一般論として、リアルタイムな意思決定はビジネスに寄与する。だが「リアルタイム」の定義は誤解されている。また、リアルタイムな分析が必要とは思えない場面もある。リアルタイムへの投資には熟考が必要だ。
データ分析とBI(ビジネスインテリジェンス)の担当者は誰もが2つの課題に直面する。一つは増え続けるデータ量への対処。もう一つは迅速なデータ処理だ。
ここ10年、データ量は飛躍的に増加している。2020年に生み出されたデータは59ZB(ゼタバイト)に上るとIDCは推定する。だが、意思決定者にとってデータ量はそれほど重要ではない。意思決定者が重視するのは、そのデータを行動に移せる情報にどれだけ素早く変換できるかだ。
意思決定者の目標は人間の介在なしに即座に行動することだ。迅速な意思決定の必要性とデータ分析を機械学習や自律システムに結び付ける可能性により、リアルタイムまたはリアルタイムに近いデータ処理に向かうよう促されている。だが今のところ、リアルタイム分析は結果が投資を正当化する特殊なユースケースに限られている。
ある調査によると、小売業、消費財製造企業のうち、生成後1時間未満のデータにアクセスできる企業は11%にすぎないという。以前よりも多くのデータにアクセスできるようにはなっているが、大多数はレポートまたはオンラインダッシュボードを生成するビジネス分析またはインテリジェンスシステムを利用しているという。
結果として意思決定が遅れ、ビジネスプロセスを自動化するためのオプションが少なくなるのは必然だ。
データ分析を早めることは有用だが、“これがリアルタイム分析だ”という定義はない。Gartnerは、ユーザーやシステムの要求がトリガーとなる「オンデマンドリアルタイム分析」とイベント発生時にアラートやその他のインテリジェンスを提供する「継続的リアルタイム分析」を区別している。
ライブデータの処理とライブデータに関する洞察を提供する技術を説明する際、「ストリーミング分析」「イベントストリーム処理」「リアルタイムストリーム処理」などの用語を使うソフトウェアプロバイダーもある。
システムがデータを分析する速度は、ビジネスがどのように対応する必要があるのか、どれだけ素早く行動できるのかに左右される。
データの処理速度を上げても、組織の対応時間が変わらなければ価値はない。カードの不正防止システムなら、不審なカード取引を数秒、できれば1秒未満でブロックすれば効果があるだろう。ファッション業界で、メーカーから出荷されるまでのリードタイムが6〜8週間あるとしたら、売上数をリアルタイム分析しても業務にほとんど違いは生じないだろう。
「私にとってのリアルタイム分析とは、1秒未満で、瞬時の応答を必要とするものだ」と話すのは、ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンのサイモン・ドイル氏(ビジネス分析准教授)だ。
「分析の実行から意思決定の間に何らかのフィードバックサイクルを経なければならない。その好例がF1レースだ。レーシングカーからのテレメトリー情報がピットクルーに伝えられ、クルーが決定を下すか、何らかの形式のアルゴリズムによって半自動または完全自動で変更や決定が行われる」
ドイル氏が指摘するように、リアルタイム分析の有用性はどの程度迅速に行動を起こせるかによって決まる。
PA Consultingのナイジェル・ロビンソン氏(分析責任者)は次のように話す。「リアルタイムという呼称は誤用されることが多い。ビジネスや公共部門では明らかに誤用されている。法執行機関でも誤用が見受けられる。小売業のレコメンデーションエンジンでも同じだ。それがリアルタイムに対する一般的な認識だ。1日に2回報告が行われることや、1日に2回モデルが更新されることをリアルタイムだと考えているクライアントも多い」
こうした認識のずれがあるとしても、大多数のビジネス分析サプライヤーがツールにリアルタイム機能を追加している。
「リアルタイムは次の大きな目標だと考えられてきた。だが、リアルタイムソリューションの実装を試みる組織はリアルタイムを導入する準備が整っていない」とロビンソン氏は注意を促す。
データの品質が低いかばらつきがある。データやビジネスプロセスがサイロ化している。リアルタイムデータによって何が実現するのかを管理職が明確に理解していない。リアルタイム分析にはそうしたさまざまな障壁がある。
だが、リアルタイム分析が正しく機能している例もある。
リアルタイム分析は、問題を迅速に解決する必要がある場合に最も役立つ。結果や行動が明確に定義されている既知の問題を解決するために導入すれば真価を発揮する。その結果を自動化できればなお一層良い。
Redis Labsのイフタッハ・シュオルマン氏(共同創設者、CTO:最高技術責任者)は次のように述べる。「今日のリアルタイム分析はダッシュボードから離れ、イベントにアプリケーションがどのように反応するかに関係するようになっている。そうしたリアルタイム分析の多くは、金融サービスの価格設定、IoT(モノのインターネット)を用いたインフラの監視、動的コンテンツ管理に使われている」
詐欺行為を調べるためにオンライン取引やカード取引をスキャンするのもリアルタイムシステムの使い方の一つだ。国境で生体認証IDをスキャンする際にも使われている。どちらのケースでもシステムは一つのことを行うだけでよい。前者は取引を許可または拒否し、後者は空港のゲートを開くか国境警備員に警告する。
後編では、リアルタイム分析の具体例と、リアルタイム分析が成功する条件を紹介する。
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