【コスト分析】事例が示す中堅・中小向けERPの最適コスト構造ERP導入コストが増大する要因とは?

多数の製品が市場にある中堅・中小企業向けのERPパッケージ。導入に掛かる費用もさまざまだ。事例を基にERP初期導入費用のコスト構造を分析する。

2012年11月29日 08時00分 公開
[浅利浩一,アイ・ティ・アール]

 第1回の「【コスト分析】ERP初期導入時の標準的なコスト割合とは?」、第2回「【コスト分析】SAP、Oracleの見積もり事例から分かる最適導入コスト」に続いて、中堅企業向けERP、中小企業向けERPの実際の見積もり事例をベースに、2つのコストモデルを紹介する。

年商300億円企業の販売、購買、生産、会計の導入コスト

 最初に紹介する事例企業はプロセス製造業で、売り上げ規模は300億円程度。RFPによるERP選定の対象となった業務分野は、販売、購買、生産、会計。人事・給与は既にパッケージが導入されており含んでいなかった。一方、システムの導入範囲としてグループ企業の販社と物流会社が含まれていた。そのため受注出荷処理では販社と物流会社側システムとの連携が必須。だが、これらの会社間における取引のインタフェース構築は、最終的に選定対象とした3製品「FlexProcess」「MCFrame」「OBIC7」の標準機能だけでは要件を十分に満たすことができなかった。このため会社間取引は追加開発の対象とすることが想定されていた。

 システムのユーザー数は同時ログイン150人、同時アクセス50人とRFPで指定されていた。会社間取引の処理において、高い頻度でシステムを利用することを想定。導入範囲に海外は含まれておらず、構築期間は1年半が前提条件となっていた。下記に3製品のコストモデルを提示する(表1)。第1回で算出した、国内で市場性のあるERPパッケージから抽出した製品の中央値ベースのライセンス比を参考のために併記した。

コスト内訳 FlexProcess MCFrame OBIC7 (参考)
中央値のライセンス比
ライセンス 1 1 1 1
ハードウェア 1.1 1.0 0.7 0.5
サービス(追加開発含まず) 9.8 3.4 3.1 2.4
サービス(追加開発含む) 14.6 6.2 6.8
表1。販売、購買、生産、会計の初期導入費用の構成比(出典:ITR)

 第2回の大企業向けERPのコストモデルライセンスでは、ライセンスに対するハードウェア比が中央値と同じく0.5程度であったが、このケースでは全体的にハードウェア比が高くなっているのが特徴である。その理由として、受注出荷処理における販社と物流会社側システムとの連携などによって、同時ログインと同時アクセスのユーザー数が多かったことが挙げられる。第1回でシステムの性能要件が厳しいプロジェクトでは、ハードウェアの割合が高くなることもあると述べたが、このケースはその例に当たる。大企業だけでなく中堅企業のシステムでも、RFPで非機能要件を適切に洗い出して、的確なハードウェアの見積もりにつなげることが重要である。

 追加開発やカスタマイズを除外したサービスの割合が3を超えているのも、グループ企業を含む複数システム間の連携が必要であったことが要因として考えられる。また、会社間の受発注処理を中心に、100機能程度の追加開発、50機能程度のカスタマイズが想定されていたため、ライセンス対サービス(追加開発含む)比も高めとなっている。

 このケースでは各製品における割合のバラつき度合いも比較的高い。第1回では、「ITR Market View:ERP市場」における平均的導入費用の分析結果から、製品のタイプによってはライセンス対サービス比が8以上になる場合もあると述べた。このケースにおけるNECの「FlexProcess」のサービス費用が、その一例といえるだろう。

 この案件では、同時アクセス、同時ログインのライセンス体系や構築手法などが製品によりかなり異なっていたこともあり、初回の提案ではやや金額の幅が大きくなった。だが最終的な調整の結果、提案金額自体は最大と最小で1.3倍程度の幅に収まり、数億円の規模であった。

