「AIセキュリティ」の光と影【後編】
「AIセキュリティ製品は万能ではない」理由と、使いこなすためのヒント
AI(人工知能)技術を使ったセキュリティ製品は将来性がある一方で、安易に利用するとリスクが生じる。AIセキュリティ製品が抱える問題と、利用時に知っておくべきことは何か。
前編「保険ブローカー企業が『AIセキュリティ』製品を導入 『Emotet』を即座に検出」では、深層学習(ディープラーニング)をはじめとするAI(人工知能)技術を活用したセキュリティツールについて、セキュリティのスタートアップ(創業間もない企業)Blue Hexagonの製品を例に紹介した。後編では、セキュリティ分野でAI技術が抱える課題を解説する。
機械学習は魔法の技術ではない
「深層学習が興味深い機械学習の手法であることは間違いない。さまざまなセキュリティ用途に使用できるだろう」。そう語るのは、調査会社Gartnerのアナリストであるオーガスト・バロス氏だ。だが「セキュリティ分野において、深層学習ができることよりもできないことを理解することが重要だ」と同氏は話す。
深層学習を含む機械学習エンジンを使ったセキュリティ製品は、未知のマルウェアであっても、一般的な既知の特徴を持っていれば検出できる。マルウェアの特定に使用する要素を割り出すのに、機械学習は非常に効果的な技術だ。
機械学習がマルウェアについて学習するには、既知のマルウェアの特徴と、マルウェアではないものの特徴についての情報を事前に用意しなければならない。「機械学習が魔法のように新しい脅威を特定することはないだろう」とバロス氏は説明する。
シグネチャベースの検出の方が優れている場面も
バロス氏によると、対象がマルウェアかどうかを判断する際「どのファイルの特徴が最も参考になるかを特定するのに深層学習は有用だ」と語る。
エンドポイントの標準ツールを悪用する「ファイルレス攻撃」が出現した時、ファイルを分析する機械学習ベースのセキュリティ製品では、ファイルレス攻撃を検出できなかったとバロス氏は指摘する。検査する場所を誤っていたからだ。「正しい検査場所をセキュリティ製品に伝える仕組みが必要になる」(同氏)
「機械学習ベースの検出は、シグネチャベースの検出よりも処理速度が遅い」とバロス氏は考えている。シグネチャベースでは新たな脅威の検出はできないが、既存の脅威であれば確実に検出する。現に一般的なマルウェア対策ソフトウェアは非常にうまく機能している。機械学習では「どの程度マルウェアらしいか」という確率しか得られない。機械学習のアルゴリズムは「対象に起こった変化が悪いことである確率はX%だ」と結果を出す。こうした確率情報に基づいて行動を起こすのには「リスクが伴い、システムに被害を及ぼす恐れがある」とバロス氏は指摘する。
AIセキュリティの今後
今後も企業LANは複雑になるだろう。「アルゴリズムが善悪を判断できるように学習させることは、顔認証など深層学習の典型的な成功事例よりも確実に困難な道になる」。そう語るのは、Gartnerでアナリストを務めるアントン・チュバキン氏だ。ビジネスにおいて何が正常か、何が正当か、何が許容できるのかを判断する対象は広範囲に渡る。「これをアルゴリズムに学ばせるのは至難の業だ」(チュバキン氏)
マルウェア検出をはじめ、セキュリティ分野において深層学習は成果を挙げている。理由として考えられるのは、アルゴリズムの学習に使用できるソフトウェアやマルウェアに関する豊富なデータの存在だ。
一方で「ネットワークトラフィック分析で深層学習が成功する可能性はずっと低いだろう」とチュバキン氏は見解を示す。同氏によれば、セキュリティ分野において深層学習で成功を収めるには「ラベル付けされた膨大な量のデータ」が必要だという。
マルウェア対策ベンダーは、何年もの歳月をかけてマルウェアのデータを収集している。だがトラフィックに関するデータはどこにあるのか。チュバキン氏が把握している限り、悪意のあるトラフィックのデータを年単位で広範囲にわたって収集している人はいない。そのようなトラフィックを蓄積したリポジトリは、まず存在しない。仮に存在するとしても「多くの場合、トラフィックに悪意があるかどうかは分からない」と同氏は指摘する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
「AIセキュリティ」の光と影
深層学習をはじめとするAI技術をセキュリティ対策に活用する動きが広がっている。だが専門家は、AI技術には限界があると警鐘を鳴らす。先駆的なユーザー企業やベンダーの声を基に、AIセキュリティ製品のメリットと課題をあぶり出す。
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
事例
[フォーティネットジャパン合同会社] 複雑化しがちな「SASE運用」 IT・医療・金融などの事例に見る導入成功の秘訣 -
製品資料
[フォーティネットジャパン合同会社] 「SD-WAN」導入で失敗しないための5つの重要事項 -
技術文書・技術解説
[フォーティネットジャパン合同会社] VPNの代替候補「ZTNA」を理解できるようになる“3大要素”とは? -
事例
[フォーティネットジャパン合同会社] すぐ分かる「SD-WAN」選定のポイント 成功企業はどんな成果を出した? -
製品資料
[SCSK株式会社] 「Dropbox」管理・運用の困りごと解決ガイド
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
半数がブルーカラー転向を視野に? ベテランエンジニアを追い込む“54歳の壁”
-
2
PHP脆弱性「PHP2Shell」で2260万件に影響 情シスの緊急チェックリスト
-
3
Microsoft月例パッチ1400件超で過去最多 「限界点」を迎えたパッチ管理
-
4
「Microsoft 365」が乗っ取られる MFAを破る“本物の画面”の恐怖
-
5
みずほ証券が「液冷サーバ」を採用 1日3.6億件の計算を支えるための要件
-
6
SAP導入後も残る“Excel依存” 京急電鉄は「kintone」でどう解消した?
-
7
Claude利用8割のGMO、AI人材の評価軸が「トークン管理」に変わった
-
8
「Windows」の不要なファイルを安全に消して容量を空ける方法
-
9
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
10
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AI駆動攻撃にどう対抗する? 超速の攻撃からエンドポイントを保護する方法
-
2
2026年のサイバーセキュリティには何が必要か? 最新データに学ぶ傾向と対策
-
3
経験豊富な即戦力人材に直接アプローチできる、「攻めの採用」への転換術
-
4
「IT史に名を残すシステム障害」8選
-
5
最速72分でデータが流出? 最新の脅威トレンドや侵入手法から分かった防衛策
-
6
AI駆動開発のスピードと安全性を両立 「品質・セキュリティ管理」の実践ガイド
-
7
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
8
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
-
9
「標的型攻撃メール」事例・サンプル集
-
10
Microsoft 365のメールセキュリティ、3つの“死角”と追加で検討すべき対策とは
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー