米国の医療IT化施策が生んだ、医療現場と提供ベンダーとのギャップEHR統合の流れを食い止める可能性も

医療分野のIT化推進策として、政府が導入医療機関にインセンティブを支給する制度がある。IT普及に一定の効果はあるものの、ベンダーのアプローチによっては意図しない方向に進むこともある。

2012年11月12日 08時00分 公開
[Ed Burns ,TechTarget]

 米連邦政府が定めた“Meaningful Use”(医療ITの有効利用)プログラムは、「完全統合型のシステムを採用して、ワークフローの改善やシームレスなデータ共有を実現する」というアプローチを奨励する結果をもたらしている。大規模な電子健康記録(EHR)システムの開発者もまた、こうしたアプローチを支持している。だがその一方で、こうした包括的なアプローチが果たしてヘルスケア業界が求める変化へとつながるのかどうかについて、一部からは疑問の声も上がっている(関連記事:米医療機関でマルチベンダー型システムが敬遠される理由)。

統合EHRに代わる選択肢

 Meaningful Useプログラムでは、完全なEHRシステムを採用した医師に奨励金が支給されることになっている。米Harvard Medical Schoolの関連医療機関であるボストン小児病院の研究者、アイザック・コヘイン氏によれば「このプログラムの存在が完全に一体化統合されたシステムの導入を促している」という。

 だが、コヘイン氏とその同僚であるケネス・マンドル医学博士が推奨しているのは、標準化されたAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)をベースとした代替のアプローチだ。このアプローチであれば、EHRベンダーに限らず、あらゆるアプリケーション開発者が、一般的なプログラミング言語に対応するプラットフォームで動作する新しいプログラムを開発できる。「そうなれば、アプリケーション開発のペースも加速するはずだ」とコヘイン氏は語る。ただし、現状ではMeaningful Useプログラムの奨励金を受け取ることが先決であるため、このアプローチは広まりそうにない。

 「この財政支援プランが定められたおかげで、『プラットフォームを購入して、アプリケーションを開発しよう』と言うよりも、すぐに利用できるソフトウェアを購入する方が簡単になっている。アプリケーションの完全なエコシステムを発展させるためには、時間がかかる」とコヘイン氏。

 「オールインワンシステムへの偏重をやめることが、アプリケーションベースのアプローチを取り入れるための鍵となるだろう」とさらに同氏は指摘している。

 もう1つ、システム全体にわたるEHR統合の代替選択肢として考えられるのは「仮想化」だ。Epicの実装スペシャリスト、ジョン・ロブレス氏によると、Epicも含め、従来、ローカルでホストするシステムを提供してきた大手ベンダーの多くが最近はコンポーネントの仮想化を進めているという。こうした動きが進めば、今後、組織はコンポーネントを自分たちの特定のニーズに合わせてカスタマイズしやすくなるかもしれない。

 また、特定のコンポーネントを作動させるのに新たにサーバを設定する必要がないのであれば、ヘルスケアプロバイダーは用途に応じて複数のベンダーを使う方が簡単だということに気付くかもしれない。

相互運用性のある標準規格がEHR統合の流れを食い止める可能性も

 ベンダー各社は長らく、標準化に抵抗してきた。Meaningful Useの第2段階の認定基準と標準規格を考察した関係者らによれば、これは各社のビジネスモデルが顧客を完全統合型のシステムに囲い込むことに依存しているためだという。他のベンダーのシステムを購入しやすくすれば、自分たちの売り上げが減ることになりかねないというわけだ。

 だが連邦政府の規制や顧客の要望に押され、ベンダー各社は徐々に標準化の方向に向かいつつある。米ビジネス誌Forbesが最近報じたところによると、EpicとCernerは目下、両社のシステム間で患者のカルテを交換できるよう、Greenway Medical Technologiesと共同で作業を進めているところという。またeClinical Worksは2012年9月、クロスプラットフォームの相互運用性を備えた通信規格の開発促進に向けた取り組みを発表している。

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