仮想化導入ガイドPart7 誇大宣伝に要注意【後編】――アプリケーションとストレージStep by Step

「サーバの仮想化」と「OSレベルの仮想化」について説明した前回に続き、今回は物理リソースを抽象化する2つのアプローチを取り上げ、有効な利用方法を紹介する。

2007年04月05日 05時00分 公開
[Alessandro Perilli,TechTarget]

 新しい技術が人気を呼ぶと、決まって多くのマーケティング担当者がその技術の名前を持ち出して、自社製品について我田引水の説明をし始める。もちろん、これは顧客を非常に混乱させる。残念ながら、サーバ仮想化市場ではまさにそれが起こっている。

 わたしがこの記事を書いているのは、この混乱の解消を願ってのことだ。前回は、よく誤用または乱用される言葉である「サーバの仮想化」と「OSレベルの仮想化」について見た。今回は、物理リソースを抽象化する2つのアプローチを取り上げ、それらをどのような場合に有効に利用できるか、また、それらについて語られていることのうち、何が本当に正しいのか、何が誇大宣伝なのかを理解する手助けをしたい。

アプリケーションの仮想化

 アプリケーションの仮想化は、個々のアプリケーションをOSから分離することに基づいている。この場合の抽象化は、サーバ仮想化の場合とは違ってハードウェアとは関連しておらず、ソフトウェア呼び出しによってアクセスされるファイルシステムやそのほかの構造(Windowsレジストリなど)とかかわっている。一般に、アプリケーション仮想化はサーバ仮想化を補完する技術だ。

 アプリケーションの仮想化では、アプリケーションはOSにアクセスするように見えるが、そのI/O操作は、仮想レイヤーによって横取りされて処理される。仮想マシンの場合とまったく同じように、アプリケーションは仮想レイヤーに完全にインストールされて構成されてから、任意のターゲットコンピュータに配布され、そのシステム環境に影響を与えることなく実行される。

 アプリケーションの仮想化により、競合するアプリケーションの共存や、インストール時間の短縮、構成エラーの回避、セキュリティに役立つアプリケーション相互の独立性の向上といった大きなメリットが得られる。これらはいずれもエンドユーザーの生産性向上につながる。また、アプリケーションの仮想化によるパフォーマンスへの影響は、最小限にとどまる。しかし、明らかな限界がある。仮想化ソリューションでサポートされているOSにしかアプリケーションをインストールできないことだ。

 この市場セグメントでは、ソフトリシティやアルティリスなど数社の新興企業が競合してきた。だが、ソフトリシティは2006年にマイクロソフトに買収され、アプリケーション仮想化とアプリケーションストリーミングの考え方を組み合わせたソフトリシティの製品は、マイクロソフトに引き継がれた。アルティリスは個人利用向けに無料の製品を提供し、アプリケーション仮想化技術の普及を推進している。

 現在、アプリケーションの仮想化は大きな可能性を持っており、サーバの仮想化があまり適さない幾つかのシナリオで利用できる。ただし、ソフトウェアを仮想化する機能の完成度は、全体的にまだ不十分だ。複雑なアプリケーションのなかには、かなり手間をかけないと仮想化できないものや、仮想化がまったく不可能なものもある。

 要約すると、顧客は現時点でアプリケーション仮想化の導入を開始できるが、インフラ全体にこの技術を展開するのは時期尚早といえるだろう。

ストレージの仮想化

 ストレージの仮想化は現在のところ、実装形態がまちまちだ。この技術はこれまで述べてきたほかの技術ほど明確には定義されていない。

 ストレージのレベルでは仮想化はさまざまな側面に適用されるが、その主眼は、各種デバイス(NASやSAN)の容量を統合し、1カ所にあるかのようにアプリケーションに提示することにある。こうした仮想化により、企業はダウンタイムなしで、透過的にストレージブロックを追加、交換できる。

 ストレージの仮想化は大きなメリットをもたらす。例えば、将来、サーバの仮想化を利用する場合、稼働中の仮想マシンを、ワークロードに応じて物理ホスト間で動的に移動する機能をサポートするために、仮想マシンがあらゆる場所からデータにアクセスできるようにする必要があるが、それはストレージの仮想化によって実現される。

 しかし、ストレージの仮想化は強力なメリットを提供するものの、ストレージ市場の大手も含めて、この技術のベンダーは顧客の関心を引くことがなかなかできずにいる。

 ストレージ仮想化ソリューションを売り込むのが難しい理由は2つある。まず、さまざまなベンダーがさまざまな技術を実装しているにもかかわらず、それらをすべて同じソリューションとしてくくっていること。そして、異なるベンダーのデバイスを接続して使うことを可能にする単一の仮想ストレージ規格が、策定されないままになっていることだ。

 ほとんどの顧客にとってストレージの仮想化は、分散RAID 0(ストライプセット)機能を、インフラのどの要素によってこの機能が実現されるかを明確に理解しなくても、呼び出せるということでしかない。そして、ベンダーを変える必要がある場合には、ストレージの仮想化はそもそも利用できない。

 ストレージの仮想化は、まだ概念があいまいであり、互換性がない製品が乱立している。データは企業の最も貴重な資産なのだから、現時点では、ストレージの仮想化を実環境に導入することはなかなか考えられない。

チャンスを生かす

 仮想化の導入に取り組む企業は、導入候補の製品が本当の仮想化製品なのか、あるいは古い技術を新しい仮想化技術と称しているだけの製品なのかを、きちんと見極めなければならない。そして慎重に評価を行って製品を選定し、パイロットプロジェクトを実施した上で本格導入を行うべきだ。用語の混乱に惑わされて取り組みが後手に回ることは避けなければならない。現在の導入のチャンスを逃せば、ITを駆使した今後の企業間競争を生き抜くために必要な、時間的、金銭的、人的投資の蓄積で後れを取ってしまうだろう。

本稿筆者のアレサンドロ・ペリリ氏は、自称「サーバ仮想化のエバンジェリスト」で、大きな影響力を持つブログ、virtualization.infoを2003 年に立ち上げた。ITセキュリティ/仮想化アナリスト、書籍の著者、カンファレンススピーカー、企業研修の講師として活動している。セキュリティ技術分野のマイクロソフトMVP(Most Valuable Professional)の受賞経験がある。同氏の保有資格は、CISSP(公認情報システムセキュリティプロフェッショナル)、MCT(マイクロソフト認定トレーナー)、MCSES(マイクロソフト認定システムエンジニア:セキュリティ)、CompTIA Linux+、CCSI(チェックポイント認定セキュリティインストラクター)、CCSE+(チェックポイント認定システムエキスパート+)、CCNA (シスコ認定ネットワークアソシエイト)、CCA(シトリックスMetaframe XP認定アドミニストレーター)など。

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