英国政府は「医療機器プログラム」(SaMD)に関するパブリックコメントを募集し、規制の枠組みや医療機器分野のイノベーションを取り巻く変化について議論を進めている。規制当局が懸念を示すポイントは。
英国政府は医療機器の規制に関する協議「Consultation on the future regulation of medical devices in the United Kingdom」を2021年9月に開始し、人工知能(AI)技術をはじめとする各種技術を医療機器に利用するための制度に関するパブリックコメントを募集した(募集は同年11月に終了)。この協議は2023年7月初旬の新制度(後述)導入に先立つ、英国政府とステークホルダーとの早期の取り決めに基づいている。協議の目的は患者にとってのリスクとメリットをデータに基づいて評価することで、医療機器のイノベーションの恩恵を医療機関や患者がいち早く受けられるようにすることだ。
英国医薬品医療製品規制庁(MHRA:Medicines and Healthcare products Regulatory Agency)は、この協議の要旨で「患者の安全とイノベーションはトレードオフの関係ではなく、その両方を最大化できる規制を制定したい」と述べる。
2023年施行の新制度は、イノベーションを支援するための道筋づくりに加え、ソフトウェアやAI技術を「医療機器」として認定する枠組みの導入を目指す。MHRAは、この新制度によって英国が「安全性を妥協することなく、ライフサイエンスビジネスやイノベーターを引き付けることができる」とみる。
「医療機器プログラム」(SaMD:Software as a Medical Device)の分野拡大が、市場を複雑にしていることをMHRAは認識している。SaMDの定義が、ソフトウェアそのものだけでなく、AI技術を搭載した医療機器(AIaMD:AI as a Medical Device)といった「ハードウェアに搭載されているソフトウェア」まで幅広く含むようになったためだ。
MHRAによると、現行制度には医療・福祉分野のSaMDおよびAIaMDの適用に関する規定がほとんどない。患者を保護しつつ、この分野での「信頼できるイノベーション」を支援するために、MHRAは現行制度の改正を提案しているという。「そのために必要な改正の大半は、法律ではなくガイダンスに関連するものになる」とMHRAは指摘する。
SaMDに関連した変更点としては、英国の医療機器規制に新たな定義を導入したことが挙げられる。この改正によれば、ソフトウェアは「入力データを処理し、出力データを作成する一連の命令」と定義される。この定義は、体外診断用医薬品(IVD)の定義を拡大してソフトウェアを明示的に含める可能性もあり、今回の協議で議論されている部分だ。
Webサイトやアプリケーションストア、その他の電子的手段によって、英国内に(英国ドメインだけでなく、他国でホスティングされているWebサイトからも)SaMDが展開される可能性がある。今回の協議では、このような状況でSaMDを市場に投入するための規制変更が必要かどうかについても議論している。
後編はSaMDの臨床利用に向けたリスク評価や、安全性の評価に関する議論の動向を解説する。
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