ランサムウェア攻撃集団Rhysidaが、英王室と縁の深い病院に攻撃を仕掛けた。報道によるとRhysidaは、王室の医療データと引き換えに身代金を要求している。被害の全容と攻撃の手口は。
新興の攻撃集団Rhysidaが英国を騒がせている。英紙「Daily Mail」が2023年12月3日(現地時間)に報じたところによると、Rhysidaはキングエドワード7世病院(King Edward VII’s Hospital)にランサムウェア(身代金要求型マルウェア)攻撃を仕掛け、ダークWeb(通常の手段ではアクセスできないWebサイト群)で英王室の医療情報を暴露すると脅迫した。2023年10月にはRhysidaが大英図書館にランサムウェア攻撃を仕掛けたことを、公共放送局BBC(英国放送協会)が報じていた。
キングエドワード7世病院は、英王室との縁が深い病院だ。現南アフリカの支配を争点とした第2次ボーア戦争から帰還した戦傷病者の看護に当たった、カイザー家のアグネスとファニー姉妹が1899年に設立した。病院の名称は、同病院の最初の支援者となったエドワード7世の名前を冠している。キングエドワード7世病院は王室と120年以上の交流を持ち、故マーガレット王女(スノードン伯爵夫人)、故エリザベス2世とその母である故エリザベス皇太后、故エディンバラ公フィリップ王配、国王チャールズ3世、ウェールズ公妃キャサリンなど、数々の王族の治療に当たってきた。
Rhysidaは、キングエドワード7世病院から入手したと主張する王室関係者のエックス線画像、カルテ、処方箋、問診票のコピーなどの画像をダークWebで公開し、約30万ポンド相当のビットコインによる支払いを要求した。データの販売という措置に踏み切ったのは、キングエドワード7世病院がRhysidaとの間で身代金支払いの交渉を拒否したためだと考えられる。
Rhysidaが入手したと主張するデータが本当に王室に関するものなのかどうか、真偽は検証されていない。王室の個人情報は極めて厳格なセキュリティ管理対象であり、そのようなデータを管理する組織は多重的かつ多層的なセキュリティ対策をしなければならない。過去の事件と同様に、サイバー犯罪者の主張は真偽の疑わしいものと見るべきだ。
キングエドワード7世病院は一時的な不正アクセスを受けた事実を認めた上で、「セキュリティインシデントの影響を軽減するための措置を速やかに講じ、ほぼ通常通りのサービスを提供し続けた」と説明する。同院は被害の全容を把握するためにITインフラ全体の調査を開始し、少量のデータがITインフラの一部からコピーされていたことを確認したという。コピーされたものは盗み出されても影響のない、病院のシステムに関するデータだった。しかし少数の患者情報が含まれていたため、該当する患者にインシデントについて通知した。ITインフラ全体の調査には、英国立サイバーセキュリティセンター(NCSC)と警察に支援を要請したという。
セキュリティベンダーSearchlight Cyberで脅威インテリジェンスのリードエンジニアを務めるロバート・フィッツサイモンズ氏はRhysidaについて、ランサムウェアを「サービス」として提供する「Ransomware as a Service」(RaaS)の一つだと指摘する。Rhysidaは2023年半ばから活動が確認されており、同組織のブログでは60人の被害事例が公開されているという。
Rhysidaを分析したさまざまな情報によると、同組織はフィッシング攻撃やVPN(仮想プライベートネットワーク)ツールの脆弱(ぜいじゃく)性を悪用した手法などで標的システムに侵入しており、グループ内のメンバーが高度な技術を備えていることがうかがえる。ターゲットとする業界や地域は限定せずに標的のデータをできる限り暗号化するという見方もあれば、教育機関を標的にする傾向があるという見方もある。
標的から盗み出したデータの暗号化には、オープンソースの暗号ライブラリ「LibTomCrypt」と ストリーム暗号(ビットまたはバイト単位での暗号)「ChaCha20」を使用している。標的のネットワークに侵入した後は、ITベンダーFortraのペネトレーションテストフレームワーク「Cobalt Strike」、Microsoftの遠隔操作ツール「PsExec」とコマンドラインユーティリティー「ProcDump」、AnyDesk Softwareのリモートデスクトップツール「AnyDesk」などのソフトウェアを使ってペイロード(マルウェアの実行を可能にするプログラム)を配布している。
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