基幹系を一括刷新した組立製造業のコストモデル

 それでは次に、売り上げ規模50億円の組立製造業による、基幹系システムの一括導入に関するコストモデルを確認してみよう(表2)。登録ユーザー数は100人強であったが、個別受注生産型の企業であることなどから、全社員の過半数が頻繁に設計仕様の確認を行う必要があった。また、顧客ごと、工程ごとの確認処理が頻発すると予想された。そのため同時アクセスのユーザー数として80人程度を確保できることがRFPで挙げられていたのが特徴だ。構築期間は1年半で、販売、購買、生産を先に稼働させ、会計をその後に稼働させる段階導入方式を選択した。

コスト内訳 OBIC7 SCAW TENSUITE (参考)
中央値のライセンス比
ライセンス 1 1 1 1
ハードウェア 1.1 1.1 0.8 0.5
サービス(追加開発含まず) 1.2 2.8 1.3 2.4
サービス(追加開発含む) 1.9 4.8 1.7
表2。販売、購買、生産、会計の初期導入費用の構成比(出典:ITR)

 表1と同様に、ライセンス対ハードウェア比が高いのは、同時アクセスのユーザー数が多いことと、現場作業の拠点が複数の遠隔地にあるためにデスクトップ仮想化を導入する予定で、そのミドルウェア費用をハードウェアに含めていたことが要因と考えられる。このような対応があり、0.5程度の割合となったことを述べておく。

 ライセンス対サービス比は、基幹系システムの一括導入であるにしては低めの割合となっている。これは、システムの構築ポリシーとして「作業改善ではなく業務改革」を徹底したこともあり、追加開発を20機能程度、カスタマイズを10機能程度に絞ったことが要因だ。仮に現場で利用される作業指示や帳票、顧客仕様ごとの機能を現状のまま全て開発していたら、中央値のライセンス対サービス比を超えて大きな数値になっていたのではないかと想定される。

 このケースでも、製品によりコストモデルにバラつきが見られるが、同時アクセスのライセンス体系や、デスクトップ仮想化の実現手段、追加開発の方向性が製品により異なっていたことがその理由だ。ただし、実際の提案段階での金額は数千万円で、製品によって大きな差がなかったことを付け加えておく。

適切なコストコントロールを可能に

 第1回では、ITRが実施している製品/市場調査の結果から平均的導入費用をベースとするコストモデルを紹介し、第2回と今回で実際の選定案件に基づく個別製品でのコストモデルを確認いただいた。ERPパッケージに関して、ライセンス費用からマクロにコストモデルを検討するメリットが理解いただけたのではないかと思う。また、よく話題となる追加開発やカスタマイズ費用についても、要求機能数がどの程度ライセンス対サービス比に反映するのかを、ある程度把握できたのではないだろうか。

 各製品のラインセス体系や、提案時の戦略的な値引きなどによっても、ライセンス比の比率に幅も出てくる。また、システムの導入範囲にグループ企業やネットワーク性能が厳しい遠隔拠点が含まれる場合なども、中央値ベースを超える比率となる場合もある。このような特性を加味しつつ、選定対象となる製品の特徴を十分に理解してコストモデルを利用すれば、基幹システム構築の企画段階から、費用を適切にコントロールして、システム化の構想を進めていくことができる。

浅利浩一(あさり こういち)

株式会社アイ・ティ・アール プリンシパル・アナリスト

国内製造業で、生産、販売、調達、物流、会計、人事・給与、製造現場/工程システムなど、エンタープライズ全領域のアプリケーション構築に携わる。SAPの設計・展開では、国内グループ企業向け共通システム、グローバル・システムの構築に携わるなど、幅広い業務分野での導入経験を持つ。2002年より現職。

現在は、ERPを中核としたエンタープライズ・アプリケーション全般、SCM、PLMを担当し、可視化からシステム化構想、製品選定、概要設計および導入支援などのプロジェクトを数多く手掛けている。また、グループ/グローバルにおけるシステムの設計・構築・展開などのコンサルティングに取り組んでいる。


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