アカデミー視覚効果賞を受賞した『ゼロ・グラビティ』の映像特殊効果を担当したFramestore。そのCTOマクファーソン氏は、膨大なレンダリングジョブを処理するインフラをいかに構築したのか?
スティーブ・マクファーソン氏は、英ロンドンを拠点とする映像特殊効果スタジオFramestoreのCTO(最高技術責任者)だ。このスタジオが制作した映像は、多くの映画や広告で使用されている。例えば米英合作の2013年の映画『ゼロ・グラビティ』(原題:Gravity)の特殊効果、ロンドンの多目的ホールO2の施設内で流れている生理用品「Simplicity」のCM映像、ロンドン証券取引所の「Stellar Atrium」プロジェクトなどを手掛けている。
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映像のレンダリングを実行している大規模サーバファームは、この特殊効果スタジオの原動力だ。
マクファーソン氏には、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)の利用経験がある。1980年代半ば、現在のスーパーコンピュータの祖先に当たる「Cray」を使っていた。「Crayが華々しかったころにこれを操作していたと人に話すと、私の歳が分かってしまう」とマクファーソン氏は笑う。
Crayの時代にマクファーソン氏がアクセスしていたコンピューティングリソースは、当時としては驚異的なものだったが、「あの程度の演算能力は、今では全くお話にならない」と同氏は話す。
マクファーソン氏にとって、今のスマートフォンにかつての「Cray-1」並みの演算能力があることは特に気にならないという。同社が注目しているのは、HPC環境の管理のしやすさだと同氏は指摘する。
「シミュレーションの問題を解決するために1万コアのコンピューティング環境を手に入れることができるか?」と同氏は疑問を投げかける。「入手できる限りのあらゆるリソースを使っても48時間かかるタスクを引き受けて、12時間あるいは8時間で終わらせることができるだろうか?」
これこそまさに、マクファーソン氏がFramestoreに入社した2010年に直面した課題だった。そのとき同氏が達成すべき目標は単純明快で、『ゼロ・グラビティ』の特殊効果のレンダリングをサポートするインフラを提供することだった。この映画は2013年のアカデミー視覚効果賞に輝いた。
Framestoreにとって重要なアプリケーションは、オンプレミスのレンダーファームだ。クリエイターチームは、レンダリングを実行するキューにジョブを送信する。キューの接続先は、Framestoreが独自開発した「fQ」というソフトウェアだ。「ハードウェア稼働率96%の状態でfQを実行するのは、われわれにとって珍しいことではない。fQは与えたリソースを何でも取り込んで細分化し、各リソースに適した作業を配置する。fQを当社のローカルのレンダリングエンジンと連係させると、ローカルのシステムはずっとフル稼働状態になる」(マクファーソン氏)
マクファーソン氏はFramestoreで、レンダリングキューにたまる作業の山をさばく役目を受け持っている。また、オンプレミスのレンダーファームと並行して、同社は米Googleのパブリッククラウド「Google Compute Engine」へワークロードの一部をオフロードすることの実現可能性を検討してきたと同氏は明かす。
「並行処理の実現は、莫大(ばくだい)なリソースを最適化したことの成果だ」とマクファーソン氏は付け加える。「私がCrayの操作を始めたころは、デュアルコアまたはクアッドコアの対称型マルチプロセッシング環境で並行処理するだけでも、エンジニアリングの領域では大きな課題といわれたものだった」
「ハードウェアの問題が解決したら、次はソフトウェアの問題に対処するためのエンジニアリングが必要だった。並行処理のアーキテクチャ向けにアプリケーションのコードに手を加える必要があった」と、同氏は当時を振り返る。「スケーリングもHPCのトレンドの1つだが、主流は並行処理アーキテクチャをいかに効率良く利用するかだ。これにはコンパイラのテクノロジー、効率の良いコードを書く能力、担当中の作業の性質を深く理解することが含まれる」
CTOの職務について、マクファーソン氏は次のように語る。「私のところには、毎週のように厄介な問題が持ち込まれる。私の役割は、当事者がパニックになって冷静さを失うのを防ぐことだ。やるべき仕事はたくさんある。予算の管理、適切な人材の確保、問題解決の際には常に開拓者精神で臨むこと、そして同時に制作者チームのリーダーとしてCEOを満足させることだ」
そうした問題への対処法を彼に尋ねた。
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