オーストラリアで一般化した処方箋の完全電子化【後編】
「電子処方箋」が抱えていた「SMS送信」管理問題とは? どう解決したのか
電子処方箋のSMS送信は患者や医師、薬剤師の利便性を高める一方、複数の処方箋を利用する患者にとって管理が煩雑になる課題があった。この問題を解決するために、ベンダーはどう取り組んだのか。
前編「『電子処方箋』が直面、“完全電子化”を阻害した要因とは?」と中編「『電子処方箋』交換サービスがTwilioのAPIを採用した理由 『SMS品質』が鍵に」を通して、オーストラリアの電子処方箋制度と電子処方箋交換サービスに関する事例を紹介してきた。オーストラリアではeRx Script Exchangeが提供する同名の電子処方箋交換サービス(以下、eRx)が広く普及している。
eRxは「薬を処方する医師がQRコードの電子トークンを発行し、ショートメッセージサービス(SMS)やメール経由で患者に送る」というルールに基づいて開発された。ただしQRコードトークンとSMSの運用には課題もあった。
SMS送信だと管理が煩雑 課題を解決するためのシステムとは
eRxは、処方箋情報を検索するためのQRコードトークンをSMSで患者に送信する仕組みを備える。これは医師や調剤薬局、患者にとって利便性があり、調剤時の安全性を高める手法だったが、問題も抱えていた。何種類もの薬物治療を受けている患者にとっては処方箋のQRコードトークンの管理が煩雑になる点だ。処方箋の反復利用がある場合、影響はより大きくなる。
この問題を解決するために、オーストラリア政府が主導して「Active Script List」を作った。これはクラウドサービス形式のトークン保管システムで、ある患者が持つ有効な処方箋のリストを、患者単位で確認できるようにする。このリストは患者の同意があれば、医療機関や調剤薬局のスタッフもアクセスできる。eRx Script Exchangeの親会社に当たる医療ITベンダーFred IT GroupのCEO、ポール・ネイスミス氏は「この仕組みがあれば二度と処方箋を紛失することがなくなる」と語る。
Active Script Listを実装した初の商用サービスが「My Script List」(MySL)だ。MySLの開発と運営は、オーストラリアの電子処方箋交換サービスベンダー2社(eRx Script ExchangeとMediSecure)の合弁会社であるMedicationKnowledgeが担当している。
患者がActive Script Listを利用する場合は同意を明確に示さなければならず、同意を示すためには調剤薬局で情報を登録する必要がある。その調剤薬局を初めて利用する患者であれば、自身の身元を証明しなければならない。MySLは同意プロセスの処理にクラウドコミュニケーションサービス「Twilio」を用いている。
登録が済むと、患者は誰が処方箋データにアクセスできるかを決める。かかりつけの調剤薬局に継続的なアクセスを認めるのが一般的だ。旅行先の調剤薬局に対して、24時間に限った一時的なアクセスを認めることもできる。その場合も患者は身分証明書を提示しなければならないが、旅行中に処方箋を忘れず持ち歩くことよりは楽だ。
MySLは、薬の飲み忘れを防ぐスマートフォン用アプリケーション「MedAdvisor」や、オーストラリア国内患者向けの処方薬宅配サービス「Medmate」などと連携することもできる。「電子処方箋のトークンを管理できるアプリケーションであればMySLと連携できる」とネイスミス氏は説明する。
eRx ScriptExchangeが2021年10月に発表したプレスリリースによると、2021年6月から9月までの4カ月間は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるオーストラリア国内のロックダウン(都市封鎖)の影響を受けて電子処方箋の利用率は増加した。しかしネイスミス氏は「まだ先は長い」と考えている。
今後MySLは、Twilioのチャットbot技術を介してメッセージングサービス「WhatsApp」と連携し、「どの処方箋を」「どの薬局で」「いつ調剤してもらいたい」か、処方薬を「薬局で受け取る」のか「送付してもらう」のかを患者がチャット欄から選択できるようになる。このチャットbotは、1つのWhatsAppアカウントで家族など複数の患者の処方箋も扱えるようになる。
ネイスミス氏によるとTwilioの技術は自動音声応答(IVR)システムの構築にも利用できるという。患者と薬剤師とのライブチャット機能の提供も視野に入れ「ユーザーに最高のカスタマーエクスペリエンス(CX)を提供するために歩み続ける」と同氏は付け加える。
Computer Weekly発 世界に学ぶIT導入・活用術
米国TechTargetが運営する英国Computer Weeklyの豊富な記事の中から、海外企業のIT製
品導入事例や業種別のIT活用トレンドを厳選してお届けします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Computer Weekly発 世界に学ぶIT導入・活用術
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[rakumo株式会社] Microsoft 365での情報埋没を防ぐ、社内ナレッジを資産化する情報ポータル活用 -
技術文書・技術解説
[NTTインテグレーション株式会社] 「耐量子計算機暗号」(PQC)に今、取り組むべき理由とは? 実現の道筋も解説 -
製品資料
[株式会社リンプレス] どうしたら非デジタル人材を「自走するDX推進者」に変えられるのか? -
製品資料
[アステリア株式会社] 既存システムをAIレディに変える「連携型モダナイゼーション」の手法とは? -
製品資料
[アステリア株式会社] 「データ連携」徹底解説 要件整理から連携手法、ツール選択まで
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
2
PHP脆弱性「PHP2Shell」で2260万件に影響 情シスの緊急チェックリスト
-
3
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
4
慶應義塾が「Notion」を選んだ理由 AI導入の盲点になる“情報のサイロ化”
-
5
Copilot導入で陥る“目的化”の落とし穴 定着の鍵は「作り込まない」こと
-
6
テレワークやBYODでリスクが拡大、デバイスの多様化を弱点としない管理方法とは
-
7
半数がブルーカラー転向を視野に? ベテランエンジニアを追い込む“54歳の壁”
-
8
RAGで「データをAIに送る」運用が限界を迎えている理由
-
9
SAPやOracleが警戒する「ERPの土管化」 汎用AIとの主導権争いが激化
-
10
AmazonがMetaのAIエージェントの購入を拒否 情シスが問われる「AIの権限設計」
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AI駆動攻撃にどう対抗する? 超速の攻撃からエンドポイントを保護する方法
-
2
最速72分でデータが流出? 最新の脅威トレンドや侵入手法から分かった防衛策
-
3
2026年のサイバーセキュリティには何が必要か? 最新データに学ぶ傾向と対策
-
4
経験豊富な即戦力人材に直接アプローチできる、「攻めの採用」への転換術
-
5
「IT史に名を残すシステム障害」8選
-
6
SASE選定は「見極め力」で大きな差――本当に必要な製品を選ぶための6つの視点
-
7
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
8
Microsoft 365のメールセキュリティ、3つの“死角”と追加で検討すべき対策とは
-
9
AI駆動開発のスピードと安全性を両立 「品質・セキュリティ管理」の実践ガイド
-
10
「標的型攻撃メール」事例・サンプル集
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー