識者が語る「ERP製品選択の目」:アイ・ティ・アール 藤巻信之氏
企業のERP投資が拡大、お金が向かうのは?
大企業、中堅企業を中心にERPへの投資が好調だ。「アベノミクス」と呼ばれる経済政策の恩恵を受けるとみられる輸出型の企業を中心にERPのグローバル案件が増えている。ERP投資はどう進むのか。識者に聞いた。
大企業のERP投資が戻ってきたようだ。アイ・ティ・アール(ITR)が4月25日に公表した国内ERP市場の調査結果によると、大企業向けERP市場(8社の製品が対象)は2011年度に前年度比8.4%の増加、2012年度は9.2%の増加が見込まれる。大企業は何を期待してERPへの投資を再開したのか。ITRのシニア・アナリスト 藤巻信之氏に聞いた。
国内ERP市場全体では2011年度に前年度比5.4%増と堅調な伸びだった。2012年度は、さらに市場が拡大し、7.4%の成長を見込んでいる。この成長をけん引するのは大企業向けのERPだ。藤巻氏によると、大企業向けERPでは輸出型企業を中心とするERPのグローバル展開に伴う基幹システムのアップグレードやリプレースが発生。ERPベンダーの売上高を押し上げた。特に好調だったのは幾つかの大型案件を獲得したSAPだった。
Oracle E-Business SuiteやPeopleSoft、JD Edwardsなど複数のERPを展開するオラクルも堅調だったが、同社で注目すべきは次世代ERPと位置付ける「Oracle Fusion Applications」の動向だ(参考記事:“作らないERP”を目指す「Oracle Fusion Apps」、その提供モデルは?)。パッケージの他にSaaSなどでも展開するERPで、藤巻氏は「斬新なアーキテクチャだ」と評価する。ただ、基幹システムのライフサイクルは5~20年と長く、新製品に飛びつく顧客は多くない。「導入はゆっくり進み、数年かけて拡大していくのではないか」と藤巻氏は話した。
中堅企業向けERP市場(46社の製品が対象)は2011年度、2.6%増と低迷した。主要製品のバージョンアップが進まなかったのが響いた。だが、2012年度は大企業と同様に景気回復に伴い、9.4%の伸びを予測する。中小企業向けERP市場(6社の製品が対象)は2011年度、8.1%増と好調だった。2012年度も横ばいで推移するとITRはみている(参考記事:会員調査で分かった中堅・中小企業が「ERPを導入してこなかった理由」)。
期待できる生産管理モジュール
企業規模とは別に、ERPをモジュールの市場動向を見ると別の風景が浮かび上がる。国内ERP市場のうち、会計モジュールが占める割合は約4割、人事・給与が3割、販売が2割、生産管理が1割。この割合は長く変わっていない。ERPが企業間や業種間で違いの少ない会計、人事・給与業務で広く使われていることが分かる。
一方、会計や人事・給与業務へのERP適用は多くの企業で行われていて、ベンダーにとっては成長する余地が少ないのが現状だ。ITRの調査によると2011年度から2016年度までの年平均成長率(CAGR)は会計6.4%、人事・給与6.0%にとどまっている。
対して成長を期待できるのが生産管理や販売管理などこれまでERPがそれほど適用されていなかったエリアだ。特に企業のグローバル化に伴い、海外の工場などに生産管理モジュールを導入する案件が増加。ITRは生産管理のCAGRを7.6%、販売管理を7.8%と予測している(参考記事:読めば分かる! ERPの生産管理・在庫管理)。
グローバル展開の進展で連結会計パッケージや経営パフォーマンス管理のパッケージも好調だ。子会社の増加に伴って連結決算や管理会計の処理が複雑化し、新規でパッケージを導入したり、アップグレードする企業が増えた。ITRによると連結会計(7社の製品が対象)は2011年度に16.9%増加した。ただ、2012年度はSAPの不調で横ばいとITRは予測している。グローバルで予算や業績の管理を行う経営パフォーマンス管理(5社の製品が対象)は2011年度に10.9%の増加。2012年度は13.9%増とさらに拡大するとしている。
基幹システムのクラウド展開は?
グローバル展開への対応を同時にERPで話題になっているのが、ERPをクラウド上で動かす「ERP on Cloud」だ。特に注目されるのがITインフラを柔軟に調達でき、従量課金で利用できるIaaS上でのERP構築。「SAP ERP」やワークスアプリケーションズの「COMPANYシリーズ」などを「Amazon Web Services」で動かす事例が出てきている。ただ、藤巻氏は「基幹システムをクラウドで稼働させることに多くの企業はまだ慎重」と述べる。「止まってはいけないミッションクリティカルなアプリケーションではクラウドはまだ活用されていない」
クラウドへの展開が期待できるのは人事・給与のERPモジュールだ。人事・給与業務は従来、処理をアウトソーシングする企業が多く、業務を他社に任せることに慣れている。そのためクラウド上にデータを置き、処理をすることにも企業の抵抗が少ないと藤巻氏はみる。人員が豊富な大企業よりも中堅企業や中小企業での利用が見込まれるという。
実際、人事系のソリューションではタレントマネジメントシステムなどSaaSで提供されるソリューションの利用が増えている。藤巻氏は基幹システムのクラウド展開についても「絶対にダメという意識は薄らいでいる」と指摘する。
ERP市場全体を見て藤巻氏は「ユーザーが賢くなってきた」と話す。ITシステムや経営のその時々の流行やトレンドに左右されることなく、目的を明確にしてITシステムの整備を計画通りに進める企業が増えてきたのだ。経験やノウハウを蓄積したユーザー企業が次に投資をするのはどの分野か。ERPベンダーは知恵を絞っている。
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