オーストラリアでは、ある電子処方箋交換サービスがほとんどの薬局で利用されている。ただし導入当初は、完全な電子化を実現するまで至らなかった。それはなぜなのか。完全電子化を目指した道のりは。
医療ITベンダーのFred IT Group(以下、Fred IT)は、薬剤師の業務効率や安全性を高めることを理念としている。手書きの処方箋やプリントアウトされた処方箋を受け取った薬剤師が再びキーボードでPCに転記する作業は、当然ながら転記ミスのリスクがある。薬剤師は常にこうしたリスクを減らしたいと考えており、患者の安全性を高めることを重視している。処方箋をデータで直接やりとりする「電子処方箋」は、このリスクを減らす可能性がある。
Fred ITの完全子会社eRx Script Exchangeが提供する同名の電子処方箋交換サービス(以下、eRx)は、オーストラリアの電子処方箋交換規格に基づく。オーストラリア国内約30社の医療ITベンダーがeRxと連携しており、一般開業医(GP:General Practitioner)や薬剤師向けのソフトウェアを提供している。
2021年9月までに、eRxはオーストラリア国内の薬局の98%で利用され、2万8000人以上の医師が2000万通を超える電子処方箋を発行してきた。
eRxの仕組みはこうだ。医師が処方箋を印刷すると、eRxは処方箋にバーコードを追記する。このバーコードは処方箋表示用のトークンとして機能する。患者が持参したこのバーコードを調剤薬局で読み取ると、薬剤師が処方箋の内容を検索できるようになる。
「eRxはかなり大規模なインフラへと成長している」とFred ITのCEOポール・ネイスミス氏は述べる。ただしバーコードをトークンとして使用すると物理媒体としての処方箋が必要になるため、バーコードの運用には限界があった。
オーストラリアの各州や準州ごとの法律の違いも、全土で処方箋の完全電子化を推し進める上での障害となっていた。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により、各地方自治体は処方箋の電子化について合意するに至った。「ステークホルダーがこのプロジェクトを優先事項とした結果、通常は8カ月ほどかかる移行作業が8週間で完了した」とネイスミス氏は話す。
中編は、eRx Script Exchangeが電子処方箋交換サービスを改修するに当たって、開発パートナー企業をどのように選んだかについて紹介する。
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