金融業は増加するマネーロンダリング活動との戦いを余儀なくされている。対抗手段として一層力を入れているのが、AI技術の利用だ。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界経済にもたらした混乱は金融犯罪の急増を引き起こし、マネーロンダリング(資金洗浄)が社会の脅威となっている。国際連合(UN)は、毎年最大2兆ドルが違法に動いていると推定している。金融業はAML(反マネーロンダリング)を目的として、ML(機械学習)などのAI(人工知能)技術への投資に、一層力を入れている。
犯罪者は組織犯罪とつながった金を隠すため、よく大手銀行を利用する。架空口座を利用して資産を転々と移転させることで、犯罪資金の出どころを隠すのだ。英国の国家犯罪対策庁(NCA)は、マネーロンダリングが自国の経済にとって毎年240億ポンドもの負担になっていると推定する。
国際会計事務所のKPMGとアナリティクスツールベンダーのSAS Institute、公認AMLスペシャリスト協会(ACAMS)の研究によると、約3割の金融機関が、深刻化するマネーロンダリングに対処するためにAI技術の利用を加速させている。
世界中のACAMS会員850人を対象にした、AMLにおけるAI技術採用に関する調査レポート「Acceleration through adversity: The state of AI and machine learning adoption in anti-money laundering compliance」によると、回答者の半数以上(57%)がAMLにAI技術を正式または試験的に配備しているか、18カ月以内の実装を計画している。
ACAMSでチーフアナリストを務めるキラン・ビア氏によると、世界中の規制当局は、金融機関が警察へ提供する情報の有効性を基に金融機関のコンプライアンスへの取り組みを評価するようになりつつある。調査レポートによると、回答者の66%が「規制当局は金融機関に対して、AI技術の活用を促そうとしている」と答えた。この結果は「驚くような話ではない」とビア氏は言う。
金融犯罪に対抗する規制当局や金融機関は、先進的分析技術の進化のスピードに追い付くのに必死だ。「そうした中で、AI技術が犯罪者を捕まえるのに効果的な知見をもたらすと期待されている」(ビア氏)
調査レポートによると、AMLプロセスでAI技術を採用する最大の理由は「調査や規制当局への報告の質を向上させること」(40%)で、「誤判定とその結果生じる業務コストを減らすこと」(38%)がそれに続く。
パンデミック(感染症の急激な拡大)は消費者行動を急激に変化させた。これにより「『ルールベースの静的な監視戦略は、行動ベースで判断するシステムほど正確でなく、適応性もない』と多くの金融機関が考えざるを得なくなっている」と、SASの金融犯罪・コンプライアンス担当ディレクター、デイビッド・スチュワート氏は述べる。
AI技術はもともと動的であり、市場の変化や台頭するリスクに賢く順応することができる。金融機関は混乱を最小限にとどめながら、既存のコンプライアンスプログラムへAI技術を迅速に組み込むことが可能だ。「いち早く新しい技術を取り入れた金融機関は大きな効率性を獲得すると同時に、規制当局の高まる期待に応えることができている」(スチュワート氏)
AML戦略を達成できていない金融機関には近年、規制当局が巨額の罰金を科すようになっている。B2B(企業間取引)情報サービス会社Kyckrが2021年2月に発表した調査レポートによると、2020年に世界で28個の金融機関がAML関連の違反で罰金を科せられた。その金額はおよそ26億ポンドに相当する。同年3月には、スウェーデンとエストニアの規制当局が、マネーロンダリング法に違反したとして、スウェーデン拠点の銀行Swedbankに3億4700万ユーロの罰金を科した。
オランダでは、規制当局が同国拠点の金融機関ING Groepに対し、2010~2016年にかけて何億ユーロものマネーロンダリングを防がなかった罰金として、2018年に7億7500万ユーロを科した。
2017年には金融大手Citigroupが、米国とメキシコの間の送金が絡むAML規則違反に対する調査を終え、1億ドル近くの支払いに同意し犯罪行為を認めた。同年にDeutsche Bank(ドイツ銀行)も、富裕層を中心とした顧客に100億ドルをロシアから動かすのを認めたとして、英国および米国の当局から6億5000万ドルの罰金を科せられている。
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