「デジタル患者パス管理システム」で医療接遇はどう変わる? 導入した医療機関に聞くクリニカルパスのデジタル化がもたらす価値【前編】

オーストラリアの医療グループCALHNは、医療スタートアップと協力してクリニカルパスをデジタル化したシステムを導入した。このシステムで何ができるのか。導入後の運用手順は。

2021年12月22日 05時00分 公開
[Aaron TanTechTarget]

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 オーストラリアの地域医療グループCentral Adelaide Local Health Network(CALHN)は、グループ傘下の医療機関であるRoyal Adelaide Hospital、Queen Elizabeth Hospital、SA Dental Servicesにおける20個以上の診療科で、手作業のプロセスをデジタル化し始めている。患者サービスを向上させ、医療スタッフの負担を軽減するためだ。

 南オーストラリア州の医療系スタートアップ(創業間もない企業)Personify Careと共同で進めているこの取り組みは、医療機関のプロトコール(あらかじめ定めた検査手順や手技、治療計画)を「デジタル患者パス」(digital patient pathways)に変換する。このデジタル患者パスの管理システムを臨床導入するまでの期間は4週間以内だったという。

 デジタル患者パスとは、デジタル化したクリニカルパスのようなものだ。クリニカルパスは標準化した治療手順をまとめた計画書のことで、入院中の治療計画、次回の受診予約に向けた準備と手順、退院後の回復期ケア手順など、治療前後に受ける必要のある一連のステップを具体的に列挙してある。Personify Careのデジタル患者パス管理システムは、従来は書類や電話を使ってやりとりしていたクリニカルパスをデジタル化した。

「デジタル患者パス管理システム」で何ができるか

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 Personify Careのデジタル患者パス管理システムに含まれるクリニカルパスは、例えば下記のようなものだ。

  • 患者に実施してもらう必要がある行為(絶食指示や回復訓練など)
  • 患者が知っておく必要のあること(大腸内視鏡検査の前処置など)
  • 事前に回答してもらう必要があるアセスメント(問診票など)

 医療機関が医療情報システムを導入・運用する際には、ITベンダーの支援を受けることが一般的だ。Personify Careのデジタル患者パス管理システムは、ドラッグ&ドロップで操作できる「パスビルダー」を搭載し、医療機関自ら運用できるようにしている。医療機関はパスビルダーを使って、既存のプロトコールやワークフローをデジタル患者パスとして設定できる。

 これにより、治療のガイドラインやワークフローが変わっても、医療機関がこのシステムで直接更新して、デジタル患者パスを最新状態に維持できる。クリニカルパスの変更のためにITベンダーや医療情報部門に頼む必要がなくなった、ということだ。

 CALHN傘下の医療機関がデジタル患者パスシステムを導入する際には、Personify Careの顧客エクスペリエンスチームがトレーニングの支援をする。同社の顧客エクスペリエンスチームには看護師などの医療系資格を持つスタッフが在籍しており、オーストラリアだけでなく世界中の医療機関を支援して2~4週間程度で臨床導入させた実績を持つ。

 Personify Careの説明によると、デジタル患者パス管理システムは全てのデータを現地のプライバシーおよびセキュリティの諸要件に従って管理し、オーストラリアを拠点とするデータセンターに保存。暗号化や多要素認証など幅広いベストプラクティスのセキュリティ対策を採用しているという。


 後編は導入後の変化について、特に検査効率の改善効果について解説する。

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