DeepSeekを超えた? Ai2「新LLM」にこそ“本当の期待”が集まる理由オープンソースLLMを再考する

中国発のAIモデル「DeepSeek」が注目を集める中で、Ai2新LLM「Tülu 3 405B」はオープンソースの在り方について疑問を投げ掛けている。

2025年03月14日 07時15分 公開
[Esther ShittuTechTarget]

関連キーワード

人工知能 | オープンソース


 2025年1月、中国のAI(人工知能)スタートアップDeepSeekが大規模言語モデル(LLM)「DeepSeek-R1」を発表。その性能の高さに加え、開発コストの低さやオープンソースである点が注目を集めた。しかし、これらの主張に対しては懐疑的な見方を示す研究者が少なくない。

 こうした中で、同時期に登場したオープンソースLLM「Tülu 3 405B」にも関心が寄せられている。非営利のAI研究機関であるAllen Institute for Artificial Intelligence(Ai2)が開発した同モデルは、DeepSeekの「DeepSeek V3」やOpenAIの「GPT-4o」を上回る性能を見せるだけでなく、オープンソースLLMの在り方について改めて問い掛ける存在となっている。

なぜDeepSeekではなく「Ai2の新LLM」に期待が集まるのか

 Tülu 3 405Bは、4050億個のパラメーターを持つオープンソースLLMだ。パラメーターとはAIモデルの振る舞いを決定する変数であり、一般的にはパラメーター数が多いほど学習能力や理解能力が高くなる傾向にある。DeepSeek V3は6710億個、GPT-4oは1兆個以上のパラメーターを持つとされている。

 Tülu 3 405Bは、2024年11月にAi2が発表したLLM「Tülu 3」シリーズの一環であり、「RLVR」(検証可能な報酬による強化学習:Reinforcement Learning with Verifiable Rewards)という手法を用いて開発されている。これは、数学の問題解決や指示の理解など、特定のスキルを向上させるよう訓練する手法だ。

 Ai2は、Tülu 3 405Bの開発でパラメーター数や計算能力の拡大に成功したものの、技術的課題にも直面した。Tülu 3 405Bの学習には256基のGPU(グラフィックス処理装置)を並列稼働させる必要があり、計算コストが高くなり過ぎた結果、パラメーターの調整が十分に実施できなかったという。

急成長するオープンソース市場

 DeepSeek-R1とTülu 3 405Bが登場した2025年初頭には、フランスのAIスタートアップMistral AIも、パラメーター数240億個のオープンソースLLM「Mistral Small 3」をオープンソースライセンス「Apache License 2.0」の下で公開している。DeepSeek-R1、Mistral Small 3、Tülu 3 405Bが同じ時期に登場したことは、オープンソース市場の成長を象徴する動きとなった。

 米Informa TechTargetの調査部門Enterprise Strategy Group(ESG)でプリンシパルアナリストを務めるマーク・ベキュー氏は、「Ai2の価値は、単なるAIモデルの精度だけでなく、そのオープン性にある」と話す。

 ベキュー氏は、Ai2がTülu 3 405Bの開発コストが高額であったことを率直に公表している点を強調する。これはDeepSeekとは対照的だ。DeepSeek-R1の学習データやAIモデルの構成要素は非公開であり、本当にオープンソースと呼べるのか疑問視する声も上がっている。開発コストも、当初は約560万ドルと公表されているが、実際には13億ドルに及ぶとの見方もある。

 一方、Ai2は学習データやAIモデルの学習に用いたソースコードを公開している。こうしたオープンな開発アプローチは、AIモデルの精度向上に貢献しているとベキュー氏は話す。

 調査会社Constellation Researchのアナリストであるアンディ・トゥライ氏は、「Ai2の完全にオープンなアプローチは、 データ選択から評価に至るまでのパイプラインを、エンドユーザーが自由にカスタマイズできる環境を保証している」と評価し、今後の普及に期待を寄せる。

Ai2の普及には課題も

 一方でトゥライ氏は、企業向け市場におけるAi2の影響力がまだ限定的である状況を指摘する。「AIモデルの性能はトップクラスであるにもかかわらず、そのマーケティングや宣伝はかなり控えめだ」(トゥライ氏)

