Windows 8について「発売後1カ月で4000万本を販売した」と発表したMicrosoft。今あらためて、“企業におけるWindows 8の価値”を聞く。
米Microsoftは2012年11月、「Windows 8を発売して1カ月で4000万本という記録的な販売本数を記録した」と発表した。しかし、その内訳は公表されておらず、企業への販売実績を正確に知ることは難しい。そこで米TechTargetはMicrosoftのワールドワイドWindowsマーケティングチームのマーケティングディレクター、ピーター・ウイテンボハルド氏にインタビュー。「Windows 8への移行を検討すべきユーザーと、見送るべきユーザー」について聞き、企業におけるWindows 8の価値を探った。
―― 企業のエンドユーザーやIT部門にとって、Windows 8では可能でWindows 7では実現できないことは何でしょうか?
ウイテンボハルド氏 3週間ほど前に日本に出張した際、車で移動中にラジオからある歌が流れてきました。私は何も考えずにスマートフォンを取り出し、Microsoftの検索サービス「Bing」の音声検索機能を使ってその歌を検索し、その場で購入し、帰りの飛行機の中で聴きました。これは5〜6年前には想像もできなかったことです。私たちがテクノロジーを利用する手段は急激に変化しています。このようなコンシューマライゼーションのトレンドは、エンタープライズ市場におけるWindows 8の位置付けにとって非常に重要です。
エンタープライズ分野では、エンドユーザーが期待する機能、つまり一般のユーザーが喜ぶコンシューマー向けの機能と、IT管理者が必要とする機能の両方が求められます。そこで、この両方を製品として実現することがWindows 8の重要な戦略となったわけです。PCを会社のネットワークに接続しているときも、自宅で妻のPCを使うときも、Windows 8ならビジネスとプライベート、両方の作業を難なくこなすことができます。Windows 8では、アプリケーションをいちいち閉じる必要もありません(※)。
※Windows 8ではアプリケーションが使用されていない間、そのアプリケーションをバックグラウンドで動作させておき、しばらく使用されなかった場合、自動的にアプリを閉じる仕様となっているため。
Windows 8を搭載したタブレットは情報消費型のエクスペリエンスだけでなく、その気になれば生産性を高める目的でも大いに活用できます。Windows 8はタブレットが持つ利便性と、PCが持つ生産性、管理性、セキュリティを兼ね備えているからです。企業こそWindows 8タブレットが本当に威力を発揮する場です。
―― しかしこれまでのところ、Windows RT版のSurfaceの導入に強い難色を示している企業が多いようです。グループポリシーやドメインへの参加がサポートされていないなど、IT担当者が信頼していた従来の管理機能がないことが理由です。
ウイテンボハルド氏 ええ、そうですね。でもそれは状況によります。多くの企業ユーザーと話してきた私の経験からすると、セキュリティや管理が最も重要だと考える場合は、Intelのx86プロセッサを搭載したWindows 8版Surfaceを選ぶ傾向にあり、軽量でバッテリーの持ちが最も重要と考える場合、Windows RT版Surfaceを検討するようです。ただし、Windows 7のアプリケーションを使う必要がある場合は、現時点ではWindows 8版を選ぶ必要がありますが。
―― IT部門をWindows 7からWindows 8へのアップグレードに突き動かす機能としては何があるでしょうか。IT担当者はかなり保守的で、Windows 7へのアップグレードでさえ、最近になってようやく完了したというケースも珍しくありませんが。
ウイテンボハルド氏 Windows 8にはWindows 7では得られない価値があると思います。しかし、Windows 7に移行したばかりのユーザーがインフラ全体をWindows 8にアップグレードすることは弊社も期待していません。現在Windows 7の導入を進めているのであれば、そのままWindows 7の導入を続けるべきでしょう。Windows 7で全く問題がなければ、ハードウェアも含めた現時点での全面的なアップグレードは見送る方がよいと思います。現在、Windows XPを使用しているのであれば、Windows 7を飛ばしてWindows 8に移行することをお勧めします。
既にWindows 7の導入が済んでいる企業では、Windows 8環境をUSBメモリに入れて携帯できるWindows To Goや、モバイルでの生産性向上、強化されたセキュリティ機能など、Windows 8で得られるメリットに基づいた使用シナリオを具体的に検討している段階だと思います。その他、IT担当者が特に興味を持っているのは仮想化とその管理機能でしょう。仮想化セッションが10ポイントマルチタッチに対応していれば、タブレットを使ってデスクトップ仮想化環境でWindows 8を実行することもできます。
―― タッチ操作対応機能に限らず、いずれは従来のデスクトップPCなどに取って代わる、IT部門が考えている以上のテクノロジーが登場するように思えるのですが。
ウイテンボハルド氏 何が支持されるのかは時間がたてば分かることです。Windows 8はキーボードとマウスでも快適に使えます。タッチ操作はキーボードとマウスのエクスペリエンスの幅を広げているだけです。ユーザーも実際にはタッチ操作だけでWindows 8を利用するわけではないでしょう。ノートPCやデスクトップPCで、キーボードとマウスを使って利用することを考えていると思います。ただ、モバイルでの生産性を重視するなら、軽量のフォームファクターとタッチ操作対応機能も注目されるということです。
例えば、大手通信事業者の英BT Groupではフィールドエンジニアの現状を分析した上で、タッチ操作対応機能も含めて、Windows 8には数多くのメリットがあると判断し、4000台ある全てのWindows 7搭載PCを、ソフトウェアだけでなくハードウェアを含めて全面的にWindows 8にアップグレードすることを決定しました。このようなケースもあるのです。
―― となると、今後はx86ベースのノートPCやデスクトップPCのユーザーが、タッチ操作対応端末にリプレースする大きな動きがあるとお考えですか。
ウイテンボハルド氏 今後はタッチ操作対応のノートPCや、「モダンタッチパッド」と呼ばれる大型タッチパッドなどの市場が活性化し、Windowsプラットフォームのエコシステムは完全にタッチ対応に進化するでしょうから、いずれはそうなると思います。しかしパフォーマンスをはじめ、セキュリティ、管理、仮想化、Windows To Go機能など、Windows 8の魅力はタッチ操作対応機能だけにとどまりません。タッチ操作対応でない従来のデスクトップPCやノートPCでも、Windows 8へのアップグレードが望ましいシナリオがありますから、今後は多くの企業ユーザーがWindows 8への移行に乗り出すと思います。
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