プライベートクラウドを構築する商用ソフトウェアとして、オープンソースの製品を提供するベンダーが多数登場している。今後、どこが脚光を浴び、企業の導入計画に関与していくだろうか。5社の動向を探った。
オープンソースクラウドの選択肢を検討するとき、社内に優れた開発チームや固有のアプリケーションを持つ企業は、商用クラウドサービス業者を回避しようとするかもしれない。だが、EucalyptusやOpenStack、Abiquoなどのオープンソースクラウドプラットフォームは、企業のプライベートクラウドと高い親和性を持っている。
問題は、それらのオープンソースクラウドサービス業者が、それぞれ他社とどう違うのかという点だ。この先どこが市場を制すだろう? 米Eucalyptus Systemsは、OpenStackとの競合に打ち勝つことができるだろうか? OpenStackは過剰宣伝のプロジェクトからサービス品質のクラウドへ移行できるだろうか? 米Red Hatは野心的なクラウド戦略を打ち出せるだろうか? そして、米Abiquoのようなハイパーバイザー不可知論的企業はどうなるだろう? どの業者が脚光を浴び、企業のプライベートクラウド導入計画に関与していくだろうか(関連記事:注目のOpenStackプロジェクトの全体像)?
Abiquoは、プライベート、パブリック、あるいはハイブリッドの、完全に自動運用可能なセルフサービス、マルチスタック、マルチハイパーバイザークラウドを迅速に構築、管理できるエンタープライズクラウド製品を提供するオープンソースソフトウェア企業だ。Abiquoは、企業がインストールしたハイパーバイザーとストレージ管理ツールを統合し、主要なハイパーバイザーをサポートするため、ユーザーは単一の“窓”から仮想インフラストラクチャを管理できる。ユーザーは複数のユーザーインタフェース(UI)を行ったり来たりする必要がない。
Forrester Researchは、米BMCや米CA Technologies、米Hewlett-Packard(HP)、米IBM、米Microsoft、米VMwareなどがリストされるプライベートクラウド製品トップ15(リンク先はPDF)で、Abiquoをほぼ同等に評価している。
米Canonicalは以前、「Ubuntu Enterprise Cloud(UEC)」の開発に当たり、オープンソースクラウドプロジェクトのEucalyptusに参画していた。しかし2011年2月、Canonicalは軸足をOpenStackに移す。その後、Ubuntuクラウド基盤技術をOpenStackに切り替えた。OpenStackは現在、Ubuntuクラウドのコアを構成する。UbuntuはHPのOpenStackベースのクラウドでホストおよびゲストOSに名付けられた。
Canonicalによると、これらの変更はEucalyptusをベースとするUECの現行リリースには影響が及ばないという。Eucalyptusは今後もダウンロード可能であり、Canonicalによってサポートされる。EucalyptusベースのUECでプライベートクラウドを構築した顧客は、2015年4月までメンテナンスサービスを受けることができる。Ubuntuは、EucalyptusベースのUECからOpenStackベースのUECへの移行を自動化するツールを提供する予定だ。
Eucalyptus Systemsは、オープンソースのEucalyptusクラウドプロジェクトコードのプロダクションレディリリースを提供している。また、VMwareハイパーバイザーのサポートを含む商用プラグインも用意している。KVMおよびXenのサポートはEucalyptusプロジェクトに組み込まれており、Amazon EC2 APIのほとんどをサポートしている。
Eucalyptus Systemsは、Red Hatや他のオープンソースクラウドサービス業者と同様、年間サブスクリプション方式を採用しており、テクニカルサポートと各種商用プラグインへのアクセスを提供する。Eucalyptus Systemsのプラグインを利用すれば、Amazon EC2(Elastic Compute Cloud)互換の既存パブリッククラウドオプションとの互換性を維持したまま、VMware、KVM、Xenの資産を単一のクラウドファブリックにブレンドすることが可能だ。
Eucalyptus Systemsが提供するオープンソース製品の強みは、ローコスト、プロダクション環境のインストール、VMwareおよびAmazon EC2のサポート、そしてAmazon EC2パブリッククラウドとEucalyptusベースのプライベートクラウド間でワークロードを移動できる点だ。
OpenStackは、技術者、開発者、研究者、企業が、クラウド向けオープンソース製品を開発するためのリソース、技術、アイデアを共有するオープンソースコミュニティーだ。このイニシアチブの大きな目標の1つは、プロプライエタリなベンダーによるロックイン(囲い込み)の懸念からベンダーを解放することにある。OpenStackは現在、プライベートおよびパブリッククラウドの最もハイプなオープンソースプラットフォームだ。
最初の有力なOpenStackサポーターは、NASAと米Rackspaceだった。現在、米Cisco Systems、米Dell、HP、そして米Intelなど、多数の大企業がOpenStackのサポートを表明している。前述のように、Canonicalはコアクラウド技術をEucalyptusからOpenStackに移した。また、MicrosoftはHyper-V統合をサポートして、積極的にOpenStackに関与している。
OpenStack APIモジュールは、Amazon EC2やXen、KVMなどのAPIと互換性がある。仮想サーバをOpenStackからAmazon EC2に移行するツールが存在する。
OpenStackはローコストのオープンソース開発オプションを求める専門技術を持った組織にアピールする。Rackspaceや米Citrix Systems、米Mirantisなど、多くの企業がOpenStackユーザー向けのローコストサポートプログラムを開発している。
HPなどのベンダーは、OpenStackをプライベートクラウドだけはなく、パブリッククラウドを構築するためのプラットフォームともみている。NASAは内部のプライベートクラウドにOpenStackを採用しており、RackspaceはクラウドストレージプラットフォームにOpenStack Object Storageを利用している。CiscoはOpenStackをベースにNaaS(Network as a Service)を構築した(関連記事:OpenStack、商用への品質強化と“Everything as a Service”の方向へ)。
IaaS(Infrastructure as a Service)の「CloudForms」とPaaS(Platform as a Service)の「OpenShift」は、Red Hatのクラウド製品だ。企業はCloudFormsを利用して、プライベートクラウド環境を作成、管理をすることができる。Red Hatでは、CloudFormsを用いて仮想サーバの管理ではなくアプリケーションの管理が可能だとしている。
OpenShiftはアプリケーション開発環境を構築する。Red Hatによると、OpenShiftは他のPaaS製品より移植性が高いという。やはりオープンソースプロジェクトであるDeltacloud APIを使って、他のクラウドコンピューティング環境にシステムを移行することができるからだ。
後編「OSSクラウド基盤市場の行方を決めるOpenStackの成否」では、各ベンダーの動向を踏まえ、今後の製品市場シェアについて考える。
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