多くの企業でクラウドコンピューティングの採用が加速した今も、利用価値と信頼性、セキュリティをめぐる論争がとどまる気配はない。セキュリティとコンプライアンス上の安全性を考える。
クラウドコンピューティング(以下、クラウド)は利用価値と信頼性、セキュリティをめぐり、依然として疑問を投げ掛ける声がある。しかし実際にクラウドを導入したユーザーは、傍観していては見えないものがあると指摘する。
クラウドの利点と課題をめぐって長く続いてきた論争は、多くの企業でクラウドの採用が加速した今も、収まる気配はない。
「セキュリティとコンプライアンスについて、論理的な懸念があるのは確かだ。だが、その大部分は管理できる」と、クラウド事業者とクラウドサービスユーザーの代理人を務める米法律事務所Hogan Lovells USのパートナー、クリストファー・ウルフ氏は話す。
米TechTargetが先頃実施したクラウドに関する調査では、回答者1497人のうちの61%がクラウドサービスを使っていた。残る39%の大半は当面のところ関心を示しておらず、この少数派の80%は少なくともあと1年はクラウドを利用する計画はないと答え、45%は全く計画していないと回答した。
クラウドサービスの導入予定はないとした回答者のうち、38%は現在のIT投資で十分だと答え、24%はクラウドに移行するほどのメリットはないと回答、18%は社内の仮想化で十分だとしている。さらに、クラウドのセキュリティが不十分であるとの認識を示した回答者も36%に上り、33%はクラウドを適切にコントロールできないことを懸念材料として挙げた。
クラウドの概念全般に幻滅したITプロフェッショナルもいる。米Severstal North AmericaのITインフラ部門に所属するエリック・キルゴア氏は言う。「宣伝担当者があまりにも連発するようになったので、『クラウド』という言葉にはもう食傷気味だ。私は単にこれを、物理ハードウェア上で実行される仮想インフラと見なしている。1日が終わってみれば、ソフトウェアを実行している単なるコンピュータ群にすぎない」
一方で、クラウドに切り替えたITプロフェッショナルは、クラウドと社内での仮想インフラ運営の間には、重大な違いがあると力説する。「疑って掛かると、容易にスケールアップとコスト削減ができる機会を逸する」と話すのは、クラウドのコンサルティングとシステムインテグレーションを手掛ける米2nd Watchの最高経営責任者(CEO)、クリス・ブライズナー氏。
「(クラウドの)アジリティ(俊敏性)は、人々に違った市場を作り出す。世界的なインフラが明日必要になったとしても、それを持つことが可能だ」(ブライズナー氏)
他にもクラウドのメリットとして、小売り事業者向けソーシャルマーケティングソフトウェア開発を手掛ける米Brickfishのマイケル・マラーキーCEOは、セキュリティと冗長性の強化、コストの柔軟性の向上を挙げる。同社は1年ほど前に、マネージドサービスからIaaS(Infrastructure as a Service)に切り替えた。
「われわれが使っているNaviSiteシステムは、受信するトラフィックが増大すると、自動的にクラウドサーバを追加してくれる。翌日それが収まると、再び元のレートに戻る」とマラーキー氏は話す。
「企業がクラウドのアジリティを活用しなければ、ビジネスチャンスを逃しかねない」と同氏は言い添えた。Brickfishの金融業界の顧客から、別の顧客とデータを切り離すよう要望された際も、わずか数時間で実働環境を新しいクラウドに複製することができたとマラーキー氏。「これほどの短時間で実働環境を複製できるのだから、従来のモデルでは逃していたであろうチャンスもつかむことができた」と振り返る。
ウルフ氏によると、クラウドは過剰なソフトウェアやコンピューティング処理能力を削減する一助ともなり、中央の1カ所にデータを置けば、コラボレーションの効率化も図ることができる。
依然として懸念は存在するが、現時点でセキュリティとコンプライアンスは顧客を惑わす要素にすぎないとブライズナー氏は言う。2nd Watchの顧客の中にはHIPAA(医療保険の相互運用性と説明責任に関する法令)、PCI(クレジットカード情報のセキュリティ向上のための標準)、ITAR(国際武器取引規則)の規制対象となるアプリケーションをAmazon Web Services(AWS)で運営しているところもあるという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
契約業務の効率化やコストの削減といった効果が期待できることから、多くの企業で「電子署名」の導入が進んでいる。一方で、訴訟問題へと発展した際に証拠として使えるのかといった疑問を抱き、導入を踏みとどまるケースもあるようだ。
半導体ベンダーBroadcomは仮想化ベンダーVMwareを買収してから、VMware製品の永久ライセンスを廃止した。その永久ライセンスを継続する非公認の方法とは。
クラウドファーストの流れが加速する中、無計画に構築されたハイブリッドクラウドの弊害が多くの企業を悩ませている。ITオペレーションの最適化を図るためには、次世代のハイブリッドクラウドへのモダン化を進めることが有効だ。
ワークロードを最適な環境に配置できる手法として注目され、多くの企業が採用しているハイブリッドクラウド。しかし、パフォーマンス、法令順守、コストなどが課題となり、ハイブリッドクラウド環境の最適化を難しくしている。
システム基盤をオンプレミスで運用するか、データセンターやクラウドで運用するかは、業種によって大きく異なる。調査結果を基に、活用の実態を探るとともに、最適なクラウドサービスを考察する。
お知らせ
米国TechTarget Inc.とInforma Techデジタル事業が業務提携したことが発表されました。TechTargetジャパンは従来どおり、アイティメディア(株)が運営を継続します。これからも日本企業のIT選定に役立つ情報を提供してまいります。
「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。
「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...
Cookieを超える「マルチリターゲティング」 広告効果に及ぼす影響は?
Cookieレスの課題解決の鍵となる「マルチリターゲティング」を題材に、AI技術によるROI向...