日本代表のミッドフィルダー(MF)である遠藤 航氏の電撃移籍により、リバプールFCの各種配信サイトへのアクセスが殺到した。しかし同クラブは、ITシステムを刷新していたことから余裕を持って対処できた。
サッカー日本代表の遠藤 航氏は2023年8月、ドイツのシュツットガルトからイングランドのリバプールFCへの移籍を発表した。まだシュツットガルトとの契約期間が残っている中での電撃移籍だった。
これにより日本のサッカーファンからリバプールFCの運営する各種配信コンテンツへのアクセスが殺到している。だが、こうした状況の変化にもリバプールFCは冷静に対処できた。なぜなのか。
リバプールFCは同クラブが配信している各種コンテンツがどのような反響を呼んでいるか、クラウドコンピューティングの技術を使って分析できるようにしている。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)によって、世界各国の企業がパブリッククラウドサービスの採用を加速した。リバプールFCも、ITシステムのクラウド移行に力を注いだ。これは同クラブのメディア制作チームにとって不可欠だった。
「かつてはリバプールのデータセンターで20数枚の回転ディスクに頼ってコンテンツを保存していた」と、リバプールFCのデジタル担当シニアバイスプレジデントを務めるドルー・クリスプ氏は打ち明ける。メディア制作チームが仕事に使うコンテンツにアクセスするためには、オフィスに出社する必要があった。「スタッフが在宅で効率的に働けるよう、迅速にクラウドへ移行する必要があった」とクリスプ氏は話す。クラウド移行によって、デジタルマーケティングの各種施策に要する時間を約4割削減できたという。
リバプールFCはコンテンツをクラウドインフラから配信するため、クラウドストレージ事業者のWasabi Technologiesと契約を結んだ。リバプールFCは試合や練習などの映像のポストプロダクション(撮影後の作業の総称)に力を入れており、映像や音声の編集といったコンテンツ制作業務を、誰でも、どこからでも可能な体制を目指している。
今後はコンテンツ制作の一部作業に人工知能(AI)技術を利用することをリバプールFCは検討している。クリスプ氏によると、試合の映像を分析し、各地域のファンの好みに応じて試合のベストな瞬間を見極める作業にAI技術を活用できる可能性がある。特定の選手にスポットを当てることを好む地域もあれば、ゲーム全体、あるいは試合の流れが変わった瞬間や戦術にスポットを当てることを好む地域もあるという。
クリスプ氏によると、リバプールFCは現在、15〜20個の場所からデータを収集してファンのオンライン利用状況について分析している。データを収集する対象は、公式サイトのLiverpoolfc.comや、チケット販売ページ、ニュースサイトなどだ。
リバプールFCはクラウドインフラに構築したデータウェアハウスに各地から集めたデータを集約し、分析している。「トラフィック(ネットワークを流れるデータ)量が上昇した原因もここで分析している」とクリスプ氏は語る。
収集したデータはファンの行動を分析し、リバプールFCとパートナーのプロモーションの役に立てている。リバプールFCはイングランドのチームであるが、ファンが多い地域はアジアだ。こうした事情から、同クラブはデジタルによるファンとの交流を、対面による交流と同じくらい重視している。
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