。またNVIDIAの「NVLink 2.0」プロトコルに対応するBluelinkポートを搭載しており、PCIe 4.0よりも高速にGPUアクセラレーターへの接続を可能にする。

 ロードマップでは、2020年に「POWER10」の投入が予定されている。POWER10はコア数が48基に倍増し、PCIe 5.0をサポートする可能性がある。

 以前、Powerアーキテクチャはx86の競争相手とは見なされていなかった。だがIBMがRed Hatを最近買収したことで、この状況は変わるかもしれない。

 「Powerが優れたアーキテクチャであることは変わらない。ハードウェアの仮想化が組み込まれ、ワークロードの負荷分散にも優れている。Powerには果たすべき役割がある。IBMがその役割を正しく果たし、Red Hatがその役割を果たすための優れた方法を提供するならば」(ロングボトム氏)

 IBMは、Linuxや「Kubernetes」などの技術に基づくハイブリッドのマルチクラウド構想を後押ししている。この構想ではRHELがPower SystemsのデフォルトOSになる。IBMは「Red Hat OpenShift」で実行するために、「Db2」や「WebSphere」といった同社の主要ソフトウェア製品の多くを再パッケージ化する時間の無駄をなくしている。

変化するサーバ市場

 OpenShiftはアプリケーション開発をクラウドネイティブ化する。このアプローチでは、Linux、Dockerコンテナ、Kubernetesなどのオープンソースツールが重視される。こうした技術はどれも、一つのプロセッサアーキテクチャに縛られない。そのためどのアーキテクチャを選択するかはそれほど重要ではない。

 サーバレスコンピューティングも注目されている。これにより抽象化が新たなレベルに進み、(理論上)顧客は利用するインフラのプロビジョニングや管理を心配することなく、自身のコードを実行するだけでよくなる。サーバレスコンピューティングは一般にクラウドホスト型で、Amazon Web Servicesの「AWS Lambda」などでホストされる。ただし、オンプレミスプラットフォームも存在する。

 新たに構築されるアプリケーションやサービスはクラウドネイティブになるだろう。だが企業には依然として非常に多くのレガシーワークロードが存在する。このようなワークロードは特定のプラットフォーム(通常はx86)に結び付けられる。企業は最終的にレガシーワークロードのリファクタリングやクラウドネイティブ版へのリプレースに目を向けるかもしれないが、当面はほとんどの企業がオンプレミスのx86サーバを利用し続ける可能性が高い。

 少なくともしばらくの間、Intelがサーバ市場の支配を続けるだろう。EPYCが引き続きコストパフォーマンスでIntelを上回れば、AMDがマーケットシェアの一部を獲得する可能性はある。

 Armはx86を上回る形でスーパーコンピューティングとハイパースケール分野に参入しているが、Armサーバが企業で数多く見られるようになるかどうかは疑わしい。Power Systemsはもっと判断が難しい。だがRed Hatの顧客は多い。Power Systemsがx86サーバよりも全体的に低コストで要求が厳しいワークロードを処理できるというIBMの主張に引き付けられる企業があるかもしれない。

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