英省庁主導のITプロジェクトでアジャイル開発が失敗した理由疑惑の残る失敗事例

英国労働・年金省(DWP)が新給付制度のITプロジェクトでアジャイルソフトウェア開発を中止した原因は、DWPにその気がなかったからか、DWPの体制がアジャイル向きではなかったためか?

2013年08月29日 08時00分 公開
[Mark Ballard,Computer Weekly]
Computer Weekly

 英連立政権が掲げる公共部門のIT改革計画の中心になるのが、アジャイルソフトウェア開発だ。同政権が打ち出した20億ポンドの福祉改革プログラムの目玉「Universal Credit」(訳注)のITシステム開発プロジェクトは、それを証明するはずだった。

訳注:Universal Creditは、英国の低所得層向けの新給付制度(参考:http://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2010_12/england_01.htm

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 しかし、労働・年金省(Department for Work and Pensions、DWP)は、Universal Creditプロジェクトの全てのアジャイル開発を凍結した。

 アジャイル開発のエキスパートは、問題はDWPにあると口をそろえる。彼らによると、Universal Creditのプロジェクトは、はなからアジャイル開発と呼べるものではなく、そのために頓挫したという。

 Universal Creditの元主席アジャイルコンサルタントの1人(匿名希望)は、このプログラムは起点が間違っていたと話す。「根本的な問題はプロキュアメント(調達)にあった。プロキュアメントのせいで、われわれは手出しができなかった。契約が適切に準備されなければ、成功の見込みはゼロだ」

 Universal Creditプロジェクトはアジャイル開発にはなり得なかったと、この人物は話す。原因は、米HP、アイルランドAccenture、仏Capgemini、米IBMなど、このプログラムの主なサプライヤーとのDWPの12億ポンドに上る契約の仕方にあるという。

 政府は、ウォーターフォールITプロジェクトモデルの是正措置として、アジャイル手法を提案していた。ウォーターフォールモデルは、公共部門のITプロジェクトで繰り返し発生する問題の元凶とされていたからだ。

 内閣府とDWPは、Universal Creditプロジェクトにアジャイル手法を適用することを発表した。しかし、この7年間にわたるプロジェクトで実現する機能を最初から規定している契約が使われていたと、先のコンサルタントは明かす。そのためにUniversal Creditプロジェクトは、事実上ウォーターフォールモデルの契約になった。

 ウォーターフォール開発は、10年規模の数十億ポンドのプロジェクトに利用されてきた。この種類のプロジェクトは、複数のシステムインテグレーターに発注され、プロジェクトの最初に最終的な成果物についての複雑な要件が詳細に決められた。ソフトウェア開発は世情に合わせて変化を取り込んでいく必要があるため、当初の契約を変更することは避けられない。システムインテグレーターはこの変更処理に法外な報酬を請求するといわれていた。

 Universal Creditプロジェクトがアジャイル開発だった場合は、スケジュールとコストは変更なしで、機能を柔軟に変更する形になっていたとこのコンサルタントは話す。「Universal Creditプロジェクトは、最初から間違っていた。政府はプロキュアメントの仕方を考え直す必要がある。政府がプロキュアメントを変更しない限り、適切にアジャイル開発を行おうとするベンダーにとって、状況は非常に不利だ。アジャイルと銘打っても、契約を適切に策定しなければアジャイルにはならない」

Universal Creditプロジェクトのベンダー選定

 当時のプログラムディレクター、マルコム・ホワイトハウス氏によると、Universal Creditをアジャイルプロジェクトにすべく取り組んでいた2011年6月には、英BT、HP、AccentureとDWPとの契約交渉は既に完了していたという。これらの主要ベンダーは、現連立政権が樹立される以前の2009年に始まった、アプリケーションの開発・機能強化に関する4億ポンドのプロキュアメントプロジェクトにおいて選定されていた。

 3〜6カ月後、DWPは、Accenture、HP、IBM、Capgeminiとアプリケーション開発契約を結んだ。この4社が、12億1000万ポンドのアプリケーション開発サービス契約の下で、Universal Creditプロジェクトの一次請けベンダーになる予定だった。

 ただしDWPは、アジャイル手法でUniversal Creditプロジェクトの開発を行うように、この4社の大手システムインテグレーターに、小規模な専門ベンダーの登用を義務付けると主張した。

 しかし本誌は、2010年以来のUniversal Creditプロジェクトの発注先24社のうち、中堅・小規模企業はわずか3社であることを突き止めた。ある情報開示請求によると、Universal Creditプロジェクトのベンダーのほとんど(20社)は、単独で年間売上高が数十億ドルや数億ドルの企業だった。

 小規模ベンダーといえるのは、ローカリゼーションサービスを提供するある企業、リスク管理のコンサルティングを提供する英Lucidus Consulting、Universal Creditのシステムインテグレーターにトレーニングを提供するためにDWPが採用したアジャイル開発コンサルティング企業の英Emergnの3社のみだった。

アジャイル開発を遂行できず

 英Agile Delivery Network(ADN)のディレクター、ポール・ウィルソン氏によると、DWPは小規模なアジャイルソフトウェア開発ベンダーに発注するはずの契約を実際に発注していないという。

続きはComputer Weekly日本語版 2013年8月21日号にて

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