大学によるスタートアップ企業への資金提供と知財の商用化はどうあるべきか。英国の大学の問題点と米国の大学の成功要因とは何か。
ケンブリッジ大学のコンピュータラボ所長で起業家でもあるアンディ・ホッパー氏は、英国の大学はスタートアップに資金を提供し、知的財産を商用化する方法を見直す必要があると考えている。
ケンブリッジ大コンピュータラボは、2013年4月に設立75周年を迎えた歴史あるラボで、世界初のコンピュータの1つ「EDSAC」誕生の場でもある。また、スタートアップの支援にも積極的で、成功実績は200社を超える。
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英Acorn Computersの設立を支援したホッパー氏は、英国の大学によるスタートアップへの資金提供形態は変わる必要があると話す。
ホッパー氏の意見では、EDSACは正真正銘のスタートアップだった。「エンジニアリングは、絶望的に思えるほど困難だった。潜在的ユーザーにとってその用途は定かではなく、マネジメント、つまり大学側も、その用途は検討もつかなかった」とホッパー氏は説明する。「しかし、EDSAC以来、ここでは応用研究が盛んだ。技術的なイノベーションがコンピューティングの未来になる」
コンピュータラボがあるウィリアム・ゲイツ館の1階には、あるパネルが掲げられている。そこには、ラボが支援した200社を超える成功したスタートアップ企業の名前が並び、ラボ自らの実績をたたえるモニュメントの役割を果たしている。
ホッパー氏によると、イノベーションを促進し、企業家精神を養うために英国の大学システムが取り組む必要がある課題は3つあるという。
1つは、知的財産(IP)を今よりも利用しやすくすることだ。現在は、大学がIPでもうけを出そうとするために、教育機関発のスタートアップは足踏みを余儀なくされる可能性がある。
「これは問題といえるが、現状は、大学は自分たちにもうけが出ると考えられるマージンを見込んで、高額なライセンス料を要求する傾向がある」とホッパー氏は明かす。
このようなアプローチは、大学からの資金提供を模索したり、潜在的な価値がある研究のライセンスを得ようとする大勢の人々の気持ちをくじくことになっている。そこでホッパー氏は次のように話す。「知的財産は使われなければ意味がない。私が仲間と提案しているのは、“数で攻める”アプローチだ。できるだけ多くの企業に参加してもらい、各企業に少額の株式を購入してもらう。この株式は、自由に譲渡できず、定款に従う必要がある。
ホッパー氏の意見では、大学がスタートアップの株式の75%を保有するのではなく、大学からの出資は1%前後にすべきだという。
「IPライセンスを出し惜しみ(してもうけようと)するよりも、成功を収めたスタートアップから善意の寄付を受け取るようになった方が、ラボは潤うだろう」(ホッパー氏)
ホッパー氏が考える2つ目の課題は、大学の評価方法だ。この評価によって、政府からの補助金とイノベーションのCOE(センターオブエクセレンス、世界的研究拠点)としての世界ランキングが決まる。
現行のシステムでは、大学は研究の広さと深さでしか評価されず、大学が支援し、成功を収めたスタートアップの数は考慮されない。
ホッパー氏によると、低価格の教育用コンピュータ「Raspberry Pi」を発明したケンブリッジ大コンピュータラボの実績は、英国研究者の業績を判断するResearch Excellence Framework(研究評価フレームワーク)によって認められていないという。
3つ目の課題は、実業界と学究界間の境界だ。全ての研究者は白衣に身を包み、ビジネスのことは何も知らないというステレオタイプは完全に間違いであり、「学究の世界でのキャリアアップには、実業界での経験も考慮されるべきだ」とホッパー氏は主張する。
大学は頭を柔らかくし、学究者がリスクを取りやすくなる土壌を整える必要があることをホッパー氏は示唆する。「米国で最も成功を収めているスタートアップの幾つかは、大学の教員で大学を辞めた人間が起業したものだ。しかし、事業が失敗したら、彼らは大学に戻ることができる。その点は英国と非常に異なっている。外の世界に飛び出して(スタートアップを設立し)、研究発表の実績がなくなったら、それでゲームオーバーだ」
ケンブリッジのスタートアップの成功に倣おうと取り組みが進められている、ロンドンのTech Cityとは持ちつ持たれつの関係になるとホッパー氏は言う。
「Googleの新しい英国本社がキングスクロスにあるのは偶然ではない」そう話すホッパー氏は、ケンブリッジからロンドンのキングスクロスまでの45分間の鉄道路線をラボ回廊(Lab Corridor)と呼び、この“回廊”が持つ極めて大きな意味を認識している。
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