2009年にサンを買収したオラクルはそのハードウェア事業を引き継ぎ、2010年からストレージ製品を提供開始した。今回は、同社のハイエンド向けストレージ「Sun ZFS Storage Appliance」を紹介する。
近年の企業買収により製品のラインアップを拡充してきたオラクル。2010年には、サン・マイクロシステムズを統合したことで、同社のハードウェア製品が新たにそのポートフォリオに加わった。以降、同社はソフトウェアとハードウェアを共に扱う総合ベンダーとしての道を歩みつつある。
そのオラクルが提供するハイエンド向けストレージ製品が「Sun ZFS Storage Appliance」だ。同製品は、サンのソフトウェア技術をベースに数々のユニークな特徴を備えている。ストレージ製品を紹介する連載の第6回は、オラクルのSun ZFS Storage Applianceを紹介する。
第1回:QoS制御とデータ階層管理の自動化を実現する「HP StorageWorks P9500」
第2回:ストレージ階層の仮想化・自動化を実現する「Hitachi Virtual Storage Platform」
第3回:最大容量と可用性にこだわったハイエンドストレージ「ETERNUS DX8000」
第4回:仮想化・クラウド時代のストレージ「Symmetrix VMAX」
第5回:独自のキャッシュ技術でストレージの階層化を実現する「FAS6200シリーズ」
Sun ZFS Storage Applianceは、「Sun ZFS Storage 7720」「Sun ZFS Storage 7420」「Sun ZFS Storage 7320」「Sun ZFS Storage 7120」の4機種が用意されている。ハイエンド向けとしては、Sun ZFS Storage 7720もしくはSun ZFS Storage 7420が該当する。
米IDCの調査によると、2009年時点で世界中に存在するデジタルデータの容量は、およそ800E(エクサ)バイト。2020年には3万5000Eバイトまで増加すると予想されるという。2009年の約44倍、年率にすると毎年50%弱のスピードでデジタルデータの量が増えていく計算になる。
いわば「データ激増時代」を迎えるに当たり、「従来のストレージ管理の手法は必ずや破綻を迎えるだろう」と日本オラクル システム事業統括 ビジネス推進本部 マネジャーの寺島義人氏は警告する。
寺島氏は「現状のストレージ装置は、拡張性が低い。大容量のディスクを搭載した場合でも、現状の論理ボリュームの仕様では、増加する大容量のファイルをそのままの形では保存できない。またデータの容量が増えてくれば、それに伴い管理工数も増えていく。データ容量の増加に合わせてストレージを買い足す方式では、膨大なコストが掛かることになる」と語る。
こうした課題を解決するためには、これからのストレージは「高拡張性」「高パフォーマンス」「低容量単価」「低管理コスト」の4つの条件を満たす必要があるという。同氏によれば、Sun ZFS Storage Applianceは、これらの4つの条件を全てクリアしたストレージ製品だという。
まず拡張性に関してだが、具体的な数値を挙げるのが最も分かりやすいだろう。Sun ZFS Storage Applianceは、最大417万7655のLUNを設定でき、ボリュームの数はディスク容量が許す限り無制限。さらにファイルシステムおよびファイルのサイズは、最大で16Eバイト(2の64乗バイト)まで作成できる。これは、従来のストレージ製品と比べると桁違いに大きな数値だ。
高い拡張性を可能にしているのが、製品名にも含まれている「ZFS」という名のファイルシステムだ。ZFSは、オラクルの代表的なソフトウェア製品であり、エンタープライズ向けUNIX「Solaris」に搭載されるファイルシステムである(Solaris 10以降)。ZFSの最大の特徴は、128ビットでアドレッシングを行う点。UNIXシステムで最も広く使われている「UFS」をはじめ、ほとんどのNASストレージ製品のファイルシステムが64ビットのアドレッシングを採用していると比較すると、より巨大なデータを扱うことができる。
今後は、動画のストリーミングデータなどファイルデータがますます増えてくる。現状のNASストレージではファイルをそのまま格納することができず、複数のファイルに分割せざるを得ないケースが既に出てきている。その点、Sun ZFS Storage Applianceであれば、「ほぼ無限といっても差し支えないほど、巨大なファイルサイズまで対応できる」(寺島氏)。
性能面に関しては、独自のアーキテクチャ「Hybrid Storage Pool」を採用することで、高スループットを効率的に達成している。ストレージ製品のスループット、特にRead性能を高めるためには、大容量のキャッシュメモリを搭載し、キャッシュヒット率を高めるのが一般的なやり方だ。それに加えてHybrid Storage Poolでは、ソリッドステートドライブ(SSD)をキャッシュとして利用する。SSDはメモリよりアクセス速度は劣るものの、容量単価が安いために大量に搭載することで、効率よく性能を高められるという。
