サイバー脅威の拡大を受けて、サイバー保険を提供する企業や保険の契約者は、幾つかの懸念点を抱えるようになった。それでも、サイバー保険の将来は明るいという。それはなぜなのか。
2022年、ロンドンを拠点とする保険市場Lloyd’s of Londonは、加盟保険会社に対してサイバー保険の契約範囲を厳格化するよう指示した。これはサイバー脅威の拡大による、請求額の上昇やリスクの高まりを受けたものだ。
セキュリティベンダーDarktrace Holdingsで脅威アナリスト部門のグローバル責任者を務めるトビー・ルイス氏は、サイバー保険の厳しい状況を指摘する。ルイス氏によると、近年は以下の動向が見受けられる。
一方でルイス氏の見込みでは、将来的にサイバー保険の補償範囲は広がるという。複数の保険会社にリスクを分散する取り組みが期待されており、その結果以下の効果が出ると同氏は予測する。
新たな取り組みの例として、企業向けの保険会社Beazleyは、4500万ドル相当のサイバー大災害債券(CATボンド)(注1)を発行する。同社の保険契約者がサイバー攻撃の被害を受け、その請求額が3億ドルを超えた場合、同社はCATボンドに投資した資金を補償金の支払いに当てることが可能だ。
※注1:一定条件を満たす災害が発生した場合、発行者が償還する元本の一部や全額が免除される証券の一種。
Beazleyは、CATボンドのような新しい仕組みが自社の財政リスクの軽減に役立つと考える。同社のCEOエイドリアン・コックス氏は経済紙「Financial Times」の取材に対し、自身の考えを次のように話す。「保険会社がより大きな財源を確保することは、リスクヘッジや企業の成長促進につながり、最終的には補償範囲を数十億ドル相当に拡大することも可能になるだろう」
Financial Timesによると、Beazleyは2020年から証券会社Arthur J. Gallagher & Co.(Gallagher Reの名称で事業展開)と投資会社Fermat Capital Managementの支援を受けながら、CATボンドの実現に取り組んでいる。
後編は、サイバー保険業界が取り組むべき課題を紹介する。
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