「英国最強を目指す」との触れ込みで進められているブリストル大学のAIシステム向けスーパーコンピュータプロジェクトが、同国政府から2億ポンド超の開発資金を獲得した。同スパコン開発の狙いとは。
英国政府は、ブリストル大学(University of Bristol)が推進している人工知能(AI)システム向けのスーパーコンピュータ「Isambard-AI」の開発に、2億2500万ポンド(約420億円)を投じることで合意した。
Isambard-AIは2023年9月に計画が明らかになった、「英国で最も高い演算能力になることが期待されている」スーパーコンピュータだ。
Isambard-AIは、毎秒最大200京回の演算ができるようになることを目指しており、ロボット工学、ビッグデータ、気候変動、創薬といった分野の研究を支援する。2024年夏に稼働を開始する見込みだ。
英国政府は、AI分野の研究を支援する国立機関Artificial Intelligence Research Resource(AIRR)の立ち上げを目的として、3億ポンド(約560億円)を投資した。Isambard-AIへの投資は、この投資の一貫だ。
Isambard-AIは、複合材料(異なる物理的および化学的特性を持つ2つ以上の材料を組み合わせて作られる材料)の研究機関National Composites Centre(NCC)に設置されることになる。システムの構築、納入を担当するベンダーは、Hewlett Packard Enterprise(HPE)だ。
HPEはIsambard-AIについて、「新興技術の原動力としての地位を確立しているAI技術の力を活用するため、英国内のさまざまな組織が利用することになる」と説明する。AI技術を必要としている分野の例として同社が挙げるのは、大規模言語モデル(LLM)のトレーニング、ビッグデータ、ロボット工学などだ。
ブリストル大学イザムバード国立研究施設の責任者を務めるサイモン・マッキントッシュスミス氏は、Isambard-AIを「英国におけるAIシステムの演算能力を大きく飛躍させるものだ」と評価する。「Isambard-AIはオープンサイエンス(あらゆる人が科学研究の成果を参照したり研究活動に参加したりできるようにする取り組み)のためのAIシステムとしては、世界でも屈指の能力を誇るAIシステムの一つになる」と説明する。
マッキントッシュスミス氏はAI分野の中心的存在であるHPEやNVIDIAと提携して、大規模な研究用コンピューティングインフラを構築、展開し、優れた能力を持つスーパーコンピュータを生み出すことに大きな期待を寄せている。「Isambard-AIはロボット工学、ビッグデータ、気候研究、創薬などの分野でAIの巨大な潜在能力を引き出し、英国の研究機関や産業界にかつてないほどの能力をもたらす」と同氏は展望する。
HPEのエグゼクティブバイスプレジデント兼ゼネラルマネジャーで、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)、AI&Labs担当のジャスティン・ホタード氏は、「英国政府が資金提供を確約したことは、AI分野で『英国が世界のリーダー的地位』を占めるという決意の表れだ」と述べる。「Isambard-AIは、世界トップレベルのスーパーコンピューティングを活用し、計算負荷の高いAIモデルの推論や訓練に必須となる性能と規模を実現するものだ」とホタード氏は説明する。そうした構成要素の中には、HPの中央研究組織である「HP Labs」のブリストル研究所と共同開発した高性能ネットワーキングがある。「英国政府およびブリストル大学と提携し、英国の研究者や産業界に欧州最大規模のオープンサイエンス用AIシステムを提供できることを誇りに思う」と同氏は述べる。
先進的AI技術のリスク評価とガバナンスを支援する英国政府機関Frontier AI Taskforceが、Isambard-AIに優先的に利用するという。その目的は、生物兵器の開発やサイバー攻撃による国家安全保障上の脅威など、最先端のAI技術がもたらすリスクを軽減する取り組みを支援することだ。
英国政府がIsambard-AIに投資することを発表したのは、2023年11月に英国で開催した国際会議「AI Safety Summit 2023」だった。「英国政府は、Isambard-AIを安全に構築して稼働させることにより、人々が健康かつ便利な生活をより長く送れるようにする目標において、世界をリードする機会をつかむことを、各国の首脳に明確に示した」。英国科学、イノベーション、技術相(Department for Science, Innovation & Technology:DSIT)のミシェル・ドネラン氏はそう述べる。
「これはつまり、英国を代表する研究者や科学者が、AI技術の仕組みをさらに探求するために、必要なツールにアクセスできるようになった、ということだ」とドネラン氏は語る。
米国TechTargetが運営する英国Computer Weeklyの豊富な記事の中から、海外企業のIT製品導入事例や業種別のIT活用トレンドを厳選してお届けします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
サイバー攻撃の脅威から自社を守るには、従業員のセキュリティ教育を効率的・効果的に行い、一人一人の意識を向上させることが重要だ。その実践を“自動化”でサポートするサービスを取り上げ、機能や特徴を紹介する。
技術系キャリアを検討する女子生徒は増加傾向にあるものの、全体的に見た割合は十分ではない。IT分野が女子生徒から敬遠されてしまう理由とは。
オンライン教育の導入により、教育機関はさまざまな場所に存在する学習者の主体的な学習を促し、評価する必要に迫られた。その有力な手段となり得るデータ分析の取り組みを事例と共に紹介する。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を契機にオンライン教育が普及した。これに伴い、教育活動で収集するデータの分析や活用に教育機関が頭を悩ませている実態が浮き彫りになった。
学生や教職員など多様な立場の人が関わる大学で、誰もが満足するIT製品・サービスを導入するのは至難の業だ。テネシー大学の事例から5つのこつを紹介する。
お知らせ
米国TechTarget Inc.とInforma Techデジタル事業が業務提携したことが発表されました。TechTargetジャパンは従来どおり、アイティメディア(株)が運営を継続します。これからも日本企業のIT選定に役立つ情報を提供してまいります。
「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...
Cookieを超える「マルチリターゲティング」 広告効果に及ぼす影響は?
Cookieレスの課題解決の鍵となる「マルチリターゲティング」を題材に、AI技術によるROI向...
「マーケティングオートメーション」 国内売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、マーケティングオートメーション(MA)ツールの売れ筋TOP10を紹介します。