 実際、Tülu 3 405Bに関する広報活動はブログ記事2本程度にとどまった。これは、DeepSeek-R1が発表された際に圧倒的なメディア露出を受けた状況とは対照的だ。この背景には、Ai2の非営利的な立場が影響しているとベキュー氏は話す。Ai2は研究を主目的とする非営利組織であり、商業的な成功を第一の目的としていないからだ。

 Tülu 3 405Bモデルは、Ai2の無料Webツール「Ai2 Playground」で試用可能となっており、GitHubやHugging Faceでソースコードが公開されている他、Googleのクラウドサービス群「Google Cloud」でも利用可能となっている。

TechTarget発 世界のインサイト&ベストプラクティス

米国Informa TechTargetの豊富な記事の中から、さまざまな業種や職種に関する動向やビジネスノウハウなどを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

鬮ォ�エ�ス�ス�ス�ス�ス�ー鬯ィ�セ�ス�ケ�ス縺、ツ€鬩幢ス「隴取得�ス�ク陷エ�・�ス�。鬩幢ス「�ス�ァ�ス�ス�ス�、鬩幢ス「隴主�讓滂ソス�ス�ス�ス鬩幢ス「隴趣ス「�ス�ス�ス�シ鬩幢ス「隴乗��ス�サ�ス�」�ス�ス�ス�ス

製品資料 ニュータニックス・ジャパン合同会社

AIの実装/管理を成功させる4つのポイント:データやコストの課題と解決策

AIは生産性や顧客満足度の向上などさまざまな効果をもたらすが、その導入時に、AIモデルの管理/監視、従業員のスキルギャップ、データの一貫性などの課題に悩まされる企業は多い。これらを解消するために必要な、AI戦略の進め方とは?

製品資料 ニュータニックス・ジャパン合同会社

PoC段階で30%の企業が導入を断念、生成AIプロジェクトを成功に導くためには?

企業にとって生成AIは、生産性向上や収益性増加をもたらす重要な技術だが、導入には多くの課題が存在する。PoC(概念実証)段階で約30%の企業が導入を断念するといわれる生成AIプロジェクトを成功に導くための方法を紹介する。

製品資料 日本マイクロソフト株式会社

“普通の社員”のPC活用が根底から変わる、Copilot+ PCがもたらすAI改革の姿

生成AIによって既存業務の生産性向上といった成果を上げる企業が増えている今、AIをより効果的に活用するための鍵になるといわれているのが、AI処理に特化した「Copilot+ PC」だ。AI PCが具体的にどのような変化をもたらすのかを解説する。

事例 アマゾン ウェブ サービス ジャパン 合同会社

先進的なIT企業に学ぶ、業務に必要なAIを現場で開発するための環境作りの極意

企業のDX支援などを手掛けるSpeeeでは、各チームの業務に最適化されたAIエージェントを、現場レベルで自律的に開発/活用するための環境を提供している。このようにAIとデータの活用を民主化した理由とシステム構成を解説する。

製品資料 株式会社SHIFT

AIシステムのアウトプット品質を担保するための方法とは?

ビジネスにおけるAIへの依存度が高まる一方、AIのアウトプット品質に関する懸念が広まっており、導入をためらう組織も増えている。本資料では、AIシステムの精度を高め、アウトプットの品質を担保するための具体的な方法を解説する。

アイティメディアからのお知らせ

From Informa TechTarget

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは
遠隔のクライアント端末から、サーバにあるデスクトップ環境を利用できる仕組みである仮想デスクトップ(仮想PC画面)は便利だが、仕組みが複雑だ。仮想デスクトップの仕組みを基礎から確認しよう。

鬩幢ス「隴取得�ス�ク陷エ�・�ス�。鬩幢ス「�ス�ァ�ス�ス�ス�、鬩幢ス「隴主�讓滂ソス�ス�ス�ス鬩幢ス「隴趣ス「�ス�ス�ス�シ鬩幢ス「隴乗��ス�サ�ス�」�ス�ス�ス�ス鬩幢ス「隴趣ス「�ス�ス�ス�ゥ鬩幢ス「隴趣ス「�ス�ス�ス�ウ鬩幢ス「�ス�ァ�ス�ス�ス�ュ鬩幢ス「隴趣ス「�ス�ス�ス�ウ鬩幢ス「�ス�ァ�ス�ス�ス�ー

2025/06/14 UPDATE

ITmedia マーケティング新着記事

news017.png

「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。

news027.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

news023.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...