このキャッシュ用SSDは、さらにRead用のものとWrite用のものに分かれている。Write用キャッシュはRead用よりも高い可用性が要求されるため、この2つをあえて分けることでRead用にコストの安いSSDが採用できる。また、このSSDキャッシュ機能で高いスループットを担保できれば、高速なディスク装置を使用しなくても済む。
Sun ZFS Storage Applianceで採用されているディスク装置は、7200rpmのSASドライブである。また、ディスク装置の数を増やしてI/O処理を分散する必要もないため、少数の大容量ディスクを使ったシステム構成でも十分にパフォーマンスを確保できる。ディスクの数が減れば、当然ストレージシステム全体の導入コストを大幅に削減することができ、設置スペースや消費電力の削減も期待できるだろう。Hybrid Storage Poolはストレージ装置に独自の機能ではなく、ZFSのファイルシステムとしての機能の中に含まれている。
「パフォーマンス向上とコスト削減を非常に高いレベルで両立できるSun ZFS Storage Applianceは、個人的には本当に欠点のないシステムだと思っている」(寺島氏)
ZFSの特徴として、さまざまなデータ管理機能をデフォルトで包含している点も挙げられる。
ソフトウェアRAID(RAID-Z、Z2、Z3)
リモートレプリケーション
スナップショット
ミラーリング
データ圧縮
インラインでのデータ重複排除
その他にも数多くのデータ管理機能がZFSには初めから搭載されている。こうした機能がデフォルトで活用可能である点もその導入メリットの1つでもある。多くのストレージ製品では、こうした機能を利用するためには別途、追加ライセンスを購入する必要があるからだ。
さらに、運用管理コストの削減も期待できる。ストレージの管理に携わっている方なら誰しも経験があるだろうが、ファイルサイズが大きくなり、論理ボリュームがいっぱいになってしまった際の管理作業は、「データをいったんバックアップし、論理ボリュームを切り直して、再びデータをリストアして……」というように極めて煩雑だ。近年多くのストレージ製品に実装されているシンプロビジョニング機能は、こうした手間を軽減するために、ディスクプールの容量を実際よりも多く見せかける技術だ。しかし「Sun ZFS Storage Applianceでは、そもそもシンプロビジョニング機能は必要ない」と寺島氏は説明する。
Sun ZFS Storage Applianceでは、ディスクを束ねる「ストレージプール」を設定し、その上に好きなサイズのファイルシステムを切り出せばいいだけだという。ファイルシステムが足りなくなればZFSで自動拡張を行い、ディスクをストレージプールに動的に追加することもできる。ファイルシステムや論理ボリュームの切り直しが一切いらなくなるので、管理は圧倒的に楽になる。また、管理ツールの機能も強みの1つだという。単にログの内容を表示するのではなく、機器の状態をリアルタイムに管理ツールのGUI上からモニタリングできる。
「この管理ツールの機能を使って、『経験と勘に頼ったチューニングから脱却しましょう』というのが、われわれのメッセージだ」(寺島氏)
Sun ZFS Storage Applianceの4機種の基本的なアーキテクチャは全て同一である。従って、ここまで紹介してきた4つの条件を全機種で満たしているという。
また、同製品の導入先には、巨大なサイズのファイルを扱うことをビジネスのコアにしている企業が多いという。例えば、映像のストリーミングデータを大量に管理するテレビ局やコンテンツプロバイダーなどだ。さらに、容量の大きい地図や写真のデータを扱う企業、あるいは巨大なCADデータや部品表データを扱う製造業などでも、同製品は導入効果が期待できる。
しかし、寺島氏は「ファイルサーバだけではなく、データベースサーバとしてもSun ZFS Storage Applianceは十分に高い性能を発揮する」と説明する。自社の検証では、Sun ZFS Storage 7420をNFSとして使用した場合でも、一世代前のミッドレンジのFC-SAN専用機よりもOracle Databaseを使ったデータ検索のベンチマークテストではるかに優れた性能を発揮したという。寺島氏は「SSDの単価が安くなれば、SSDキャッシュを大量に搭載してさらに大幅な性能アップが期待できる」と語る。同社は今後、ファイルサーバだけでなくミッションクリティカルなデータベースサーバとしての用途にもこの製品の訴求を展開する方針だ。
項目 | 仕様 |
---|---|
LUN数 | 最大4,177,655 |
ボリューム数 | 容量が許す範囲で無制限 |
システム容量 | 最大1.15P(ペタ)バイト |
フラッシュキャッシュ | 最大8台 512Gバイト(Read用)/最大24台の18Gバイト(Write用) |
サポートデータプロトコル | NFS、CIFS、HTTP、WebDAV、iSCSI、FC、iSER、SRP、RDMA over InfiniBand 、IP over InfiniBand |
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